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第52話:おばあちゃん、雪うさぎの南天の目に「春の道標」を灯す

1.深々と降る夜と「南天」の赤

 

「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん、スノウさん。今夜はお空が、随分とおしゃべりですねぇ。……しんしんと降り積もる雪の音が、まるでお布団を叩くような、優しいリズムを奏でていますわ」

 

一月の半ば。魔王城(隠居所)の縁側。私は、膝に毛布(第28話の聖なる手編み)を掛けながら、庭を真っ白に塗りつぶしていく雪を眺めて微笑みました。

 

この世界において、一月の深雪は『忘却の白』と呼ばれ、その雪に触れた者は少しずつ自分の大切な記憶や温もりを失い、やがて氷の像となって永遠に眠るという、過酷な「絶望デバフ」を伴う自然現象。運営の本来の設定では、この「極限凍結イベント」により、プレイヤーは街のシェルターに閉じ込められ、孤独と寒さに耐えるだけの忍耐月間となるはずでした。

 

「はい、キヨ様。おしとやかな女性として、白銀の世界に一抹の彩りを添えるのは、冬の風情を楽しむ最高の知恵ですわ。……ですが、あちらの王都の広場、この『忘却の雪』のせいで、恋人たちが互いの名前を忘れかけ、家族が温もりを見失い、寂しさで心が凍りつきそうになっておりますの。……おしとやかに、春を待つ勇気を灯して差し上げる必要がありますわね」

 

セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界の『光明の精霊』を召喚し、城内の暖炉に「消えない太陽の残り火」を焚いていました。


彼女の召喚術は、今や「完璧なメンタルケア・ヒーター」ですが、街全体を覆う孤独の吹雪を払うには、物理的な熱だけでは足りませんでした。

 

「……ゆき。……私の、お友達。……でも、この雪、悲しい。……みんなの、心を、白く、塗りつぶして、消しちゃう。……おばあちゃん、私、この雪を、キラキラの、宝石に、したい。……でも、やり方が、わからない。……どうすれば、いいの?」

 

スノウさんは、無表情ながらも瞳に切実な願いを宿し、庭に降り積もる雪を両手で掬い上げていました。 


彼女の純粋な冷気は、雪をより美しく、より硬く固めることはできても、そこに「命の温もり」を吹き込むことはできなかったのです。

 

「ちょっと! 運営の警告ログが赤色で点滅してるわよ! 『全プレイヤーの生存意欲が低下。強制ログアウトまであと一時間』って! キヨ、このままだと世界中の人たちが『寂しくて死んじゃう』っていうバグみたいな設定に呑み込まれちゃうわ!」

 

リタさんが、熱々の「甘酒(実はおばあちゃん特製の、一口で魂の芯まで温まるもの)」を配りながら、震える声で叫びました。

 

2.「おばあちゃんの知恵袋(雪うさぎ編)」

 

「あらあら、まあ。……寂しい時はね、小さなお友達を作って、一緒にお話しすればいいのですよ。……雪だってね、本当は誰かと遊びたいだけなんです。……よし、それならね、私がちょっと『春への案内役』を呼んであげましょう」

 

私は、割烹着のポケットから「南天の赤い実(実は第41話のお月見でお供えした、難を転ずる聖果)」と、第33話で使った「巨大ハタキの端切れ」を取り出しました。

 

「はい、雪をこんもりと丸めて、うさぎさんの形にして。……ハタキの端切れをお耳に。……スノウさん、この子に一番綺麗な『南天の瞳』を添えてくださる?」

 

「……はい、キヨ様。……私の、冷気で、実を、コーティングして。……一番、赤く、光る、宝石に、する。……雪うさぎさん、お目覚め。……ピカピカ、光って」

 

スノウさんがおしとやかに(セシルの指導の成果)指先をうさぎの顔に添えると、二つの南天の実が、まばゆい黄金の光を放ち始めました。

 

【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(雪うさぎ)が発動】

【雪の彫像が『春告げの神使・月雪兎つくよみうさぎ』に進化しました】

【効果:雪うさぎの視線が届く範囲の『忘却の雪』を『記憶の結晶』へと浄化し、春への希望を100%回復させる】

 

3.「ハナマル」の瞳と街の輝き

 

私が、庭に並んだ数十匹の雪うさぎたちに、竹箒で優しく「いってらっしゃい」の合図を送った、その瞬間。

 

『ピョン、ピョン……!!』

 

雪で作られたはずのうさぎたちが、生きているかのように軽やかに跳ね、魔王城から王都へ、そして世界中の凍てついた村々へと駆け出していきました。


うさぎたちの赤い瞳がキラリと光るたびに、周囲を覆っていた「忘却の雪」は、一瞬にしてキラキラと輝く「思い出の欠片」へと変わり、人々の心に家族の笑顔や、暖かな春の訪れを予感させる幸せな記憶を呼び戻しました。

 

「……あ、あれ!? 寒くない。……それに、そうだ、今日は娘の誕生日だった! 忘れてる場合じゃないぞ、急いでお祝いの準備をしなきゃ!」

 

王都のシェルターで項垂れていた父親が、足元を横切った雪うさぎの光を浴びて、元気いっぱいに立ち上がりました。

 

一匹、また一匹と、雪うさぎたちが世界中を駆け巡り、絶望に沈んでいた大地に、紅色の「希望の足跡」を刻み込んでいったのです。

 

「ふぅ。皆さん、温かな気持ちを思い出して良かったですねぇ。……スノウさん、この子たちのために、特製の『人参(おばあちゃん特製の、魔力を回復させるもの)』を用意しましょうか」

 

「……はい、キヨ様。……雪うさぎさん、お疲れ様。……私、氷の、お皿、作った。……みんなで、仲良く、食べて。……春、連れてきて」

 

スノウさんは、自分が生み出した雪が「誰かの希望」へと変わったことに、心からの安堵と誇りを感じていました。


セシルさんが「おしとやかに」演出した、世界で一番静かで、世界で一番温かな「雪のパレード」が、夜明けの空を彩りました。

 

【ワールドイベント:『おばあちゃんの春告げパレード』が完遂されました】

【バフ付与:『絆の回帰』。今後一ヶ月、離れ離れのプレイヤー同士が磁石のように引き寄せられ、再会が保証されます】

 

4.掲示板の伝説:雪うさぎ革命編

 

その「小さなお節介」が起こした奇跡は、全プレイヤーの心を融かしました。

 

【オチャノマスレ 052】

 

200:名無しのアタッカー

全プレイヤー、泣け! 今、庭を横切った「雪うさぎ」と目が合ったら、亡くなったおばあちゃんの笑顔を思い出して、涙が止まらなくなったぞ。

 

201:名無しの大魔道士

見てる。……あの赤い目、鑑定したら『照度:春への祈り(無限)』って出た。

猛吹雪が、うさぎの光を浴びた瞬間に『綿菓子』みたいなふわふわの雪に変わったんだが。

 

202:名無しの密偵

攻略組のリーダーが、雪うさぎに案内されて「俺、今まで効率ばかり気にしてたけど、これからはみんなの笑顔のために剣を振るよ」って、今、雪だるま職人に転職したぞ。

 

103:名無しのアタッカー

雪うさぎ(現在は世界一のメンタルケア・ナビゲーター)

 

204:名無しの聖職者

運営の公式ブログ:『「極限凍結」という過酷なシーズン設定が、おばあちゃんの「雪うさぎ」により、「思い出振り返り月間」に書き換えられました。孤独な戦いは終わりです。皆さん、雪うさぎと一緒に春を待ってください』

 

105:運営の悲鳴(雪うさぎ抱っこ中)

【最終告知】「冷たさ」とは「温もりを忘れている状態」であると、おばあちゃんに教わりました。

サーバーの冷却ファンも、おばあちゃんが「うさぎさん、お疲れ様」って撫でたら、いい音で回り始めました。

 

「ふぅ。皆さん、優しいお顔で春を待てそうで何よりですねぇ、セシルさん」

 

夜明けの光が、真っ白な庭を黄金色に染め上げる頃。私たちは、役目を終えて戻ってきた雪うさぎたちを、囲炉裏のそばで(溶けないように結界を張って)労っていました。

 

スノウさんは私の膝の上で、一番小さいうさぎをそっと撫でながら、小さく「……おばあちゃん。……私、この冬、忘れない。……うさぎさんと、一緒に、春の、扉、開ける」と呟きました。

 

「はい、キヨ様。……おしとやかに、次は異界の『節分の鬼』を召喚……いえ、ご招待して、世界中の厄災を豆一粒で吹き飛ばす『究極の豆まき大会』の準備をいたしましょうか」

 

「……まめまき。……鬼さん、可哀想。……私、鬼さんに、氷の、お面、作った。……かっこよく、してあげて、お友達、なる」

 

スノウさんの優しさが溢れる提案に、リタさんの「豆は年の数だけ食べなさいよ!」という幸せそうなツッコミが、清々しい冬の朝に響き渡りました。

 

百歳の少女(魂)の「雪うさぎ」は、世界の絶望を、最高にキラキラした「春の道標」へと変えてしまったのでした。

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