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第68話:おばあちゃん、初日の出の光で「世界の希望」を炊き上げる

1.東の空の微光と「はじまり」の呼吸

 

「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん、スノウさん。見てくださいな、東の空が、まるでお汁粉しるこの中に落としたお餅のように、少しずつ温かな色に染まり始めましたよ。……新しい年が、私たちの玄関をそっと叩いていますわ」

 

一月一日の、まだ星の名残が空に浮かぶ夜明け前。魔王城(隠居所)の、広々とした屋上のテラス。


私は、厚手の防寒着(第65話で縫い上げた『次元守護・慈愛の天衣』)を羽織り、凛と冷え切った空気の中で、深く、深く、新しい年の一番最初の呼吸を吸い込んで微笑みました。

 

この世界の設定において、元旦の夜明けは『刻印の黎明』。


この瞬間に抱いた感情が、その一年間の世界の属性を決定するという、極めて重要なシステム上の分岐点。


運営の本来のプログラムでは、ここで「黎明の覇権争い」が発生し、プレイヤーは一番最初の太陽の光を浴びて「神の加護」を得るために、山頂や塔の上で凄惨な場所取り合戦を繰り広げるはずでした。


空は奪い合いの火花で濁り、人々は隣人を蹴落とすことに必死で、太陽の美しさを愛でる者など一人もいない殺伐とした光景が常態化していたのです。

 

「はい、キヨ様。おしとやかな女性として、一年の計を静寂の中で立て、清らかな光を魂に宿すのは、まさに美徳の極致。……ですが、あちらの『世界樹の丘』、最速の光を浴びようと加速魔法を連発した冒険者たちが、空中で衝突して火だるまになりながら落下しておりますの。……おしとやかに、本当の『一番乗り』の意味を教えて差し上げる必要がありますわね」

 

セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界の『暁の女神』を数万体も召喚し、空全体を「光の散乱を防ぐプリズムの結界」で包み込もうとしていました。


彼女の召喚術は、今や全宇宙規模の光学制御システムですが、人々の焦る心までは静められません。


セシルさんの指先から零れる、真珠色に輝く微かな光が、地平線の境界線を優しくなぞり、太陽が顔を出すための「黄金の道」を整えていきました。

 

「……はつひので。……お日様、生まれる、瞬間。……私、お空が、赤くなるの、少し、怖い。……氷の私、溶けちゃいそうで。……でも、おばあちゃんの手、温かいから、大丈夫。……私、おばあちゃんと、一緒に、一番、最初の、光を、氷に、閉じ込めたい。……そしたら、一年中、おばあちゃん、眩しいでしょ?」

 

スノウさんは、無表情ながらも、期待と少しの緊張で私の指をぎゅっと握りしめていました。


彼女の純粋な魔力は、かつては光さえも凍らせて奪い去る「拒絶の闇」に近いものでしたが、今はおばあちゃんの知恵に触れることで、光を増幅させ、世界を彩る「プリズムの心」へと昇華していました。


スノウさんは、自分が作る氷のレンズが、太陽の光をただの「熱」ではなく、人々を優しく照らす「慈愛」へと変換するための、最高の装置になることを確信していました。

 

「ちょっと! 運営の『初夢ランキング』がキヨの笑顔を検知した瞬間に、測定不能で爆発したわよ! 『今年の幸福量、既にカンスト。以後のイベントは全てボーナスタイムとなります』って! 王都の広場でも、戦ってた連中が急にお互いの健康を祝って、お屠蘇とその回し飲みを始めたわ! キヨ、これじゃあ一年の目標が『現状維持』になっちゃうわよ!」

 

リタさんが、元旦の最初のお茶を淹れるための「魔法の茶釜」(実は第47話で掘り当てた、飲む者の寿命を自在に操る『不老長寿の釜』)を火にかけながら、あまりの平和さに呆れ顔で叫びました。

 

2.「おばあちゃんの知恵袋(初釜編)」

 

「あらあら、まあ。……現状維持は、最高の幸せですよ。……毎日が同じように穏やかであることほど、贅沢なことはありません。……よし、それならね、私が一年の健康を祈って、最初の一服を皆さんに振る舞いましょうか」

 

私は、魔王城の深い井戸から汲み上げた「若水わかみず」――実は昨夜の大掃除で地脈ごと浄化された、神の血よりも純粋な『創世の水』――を、釜へと注ぎました。

 

「はい、これをこうして……。新芽を摘んで丁寧に揉み上げた茶葉を、おしとやかに一煎。……セシルさん、このお茶の『和みの香り』を、初日の出の光に乗せて、全世界へ届けてくださる?」

 

「かしこまりました、キヨ様。……おしとやかに、古の『全霊融和・永久不変エターナル・ピース』の術式を、おばあちゃんの淹れるお茶の湯気に封じ込めさせていただきますわ。……この香りを吸った者は、二度と争いの虚しさに惑わされることはなく、隣人と手を取り合って歩む喜びを知るでしょう」

 

セシルさんが優雅に、そして万感の思いを込めて指先を弾くと、茶釜から立ち上る湯気が、透明な七色の龍となって、昇り始めた太陽の光と一つに溶け合いました。

 

【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(元旦の茶柱)が発動】

【ただのお茶が『運命転換・黄金の霊薬マザー・ブレッシング』へと昇華されました】

【効果:世界の属性を『闘争』から『共生』へ永続的に固定し、全人類に『ハナマルな人生』を保証する】

 

3.「ハナマル」の夜明けと終わらない物語

 

地平線から、太陽がその圧倒的な黄金の衣を翻して姿を現した、その瞬間。

 

シュォォォォォォォォン!!

 

魔王城のテラスから放たれた「お茶の香りを纏った日の光」が、惑星の影を隅々まで塗りつぶしていきました。

 

王都の山頂で場所取りをしていた冒険者たちも、その光を浴びた瞬間、殺気立っていた心が、まるで春の雪解けのように優しくほどけていくのを感じました。彼らは自然と座り込み、隣にいた元・敵対相手と「……いい、朝ですね」「ええ、本当に」と、静かに言葉を交わしました。

 

「……あ、あれ? 涙が出てきた。……俺、なんであんなに必死だったんだ。……お日様がこんなに綺麗で、お茶の匂いがこんなに懐かしいのに。……おばあちゃん、ありがとう。……俺、今年はおばあちゃんに会いに行こう」

 

「……おばあちゃん。……眩しい。……でも、熱くない。……お日様、おばあちゃんの、お顔、みたいに、笑ってる。……私、この、光、一生、忘れない。……私、明日も、明後日も、おばあちゃんの、お茶、淹れるね。……それが、私の、新しい、夢」

 

スノウさんは、おばあちゃんの腕の中で、ついに「神の加護」などよりもずっと尊い、「誰かと共に朝を迎える」という至高の幸福を悟りました。


彼女の瞳には、世界中のハナマルを集めたような、最高に輝かしい初日の出が映っていました。


セシルさんが「おしとやかに」演出し、リタさんが「お雑煮」の餅を丸め始めた、世界で一番静かで、世界で一番美しい「新しい世界の第一歩」が、今、ここに刻まれました。

 

【ワールドイベント:『おばあちゃんの全宇宙・永久和睦』が完遂されました】

【バフ付与:『ハナマルの毎日』。全人類の『生存』が保障され、以後の世界は『互いにお節介を焼き合う、最高に賑やかな隠居所』となります】

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