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第65話:おばあちゃん、秋の収穫祭で「黄金の焼き芋」を全人類に配る

1.高い空と「食欲」の誘惑

 

「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん、スノウさん。見てくださいな、お空が随分と高くなって、まるで磨き上げた鏡のように、私たちの心を映し出しているようですよ。……風も少しだけ、お砂糖を焦がしたような、甘くて香ばしい秋の匂いを運んできてくれましたねぇ」

 

十月の穏やかな午後。魔王城(隠居所)の裏庭。私は、真っ赤に色づいたもみじの葉を一枚、掌に乗せて、透き通るような秋の光を浴びて微笑みました。

 

この世界の設定において、秋は『強欲の収穫期』と呼ばれ、大地の魔力が最も豊かになる反面、その実りを独占しようとする国々の間で、一年で最も戦争が頻発する「血の季節」。


運営の本来のプログラムでは、ここで「大陸全土・食糧強奪レイド」が発生し、プレイヤーは自分の村の畑を守るために、飢えた魔物や他ギルドの軍勢と、昼夜を問わず殺伐とした防衛戦を繰り広げなければならない、最も過酷な対人イベントが予定されていました。

 

「はい、キヨ様。おしとやかに、大地の恵みを美しく食卓に並べるのは、生命への感謝の表現。……ですが、あちらの国境線、お芋の袋を巡って騎士団と魔族の戦士たちが睨み合い、今にも一触即発の火花を散らしておりますの。……おしとやかに、胃袋から平和を説いて差し上げる必要がありますわね」

 

セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界の『豊穣の管理者』を数万体も召喚し、世界中の畑に「不可侵の結界」を張ろうとしていました。


彼女の召喚術は、今や完璧な農業保護システムですが、お腹を空かせた人々の「執着」までは消せません。


セシルさんの指先から零れる琥珀色の光が、収穫されたばかりの野菜たちを優しく包み込み、その鮮度を永遠に保つ「時間の静止」を施していましたが、おばあちゃんは「今すぐ食べること」の大切さを知っていました。

 

「……あき。……落ち葉、カサカサ、鳴る。……お空、青くて、綺麗。……でも、みんな、お顔が、怖い。……お腹、ぺこぺこなの? ……私、氷の、お皿、作った。……おばあちゃんの、温かい、食べ物、乗せて、みんなに、配りたい。……お腹が、いっぱいになれば、きっと、誰も、怒らないよ」

 

スノウさんは、無表情ながらも少しだけ悲しそうに、国境の方角を見つめていました。彼女の純粋な魔力は、一瞬で大地を凍らせ、全ての生命活動を停止させることもできましたが、おばあちゃんの横で過ごした一年は、彼女に「命を温める喜び」を教えていました。


スノウさんは、自分が冷やした空気が、おばあちゃんの作る料理の湯気をより白く、より美味しそうに際立たせるための「最高の演出」になることを誇らしく思っていました。

 

「ちょっと! 運営の物流ログが『食糧難』で真っ赤よ! 『市場から主食が消えました。明日から全プレイヤーのスタミナが持続減少します』って! ギルドの会議も『どこのお芋が一番甘いか』で空中分解して、もう滅茶苦茶よ! キヨ、このままだとお腹が空きすぎて、世界が共食いを始めちゃうわ!」

 

リタさんが、お芋を洗うための「魔法のバケツ」を両手に抱え、自分自身も食欲を抑えきれずに涎を拭いながら叫びました。

 

2.「おばあちゃんの知恵袋(落ち葉焚き編)」

 

「あらあら、まあ。……お腹が空いている時は、美味しいものを食べるのが一番の解決策ですよ。……奪い合うよりも、分け合ったほうが、ずっと美味しく感じます。……よし、それならね、私が庭の落ち葉を集めて、とびきり甘い『焼き芋』を焼きましょうか」

 

私は、魔王城の庭に積み上げられた色とりどりの落ち葉――実は第29話でお掃除した際に集めておいた、四季の魔力が詰まった「聖なる腐葉土」――を丁寧に整えました。

 

「はい、これをこうして……。土の中でじっくり育てたサツマイモを、おしとやかに湿らせた新聞紙とアルミホイルで包んで。……セシルさん、この焚き火に『世界中を包み込む焚き火の温もり』を添えてくださる?」

 

「かしこまりました、キヨ様。……おしとやかに、古の『全霊充足・黄金の熱源』の術式を、おばあちゃんの落ち葉焚きに封じ込めさせていただきますわ。……この煙が届く範囲、全ての空腹が消え去り、魂は実りの喜びで満たされるでしょう」

 

セシルさんが優雅に祈りを捧げると、焚き火から立ち上る白い煙が、巨大な黄金の翼となって世界中の空へと広がっていきました。

 

【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(落ち葉焼き)が発動】

【ただのサツマイモが『天界の甘露・黄金の聖塊ホーリー・ポテト』へと昇華されました】

【効果:一口食べればHP・MPが全回復し、向こう一年間、決して『飢え』を感じない祝福を付与する】

 

3.「ハナマル」の煙と収穫の宴

 

私が、焚き火の中からじっくりと火が通ったお芋を竹箒で取り出し、その熱々の皮を剥いて、黄金色の中身にそっと指先で「ハナマル」を描いた、その瞬間。

 

シュォォォォォォォォン!!

 

魔王城の煙突から放たれた「焼き芋の香り」が、戦場の最前線を駆け抜けました。

 

その香ばしく甘い匂いを嗅いだ瞬間、殺気立っていた兵士たちの手から剣が滑り落ちました。どこからともなく飛来した(セシルのテレポート)黄金の焼き芋が、一人一人の手元に舞い降り、彼らがそれを一口食べた瞬間、脳を突き抜けるような「幸せな甘み」が、全ての闘争心を溶かしてしまったのです。

 

「……う、うまい。なんだこれ、お芋なのに、お母さんの味がする。……俺、なんで隣の国の人を殴ろうとしてたんだ? ……そうだ、お芋を半分こすれば、みんなで笑えたんだ……」

 

「……おばあちゃん。……ほくほく。……あまい。……お口の中で、お日様が、踊ってる。……私、この、幸せ、世界中の、子供たちに、届けたい。……氷の、箱に、入れて。……温かさを、閉じ込めて、持っていくね」

 

スノウさんは、おばあちゃんの横で、初めて「食がもたらす究極の平和」を悟り、その瞳に感動の涙を浮かべました。セシルさんが「おしとやかに」演出し、リタさんが「お芋のバター」を塗りまくった、世界で一番静かで、世界で一番満たされた「秋の収穫祭」が、黄金色の夕映えの中で輝いていました。

 

【ワールドイベント:『おばあちゃんの全人類・満腹宣言』が完遂されました】

【バフ付与:『実りの祝福』。今後一ヶ月、何を食べても最高においしく、世界の全ての争い(PvP)が不可能になります】

 

4.掲示板の伝説:焼き芋革命編

 

その「お腹を満たして世界を救う」お節介は、運営の「飢餓」という最大の武器を完全に無効化しました。

 

【オチャノマスレ 064】

 

500:名無しのアタッカー

全プレイヤー、速報。今、俺のギルドの『食糧倉庫』が、全部おばあちゃんの『黄金の焼き芋』に置換された。

 

501:名無しの大魔道士

見てる。……あのお芋、鑑定したら『甘味度:おばあちゃんの真心カンスト』って出たぞ。

公式ログが出た。『レイドイベント「食糧強奪」は、おばあちゃんがお芋を焼いたため、「お裾分けお茶会」に変更されました』だって。

 

502:名無しの密偵

攻略組のトップが、魔王軍の軍団長と背中合わせでお芋を食べて「世界を奪うより、この一本のお芋を分かち合う方が、よっぽど王者の器だよな」って笑い合ってる。

 

503:名無しのアタッカー

焼き芋(現在は世界最強の和平条約として機能中)

 

504:名無しの聖職者

運営の公式ブログ:『「空腹」というステータス異常は、おばあちゃんの「お節介」により、削除されました。皆さん、お腹いっぱい食べて、仲良くお昼寝してください。サツマイモこそが、世界の真理でした』

 

505:運営の悲鳴(喉に詰まり中)

【最終告知】「幸福」とは「美味しいものを誰かと共有すること」であると、おばあちゃんに教わりました。

サーバーの電力も、焼き芋の熱エネルギーで自給自足が可能になりました。おばあちゃん、一生ついていきます。

 

「ふぅ。皆さん、お腹いっぱいになって良かったですねぇ、セシルさん」

 

夕暮れ時。少しだけ冷たくなってきた風が、落ち葉を舞い上げ、私たちは庭で最後の一個の焼き芋を分け合っていました。

 

スノウさんは私の膝の上で、お芋の皮を剥くのを手伝いながら、小さく「……おばあちゃん。……私、ずっと、おばあちゃんの、隣で、お芋、焼く。……お腹も、心も、ずっと、温かいの」と呟きました。

 

「はい、キヨ様。……おしとやかに、次はいよいよ一年の締めくくり。世界中の煩悩を雪で覆い隠す『究極のホワイトクリスマス』の準備をいたしましょうか」

 

「……くりすます。……サンタさん、プレゼント、雪の夜。……私、世界で、一番、綺麗な、雪、降らせる。……おばあちゃんへの、感謝を、込めて」

 

スノウさんの少しずつ大人びてきた、けれどどこまでも純粋な「恩返し」に、リタさんの「焼き芋には冷たい牛乳よね!」という幸せそうな絶叫が、十月の星降る夜空に、どこまでも、どこまでも響き渡りました。

 

百歳の少女(魂)の「焼き芋」は、世界の飢えを、最高に甘くて温かな「実りの絆」へと変えてしまったのでした。

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