第四十四話:対価
静かな部屋。
機械音だけが一定に響いている。
だが、その中心だけ異質だった。
ベッドの上のカイトの体が、ところどころ透けている。
まるで存在が削れているように。
レンが低く言う。
「……どれくらいだ」
デイジーがモニターを見る。
数秒。
そして。
「……持って、数時間」
空気が一気に冷える。
ファリンが眉をしかめる。
「そんなに……」
デイジーが続ける。
「原因は明確」
モニターを指す。
「“書き換え”」
カイトの能力、物語固定。
それは、ただの干渉じゃない。
「世界の進行そのものに触れてる」
レンが言う。
「だから削れるってか」
デイジーは頷く。
「等価交換」
静かに。
「書き換えた分だけ、“自分”を消費してる」
言葉が、重く落ちる。
ユウリがカイトを見る。
「……じゃあ」
小さく言う。
「戻せばいい」
単純な発想だが、デイジーが首を振る。
「無理」
「もう書かれたものは、戻せない」
ルールは絶対。
ファリンが補足する。
「一度確定した“物語”は覆らない」
冷静に。
「それがこの世界の前提」
レンが舌打ちする。
「クソ仕様だな」
本音だが現実。
ユウリが一歩前に出る。
「じゃあ、足せばいい」
全員が見ると、ユウリは続ける。
「減った分、わたしが埋める」
意味は分かる、だがデイジーが言う。
「それ……同じことになるよ」
「あなたが削れる」
ユウリは頷く。
「うん」
あっさりと迷いがない。
レンが即座に強く言う。
「ダメだ」
ユウリが振り向く。
レンは続ける。
「それでお前まで消えたら意味ねえだろ」
だがユウリは静かに言う。
「消えない」
レンが眉をしかめる。
「なんで言い切れんだ」
ユウリが答える。
「ひとりじゃないから」
胸に手を当てる。
そこにはグロキシニア。
統合された存在。
「分散できる」
新しい発想にファリンの目が変わる。
「……負荷を分ける?」
ユウリは頷く。
「たぶん」
確証はない。
だが。理屈は通る。
デイジーが急いで計算を始める。
「待って……理論上は……」
モニターを操作する。
数値が流れる。
「……いけるかもしれない」
「感情出力を媒体にすれば……」
「存在の“密度”を補填できる」
専門的な言葉。
だが、意味は一つ。
カイトを“繋ぎ止められる可能性”
レンが聞く。
「リスクは」
デイジーが止まる。
そして、「……高い」
「最悪、三人とも崩壊する」
沈黙。
ファリンが言う。
「それでもやるの?」
ユウリを試すように見る。
ユウリは迷わない。
「やる」
即答。
レンが息を吐く。
「……だろうな」
苦く笑う。
分かっていた。止められない。
なら。
「俺もやる」
ユウリが驚く。
「レン?」
レンが続ける。
「お前だけに背負わせるかよ」
当たり前のようにファリンが呟く。
「……バカばっかり」
だがその口元が、わずかに緩む。
完全に否定はしない。
デイジーが言う。
「時間ない!」
「準備する!」
急速に動き出す。
機材、配線、d臨時の接続装置。
「ターミナルを簡易接続する!」
本来は危険な行為。
だが、今はそれしかない。
ファリンが装置を操作する。
「三点同期……」
「負荷分散……」
「制御は私がやる」
冷静に。
だが、手は速い。
レンがカイトの横に立つ。
ユウリも反対側に。
二人で、挟むように。
「……絶対戻せよ」
レンが言う。
ユウリが頷く。
「うん」
デイジーが叫ぶ。
「接続開始!!」
機械音が変わる。
低い振動で空気が揺れる。
ユウリがカイトの手を取る。
冷たい。
薄い。
今にも消えそうな感触。
「……カイト」
小さく呼ぶが反応はない。
それでも
「行くよ」
その瞬間光が走る。
ユウリの体から、青と黒の光が溢れる。
レンの体にも流れ込む。
右腕の亀裂が広がる。
「っ……!!」
痛む、だが止めない。
ファリンが叫ぶ。
「同期開始!!」
三人の意識がカイトへ繋がる。
流れ込む。失われた“存在”を埋めるように。
その瞬間、カイトの指がわずかに動く




