第14話:おばあちゃん、禁断の呪物を「古新聞のゴミ捨て場」で再利用する
1.大掃除の後の「もったいない」
「あらあら、まあ。……セシルさん、リタさん。お掃除をしたのはいいけれど、こんなにたくさんガラクタが出てきてしまいましたねぇ」
魔王城の離れとなった浮遊島の広場で、私は山のように積まれた「ゴミ」を見上げて、困ったように眉を下げました。
そこにあるのは、魔王が千年の間に略奪してきた『呪われた暗黒剣』、ゼウスが投げ捨てた『折れた雷撃の槍』、そして正体不明の『魂を吸う魔瓶』……。
どれも一つあれば一国を滅ぼせる禁断の呪物ですが、今の私の目には、ただの「かさばる粗大ゴミ」にしか見えません。
「キヨ様。おしとやかな女性として、これほど不浄なものを放置しておくのは心が痛みますわ。……今すぐ異界の『奈落の掃除機』を召喚して、時空の彼方へ吸い込ませましょうか?」
セシルさんは、おしとやかに微笑みながら、右手にどす黒い魔力球を凝縮させています。彼女の「お片付け」は、時々過激になるのが玉にキズです。
「ダメよセシル! そんなことしたら、時空の彼方の住人が迷惑するでしょ!」
リタさんが慌ててツッコミを入れました。彼女は最近、キヨさんの「お節介」とセシルの「無自覚な高火力」の間で、唯一の良心として胃を痛めるのが日課になっています。
「いいえ、皆さん。捨てる神あれば拾う神あり、ですよ。……リタさん、物置から『古新聞』を持ってきてちょうだい。今日はこれらを再利用しましょう」
2.呪いの剣で「芋の皮むき」
私は、漆黒の炎を吹き出し、触れる者の正気を奪うという『呪われた暗黒剣・エクリプス』を、素手でひょいと持ち上げました。
「ギャアアアッ! 我は絶望を司る剣! 貴様の魂を闇に――」
「はいはい、騒がないの。……あら、この剣、先っぽが少し丸くなっていますね。これではジャガイモの芽が取りにくいわ」
私は、その辺に落ちていた「聖なる砥石(実は伝説の勇者の遺品)」で、暗黒剣をシャッシャッと研ぎ始めました。
【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(研ぎ直し)が発動】
【暗黒剣の『呪い』が『驚異の切れ味』へと研ぎ澄まされました】
【属性が『闇』から『ステンレス製並みの錆びにくさ』へ変化しました】
「な……我の呪いが……!? ただの『使いやすい包丁』にダウングレードされただと……!?」
「ほら、見てください。皮が透けるように剥けますよ。セシルさん、次はこの『魂を吸う魔瓶』を洗ってくださいな」
私は、触れた者の魂を永遠に閉じ込めるという魔瓶を、セシルさんに手渡しました。
「承知いたしました、キヨ様。……おしとやかに、異界の『超高圧洗浄精霊』を注ぎ込み、中身の怨念を完全に洗い流しますわ」
シュゴォォォー! という凄まじい音と共に、魔瓶の中から千年の悲鳴が消え去り、ピカピカの透明な瓶に変わりました。
「あら、綺麗。これなら『らっきょう』を漬けるのにぴったりですねぇ」
3.古新聞と「雷の槍」の意外な使い道
最後に残ったのは、ゼウスが投げ捨てた『折れた雷撃の槍』でした。バチバチと青白い火花を放ち、周囲の空気を焼き焦がしています。
「これは危ないですねぇ。……リタさん、古新聞を濡らして持ってきてください」
私は、濡らした古新聞を槍の折れた部分に幾重にも巻き付け、その上からビニール紐(実は異界の拘束鎖)で固く縛りました。
「キヨ……。新聞紙で雷を防ごうなんて、さすがに無茶よ……」
「リタさん、古新聞は万能なのですよ。……ほら、こうして」
私は古新聞を巻いた槍を、今朝洗ったばかりの「濡れた洗濯物」が並ぶ物干し竿の支柱として、地面に突き刺しました。
【スキル:おばあちゃんの知恵袋(廃品利用)】
【伝説の武器が『自家発電機能付き物干し竿』に改造されました】
【効果:洗濯物が三秒で乾き、ついでにポチの小屋の照明も賄います】
「……槍が……全能の神の武器が……洗濯機と乾燥機のハイブリッドに……」
リタさんは、黄金に輝くポチの小屋が、槍の余剰電力で煌々と照らされるのを見て、ついに膝をつきました。
魔王もゼウスも、自分たちの誇り高き武器が「家庭用品」に変わっていく様子を遠くから眺めながら、仲良くお茶を啜っていました。
「……ゼウスよ。我の剣、今は大根の面取りに使われておるぞ」
「……気にするな魔王よ。我の槍などは、今や靴下を乾かすための『棒』だ」
4.掲示板の伝説:リサイクル編
【エタファン攻略スレ 013】
300:名無しのアタッカー
全プレイヤーに報告。レアアイテムの相場が大暴落した。
301:名無しの大魔道士
なんでだよ! 暗黒剣とか一本で金貨億超えだろ!
302:名無しの密偵
ギルドにキヨちゃんがやってきて、「物置から出たガラクタですけど、何かに使えますか?」って呪物を一山持ってきたんだ。
鑑定士が死にそうな顔で言ってたぞ。「これ、呪いが消えて『最高級のキッチン用品』になってる……」ってな。
303:名無しのアタッカー
暗黒剣(皮むき器)
魔瓶(らっきょうの瓶)
304:名無しの商人
今、王都のセレブの間で「キヨちゃんブランドの古新聞」が空前の大ブームだ。
「おばあちゃんが巻いた新聞紙は、どんな結界よりも硬い」って、防具屋が泣きながら古新聞を買い占めてる。
305:運営の悲鳴
【緊急】ゲーム内の「最強装備」の定義が変更されました。
古新聞 2. 割烹着 3. 竹箒
伝説の聖剣(笑)は現在、キヨさんの家の「裏庭の草むしり用」として使用されています。バランス調整は不可能です。
「ふぅ。これで物置もすっきりしましたねぇ、セシルさん」
夕暮れ時。自家発電で明るくなった庭で、私たちは漬けたてのらっきょうを試食していました。
隣では、リタさんが「暗黒剣」で器用にリンゴの皮を剥いて、ポチに食べさせています。
「リタさん、上手になりましたねぇ。やっぱり道具は使ってあげてこそですよ」
「……もう、皮むきスキルのレベルがカンストしちゃったわよ。私の冒険者としてのアイデンティティが、どこへ向かってるのか分からないわ……」
リタさんは溜息をつきましたが、その顔はどこか晴れやかでした。
百歳の少女(魂)の「もったいない精神」は、世界中の恐怖を、温かな「生活」の一部へと溶かしていくのでした。




