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第55話:おばあちゃん、お雛様の段飾りに「魔王城の四天王」を並べてしまう

1.三月の風と「女の子」の特権

 

「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん、スノウさん。カレンダーの数字が、なんだか可愛らしいピンク色のリボンを付けて、私たちに手招きしているようですよ。……もうすぐ三月三日、桃の節句ですねぇ」

 

魔王城(隠居所)の縁側。私は、日差しが少しだけ柔らかくなった庭を眺めながら、膝の上のクロを撫でて微笑みました。

 

この世界において『桃の節句』とは、太古の女神が眠りから覚め、世界に「生命の息吹」を吹き込む神聖な期間。運営の本来の設定では、この日に「深紅の桃源郷」という期間限定ダンジョンが解放され、プレイヤーは美しくも残酷な花の精霊たちと戦い、稀少な『桃の枝』を奪い合うという、華やかでありながらも殺伐とした争奪イベントが予定されていました。

 

「はい、キヨ様。おしとやかな女性として、春の訪れを祝う行事は、何よりも優先されるべきみやびな務めですわ。……ですが、あちらの王都の骨董屋、お雛様のセットが伝説のアーティファクト並みの価格で取引されており、若いお嬢さんたちが『自分たちには高嶺の花だわ』と肩を落としていらっしゃいますの。……おしとやかに、誰もが笑顔になれる『お雛様』を用意して差し上げる必要がありますわね」

 

セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界の『裁縫の守護神』を召喚し、一針縫うごとに春の香りが広がるという『千代紙』を魔法で編み上げていました。


彼女の召喚術は、今や「完璧な和雑貨工房」ですが、豪華な飾りを作るには、肝心の「お人形」が足りませんでした。

 

「……ひなまつり。……お人形さんを、飾って、幸せを、願う。……おばあちゃん、私、お人形、持っていない。……昔、氷で作ったけど、すぐ、壊れちゃった。……私、おばあちゃんと、セシル先輩と、リタ先輩、三人で、官女かんじょさん、やりたい」

 

スノウさんは、無表情ながらも、どこか切なげに自分の指先を見つめていました。


彼女にとっての「お人形」とは、かつて孤独だった氷の城で、自分を慰めるためだけに作った、魂のない氷の塊。しかし今、彼女の瞳には、生きた「家族」という名の、温かなお雛様の形が映っていました。

 

「ちょっと! 運営のサーバーから変な通知が来たわよ! 『魔王城に巨大な桃の木が出現。周辺エリアが強制的に【お茶会モード】に変更されました』って! 魔王様が、お雛様の台座にするために、暗黒大陸から【千年の紅桃】を根こそぎ持ってきたせいよ! キヨ、これじゃお城が植物園になっちゃうわ!」

 

リタさんが、お雛様の衣装にするための「最高級の正絹(実は魔力を反射する聖なる衣)」を抱え、巨大化した桃の枝に服を引っ掛けながら叫びました。

 

2.「おばあちゃんの知恵袋(即席段飾り編)」

 

「あらあら、まあ。……魔王さんも、お雛様が楽しみだったのね。……お人形さんは、買うものではなくて、身近にあるものを『見立てて』作るのが一番の贅沢なのですよ。……よし、それならね、魔王城にふさわしい、最高に立派な段飾りを作りましょうか」

 

私は、割烹着のポケットから「古い千代紙」と、第1話で龍からもらった「輝く宝玉」を取り出しました。

 

「はい、魔王さんは一番上の『お内裏様』ですね。……魔王妃様はお呼びできませんから、私が代わりに『お雛様』として隣に座りましょうか。……そして、三人の娘さんたちは『三人官女』。……あとの役職は……。四天王さんたち、ちょっとお手伝いしてくださる?」

 

私は、台所で暇を持て余していた魔王軍の四天王たち――破壊神、堕天使、死霊騎士、そして獣人王を呼び寄せました。

 

「はい、あなたたちは『五人囃子ごにんばやし』と『随身ずいしん』ですよ。……重たい鎧を脱いで、この烏帽子えぼしを被って。……セシルさん、皆さんを『お人形式』に可愛らしく仕立ててくださる?」

 

「かしこまりました、キヨ様。……おしとやかに、古の『擬人・人形化ドール・フォーム』の術式を、四天王の皆様の威圧感に封じ込めますわ。……お行儀よく、お雛様の守護神として並んでいただきましょう」

 

セシルさんが指を鳴らすと、屈強な四天王たちが、まばゆい光を放ちながら、可愛らしい二頭身の「生きているお人形」へと変貌しました。

 

【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(ひな祭りの見立て)が発動】

【魔王城の謁見の間が『超巨大・十五人飾り』へと昇華されました】

【効果:飾られた『お人形(四天王)』の魔力が、世界中の女の子への『健やかな加護』に変換される】

 

3.「ハナマル」のひなあられと春の訪れ

 

私が、緋毛氈ひもうせんを敷いた巨大な桃の木の壇に、四天王たちを配置し、最後にスノウさんが作った「氷の菱餅」を添えた、その瞬間。

 

シュォォォォォォォォン!!

 

魔王城から放たれた春の魔力が、王都を覆っていた「冬の最後の名残」を一瞬で桃色の霞へと変えてしまいました。

 

広場で高いお雛様を眺めていた女の子たちの手元に、空から(セシルのテレポート配送)「おばあちゃん特製のひなあられ」が降ってきました。それは、一粒食べるごとに成長痛が和らぎ、心が春の陽だまりのように温かくなる、伝説の滋養薬でもありました。

 

「……な、何これ!? お雛様が……魔王城のお雛様が、空に映し出されてる! お内裏様が魔王様で、お雛様がおばあちゃん!? 脇を固めるのが四天王!? これ、史上最強の防衛布陣じゃないか!」

 

王都の人々は、夜空に投影された「世界一豪華な段飾り」を見上げて、驚きと感嘆の声を上げました。

 

おばあちゃんの「見立て」は、恐ろしい魔族たちを、子供たちを守る「優しいお人形」へと変え、世界の不安を「春の喜び」へと塗り替えてしまったのです。

 

「ふぅ。皆さん、立派に並んでくださって良かったですねぇ、セシルさん」

 

夕暮れ時。桃の花が舞い散る魔王城の謁見の間で、私たちは「三人官女」の衣装を着たセシル、リタ、スノウと共に、甘酒とお粥を楽しんでいました。

 

スノウさんは私の膝の上で、お雛様の冠(実は氷で作った特製のもの)を被りながら、小さく「……おばあちゃん。……私、お人形、寂しくない。……みんな、一緒。……私、幸せな、女の子」と呟きました。

 

「はい、キヨ様。……おしとやかに、次は異界の『春一番の神』を招待して、世界中の汚れを吹き飛ばす『究極の春の大掃除』の準備をいたしましょうか」

 

「……お掃除。……私、氷の、雑巾、作った。……おばあちゃんと、一緒に、世界、ピカピカ、する。……約束」

 

スノウさんの真っ直ぐな、そして温かな言葉に、リタさんの「お雛様は早く片付けないと、私の嫁入りが!」という(もはや恒例の)幸せそうな絶叫が、春の夜空にどこまでも響き渡りました。

 

百歳の少女(魂)の「ひな祭り」は、世界の格差を、最高に賑やかで温かな「家族の祝祭」へと変えてしまったのでした。

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