表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/65

三年、長かった〜氷の大公が、誰にも見せない角度で口角を上げる夜

王都の反対側。古い修道院を改築した宿、その最上階。


漆黒の正装を肘掛けに掛けた男は、椅子に深く座り直し、初めて、息を吐いた。


七年仕えてきた側近すら、知らない呼吸の仕方だった。


「閣下。エイベル邸の周辺、配置完了しました」


寡黙な剣の側近が、扉の前から短く報告する。


「ご苦労」


ルーカスは答えず、窓の外、エイベル公爵邸のある方角を見ていた。


「……それと、閣下。差し出がましいことを申し上げますが」


「言ってみろ」


側近は、声をひとつ落とした。


「契約書に『()()()()()()()()()()()()』と求められた件、いかがなさいますか。あれは──」


「ああ」


ルーカスは、窓ガラスに映る自分の顔から、視線をそらした。


そらした横顔の口角が、ほんの少しだけ上がっている。今夜、この男が誰にも見せなかった角度の表情だった。


()()()()()()()()()()()()()()()()()


「と、申しますと」


「あの女が、自分の名前を契約書に書きたいと、わざわざ口にしなければならない国にいた。──それだけのことだ」


側近は、答えなかった。


主の声が、いつもより半度ほど低かったからだ。


ルーカスは、もう一度、窓の外を見た。


()()()()()()()


呟きは、夜の冷気に溶けて消えた。


ルーカスは椅子の背にもたれ、ようやく側近の方へ振り返った。


口角は、もう元の温度に戻っている。


「明朝、迎えの馬車を出す。──それと」


「は」


「あの女には、明日のうちに伝えるべきことが、ひとつだけある」


側近が片眉を上げた。


主の声に、今夜、初めて聞く種類の熱が混じっていた。


***


──翌朝。


エイベル公爵邸、二階奥。父の書斎の扉の前で、ロザリンドは一度だけ、深呼吸をした。


ノッカーに手を伸ばす前に、扉が、内側から開いた。


公爵は、もう外出着に着替えていた。


「入りなさい、ロザリンド」


夜会の話は、もう父の耳にも届いているらしい。


机の上には、封の切られた書状が一通。差出人の蝋印(ろういん)は、見覚えのある紋章だった。


その隣に、もう一通。


まだ封の切られていない、白い書状。


蝋印は──王家のものだった。


「ロザリンド」


父の声は、いつもより、半度ほど低かった。


「──お前、本当にいいんだな?」


ロザリンドは小さく頷いて、扉の内側へ足を踏み入れた。


退職届の宛先は、ここから先だ。


「三年前から見ていた」にきゅんとしたら【にこにこ】、「三年!?」と驚いたら【びっくり】を! ★がひとつ増えるたび、明日の更新が早足に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ