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第50話:おばあちゃん、新年の書き初めで「世界の仕様書」を修正する

1.新春の静寂と「真っ白な紙」

 

「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん、スノウさん。初日の出さんも、今日は心なしかピカピカに磨き上げられた鏡のように、眩しく世界を照らしていますねぇ。……さあ、新しい年が始まりました。真っさらな気持ちで、今年の目標を書きましょうか」

 

一月一日の朝。魔王城(隠居所)の広間。凛とした冬の空気が、お香の香りと混じり合い、背筋が自然と伸びるような心地よい静寂に包まれていました。


私は、文机ふづくえの前に座り、真っ白な長い半紙を広げて微笑みました。

 

この世界において『書き初め』とは、元旦に一年の「ことわり」を定める神聖な儀式。運営の本来の設定では、この日に「運営からの過酷なアップデート告知」が空に投影され、プレイヤーは新たな強敵や厳しさを突きつけられる『絶望の宣告日』となるはずでした。

 

「はい、キヨ様。おしとやかな女性として、墨の香りを楽しみながら筆を運ぶのは、高潔な精神の証明ですわ。……ですが、あちらの天空のモニター、運営が『新春・地獄の連続討伐クエスト』の仕様書をアップロードしようと、データの渦が不気味に渦巻いておりますの。……少々、お行儀の悪いプログラムが混じっているようですわね」

 

セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、異界の『真理の守護者』を召喚し、空中に浮かぶデジタルな文字列を「校閲こうえつ」していました。


彼女の召喚術は、今や「完璧なシステム監査システム」ですが、運営が放つ「難易度上昇」の波は、津波のように押し寄せてきていました。

 

「……書き初め。……私、お習字、初めて。……でも、おばあちゃん、見てて。……私、『みんな、仲良し』って、書きたい。……お空の、怖い文字、私が、氷で、消してあげる」

 

スノウさんは、無表情ながらも瞳に強い意志を宿し、指先から透明な「氷の文鎮(宇宙の重力を固定する聖遺物)」を生み出し、私の半紙をしっかりと押さえてくれました。


彼女の純粋な魔力は、システムからの干渉を完全に遮断する、最強のアンチウイルス・シールドとなっていました。

 

「ちょっと! 空の仕様書がバグり始めてるわよ! 『今年の目標:全プレイヤーに苦難を』っていう文字が、キヨが筆を持った瞬間に『今年の目標:全プレイヤーに美味しいおやつを』に、勝手に書き換わろうとして抵抗してるわ!」

 

リタさんが、お屠蘇(実は超回復の薬湯)を配りながら、空を見上げて叫びました。

 

2.「おばあちゃんの知恵袋(書き初め編)」

 

「あらあら、まあ。……難しい言葉ばかり並べては、神様も読むのが大変ですよ。……もっと、皆さんがニコニコできるような、分かりやすい言葉で書き直しましょうね。……セシルさん、例の『特大の筆』を持ってきてくださる?」

 

私は、割烹着のポケットから「墨(実は第49話で煩悩を洗った後の、純粋な徳が凝縮された墨石)」を取り出し、すずりでゆっくりと、魂を込めてすり始めました。

 

「はい、これをこうして……。深呼吸をして、一筆入魂です。……セシルさん、この筆に『世界のページをめくる力』を添えてくださる?」

 

「かしこまりました、キヨ様。……おしとやかに、古の『世界再編・綴織つづれおり』の術式を、おばあちゃんの筆先に封じ込めさせていただきますわ」

 

セシルさんが指を鳴らすと、私の手にした筆が、全宇宙の光を吸い込んだかのように黄金色に輝き始めました。

 

【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(新春の添削)が発動】

【世界の仕様書システム・ログが『おばあちゃんの家計簿・新春版』として上書きされました】

【効果:アップデート内容が全て『生活の向上』と『ご近所づきあいの改善』に置換される】

 

3.「ハナマル」の世界と神様の降参

 

私が、天に向かって大きく「和」という一文字を書き上げ、最後に力強く「ハナマル」を添えた、その瞬間。

 

『キ、キヨ殿……! 我々の考えた【超絶難易度・滅びのシナリオ】が……おばあちゃんの【お裾分けのシナリオ】に全ページ書き換えられてしまった……!』

 

空の彼方から、運営神マスター・プログラマーの、驚愕と、そしてどこか救われたような震え声が響き渡りました。

 

空に投影されていた「地獄のクエスト」の文字が、黄金のハナマルに触れた瞬間に溶け去り、代わりに『一月:みんなで七草粥を食べよう』『二月:みんなで温かいマフラーを編もう』という、最高にほのぼのとした「暮らしの予定表」が空いっぱいに広がりました。

 

「……あ、あれ? 武器の攻撃力が下がった……と思ったら、料理の成功率が1000%になってる! しかも、このアップデート内容、全部『おばあちゃんの知恵袋』の解説付きだぞ!」

 

世界中のプレイヤーたちは、空を見上げて涙を流しました。戦いに疲れていた彼らの心に、おばあちゃんの書いた「和」の文字が、最高に温かな「赦し」として染み渡っていったのです。

 

「ふぅ。皆さん、いいお正月になりそうですねぇ。……スノウさん、この書き初めを、門のところに飾っておきましょうね」

 

「……はい、キヨ様。……私、この文字、大好き。……世界で、一番、強い、お守り。……私が、氷の、額縁がくぶち、作った。……ずっと、ずっと、守る」

 

スノウさんは、おばあちゃんの書いた「和」の字を、決して溶けない永遠の氷で包み込みました。


セシルさんが「おしとやかに」演出した、世界で一番静かで、世界で一番大きな「新年の約束」が、初日に照らされて燦然と輝きました。

 

【ワールドイベント:『おばあちゃんの創世書き初め』が完遂されました】

【バフ付与:『世界平和』。今後一年間、全ての争いによるダメージが、お裾分けのアイテムに変換されます】

 

4.掲示板の伝説:仕様書修正編

 

その神をも畏れぬ(愛する)「添削」は、全プレイヤーの魂を浄化しました。

 

【オチャノマスレ 050】

 

100:名無しのアタッカー

全プレイヤー、祝杯だ! 今年の運営方針が「全肯定おばあちゃんモード」になったぞ!

 

101:名無しの大魔道士

見てる。……あの「ハナマル」、鑑定したら『威力:世界のシステム・ゴッド』って出た。

ラスボスの設定が「おばあちゃんの肩を揉む仕事」に変更されたんだが。

 

102:名無しの密偵

攻略組のトップが、おばあちゃんの書いた「和」の字を見て「俺、最強の剣を売って、最強のすきを買ってきた」って、今、畑を耕し始めたぞ。

 

103:名無しのアタッカー

書き初め(現在は世界の基本憲法として機能中)

 

104:名無しの聖職者

運営の公式声明:『おばあちゃんの添削により、プログラムの矛盾バグが全て「優しさ」として統合されました。もう我々にできることはありません。おばあちゃんの指導に従い、一服させていただきます』

 

105:運営の悲鳴(みかん摂取中)

【最終告知】「管理」とは「お節介」であると、おばあちゃんの筆に教わりました。

これからの世界は、おばあちゃんが決めた「和」のままに動きます。皆さん、今年も良いお年を。

 

「ふぅ。皆さん、穏やかな気持ちで過ごせそうで何よりですねぇ、セシルさん」

 

初日の高い午後。魔王城の庭では、ポチとクロが「お年玉(おばあちゃん特製の骨と魚)」を前に、お行儀よくお座りをしていました。

 

スノウさんは私の膝の上で、お屠蘇を少しだけ舐めて顔を赤くしながら、小さく「……おばあちゃん。……私、おばあちゃんの、書いた、ハナマル、みたいな、女の子に、なりたい」と呟きました。

 

「はい、キヨ様。……おしとやかに、次は異界の『お雑煮の神』を招待して、世界中の人々が一生食べ物に困らない『無限の角餅』を振る舞いましょうか」

 

「……おもち。……私、冷やして、固めない。……びよーん、って、みんなで、伸ばす。……幸せ、伸ばす」

 

スノウさんの少し酔っ払ったような、けれど力強い決意に、リタさんの「飲み過ぎに注意しなさいよ!」という幸せそうなツッコミが、雲一つない新春の空に響き渡りました。

 

百歳の少女(魂)の「書き初め」は、世界の残酷な運命を、最高に温かな「新春の喜び」へと書き換えてしまったのでした。

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