第四十六話:未練
白い空間。
ひびの入った黒。
その奥に、カイトがいる。
ぼやけた輪郭。
まだ、完全には戻っていない。
「……帰りたいからでしょ」
ユウリの言葉が、静かに残っている。
カイトは答えない。
ただ黒が、揺れている。
レンが一歩前に出る。
「おい、聞こえてんだろ」
反応はない。
それでも続ける。
「勝手に終わらせんな」
強く言う。
「こっちはまだ終わってねえんだよ」
黒がわずかに揺れる。
カイトの声が小さく返ってくる。
「……終わってる」
「全部……繋がった」
断片的に言う。
「ユウリは戻った」
「グロキシニアも収まった」
「世界も……崩れてない」
一つずつ確認するように。
「だから、いい」
ユウリが首を振る。
「よくない」
カイトが言う。
「なんで」
本気で分からない。
ユウリが言う。
「わたしが嫌だから」
理屈じゃない。
カイトは想定していなかった言葉に、詰まる。
レンが笑う。
「そういうことだ」
肩をすくめる。
「理屈じゃねえんだよ」
カイトが呟く。
「……でも、代償が――」
言いかけたが、レンが遮る。
「知るか。そんなもん後で考えろ」
らんぼうだが真っ直ぐな眼差し。
「今は戻れ」
命令のように言う。
カイトが沈黙する。
黒が、わずかにひび割れる。
だが、まだ足りない。
ユウリが、ゆっくりと一歩近づく。
手が届く距離。
「ねえ」
優しく呼ぶ。
カイトが、わずかに顔を上げる。
ユウリの青と黒が統合された目を見る。
全部を受け入れた目。
「わたし」小さく言う。
「ちゃんと戻れた」
「でもね」続ける。
「ひとりじゃ無理だった」
レンを見る。
そして「カイトがいたから」
カイトの目が揺れる。
感情が、戻り始める。
ユウリが手を伸ばす。
「だから、今度は、わたしがやる」
役割が、入れ替わる。
カイトが震える。
黒く覆っていた何かが崩れ始める。
「……でも、俺が戻ったら」
「また書き換えるかもしれない」
「また壊すかもしれない」
ユウリが言う。
「いいよ」
カイトが止まる。
「……は?」
ユウリが続ける。
「その時は、また止める」
逃げない答えにレンが笑う。
「俺もいるしな」
「今度は腕一本で済まねえかもしれねえけど」
軽く冗談を言う。
だが、言葉自体は本気。
ファリンの声が、遠くから届く。
「私もいるわ」
「一人で背負わせない」
ひびが広がる。
「……なんだよ、それ」
かすれた声で小さく笑う。
“カイト”の声。
ユウリも笑う。
「仲間」
そしてカイトが、ゆっくりと手を伸ばす。
震えている。
怖い。それでも止めない
ユウリの手に触れる。
その瞬間黒が、一気に崩れる。
光が、溢れる。
白い空間が色を取り戻す。
「……帰るか」
カイトが言う。




