第8話(後編):散策の街、仲間の街
三日間の激務を終えた加賀谷零に与えられた、つかの間の休日。文官たちとともに歩く城下町で、彼は“国家”の輪郭を少しずつ実感していく──。
「おい、そっちの団子屋、もう開いてるぞ!」
朝の陽射しが差し込む城下町。食べ歩きの先頭を切ったのは、元軍属の文官バルロスだった。
そのがっしりした体躯に不釣り合いなほど小さな串団子を大切そうに受け取り、店主に銀貨を差し出す。
「おう、また来てくれてありがとよ!」
「ここの団子は格別だからな。昨日も食ったが、二日連続でも全然いける」
店主がにこやかに釣銭を返したその時。
「……ん?」
バルロスが受け取った銀貨の一枚をじっと見つめる。
「ちょっと、これ……軽い気がする」
「え?」
加賀谷がすぐさま反応し、銀貨を手に取った。
「……確かに。他の銀貨よりわずかに軽い。模様も微妙に歪んでる」
「偽造の可能性があるな」
グレイが肩越しに覗き込み、厳しい目を向けた。
「秤を借りましょう。すぐに確認を」
カリナが足早に近くの道具屋へ走る。
数分後、銀貨は本物より約0.4グラム軽いことが確認された。
「混ぜ物だな……これは鉛か」
エルネスが眉をひそめる。
「釣銭に紛れているってことは、流通してる」加賀谷の表情が険しくなった。
「数のバランスと流通経路を洗おう」
「通貨が信頼を失えば、国家の信用も地に落ちる。これは、見逃せない問題だ」
*
団子屋の裏で事情を聞くと、店主も驚いていた。
「いやぁ……昨日、よく見ずに受け取っちまったかもしれねぇ」
「どこからの客が支払ったか覚えてるか?」と、加賀谷。
「確か、北の街道から来た旅の商人が……」
「分かった。取引経路を追跡しよう」
城下町の平穏な散歩が、一転して調査行へと変わった。
*
団子の甘さとは裏腹に、国家経済の苦味が忍び寄っていた。小さな銀貨一枚が、やがて国の根幹を揺らす事件の導火線となる──。
そして、加賀谷たちは再び、“数字の裏”に潜む問題と向き合うことになるのだった。