第六十九の魔法「発見と屈辱」
初めて着た女子用の制服。スカートが、すごい不安に感じてしまう。あまりにも無防備すぎではないだろうか。生涯で初めてスカートを着用したから来る感情だった。
「なんか……変な感じだ」
もう一度、部屋のドアを開ける。今度はゆっくりと、開けることにした。左右を確認して、誰もいないことを念押しする。そして、再び鏡の前に立つ。
これが、自分自身なのか。クロは正直にそう感じた。帽子も脱ぎ、髪を整えてみる。鏡の前にいる自分は、女の子だった。
自分なりに女の子っぽい仕草をしてみる。笑顔であったり、上目づかいであったり。後ろを向いて、くるっと一回転してからの満面の笑顔。
やばい、何か変なスイッチが入った感じがした。自分だけなのに、ものすごい恥ずかしい気分になる。それに加えて、ちょっとだけ気分も良くなってきた。
もしかしたら、けっこう似合っているのかも。
「ねぇ、クロ。明日のことで聞きたいことがあるんだけど」
その言葉と同時に、部屋のドアが開いた。ほっぺたに指を添えて、ちょっと首を曲げての笑顔のポーズの最中だった。ノックもせずに入ってくるのはサフィラだった。
「あ……」
「……よう……」
服を着替える時間など微塵もなく、女子の制服を着ているところをサフィラに目撃される。
「え……えっと、これはだな……」
弁明する時間もなく、サフィラは大声を出して笑った。
ごめんごめん、とサフィラはベッドの上で顔を両手で覆い隠しているクロに謝った。クロはまだ、女子の制服を着ている。
「突然だったから、びっくりしちゃって」
「そんなに、似合わないかよ……」
「ううん、そういう意味で笑ったんじゃなくて、でも、けっこう似合っているわよ」
その声に反応して両手で顔を覆っていたクロの顔はサフィラのほうを向く。
「ほ、本当かよ……」
「うん、うん。似合っている。やっぱりクロも女の子なんだからちゃんとした制服着ないとね。せっかくの美人が台無しだよ」
自分は美人なのか?クロは素直にそう思った。
「美人って……サフィラのほうが美人だろ?」
「まぁ、そうだけど。私に比べたらまだまだだけどね」
「その割には男子が寄ってこないよな」
「高嶺の花って呼んでほしいわね」
「近づきたくないだけだって。お前みたいな凶暴女」
「なんですって!もう一回言ってみなさいよ!」
「クラスの男子みんな知ってるぞ。お前とトラゴスのやり取り見てれば嫌でも幻滅するだろ」
「う……」
その言葉の後、急に黙り込んだサフィラ。しかし、少し経った後で笑いだした。
「なんか、アンタとこうして話すの久しぶりよね」
「そういえば、そうだな」
二年生になってからは授業が難しくなり、勉強についていくのにもやっとだったから。こうして、友人とゆっくり話すのは本当に久しぶりだった。
「じゃあ、またね」
「おぅ、またな」
「ダメ」
「は?」
「もっと女の子らしく」
「……」
「早く言わないとここで大声出すわよ?」
「……またね、サフィラちゃん」
笑顔で一言。
口を押さえたサフィラが無言で手を振りながら扉を閉める。
そのあとで、最初のような大笑いが聞こえた。
「殴りてぇ……」
更新日を変更したいと思います。
前は毎週木曜日だったのですが、今回から毎週金曜日にしようと思います
ので、よろしくお願いします。