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東京2038  作者: たくたく
第一章
1/18

民間刑事1

2020年。

世界中が熱狂した東京オリンピックは、表向きには日本復活の象徴として幕を閉じた。


だが、その裏側では、国家の形そのものを変える巨大な歯車が動き始めていた。


大会開催によって莫大な利益を得た巨大企業群は、金融、物流、不動産、AI通信、都市開発を次々と掌握し、わずか十数年で国家予算にも匹敵する経済力を手に入れた。そして2030年代初頭――日本経済は、事実上「四大財閥」と呼ばれる存在によって支配される時代へ突入する。


堂田財閥

大山財閥

津蔵財閥

菅原財閥


彼らは単なる企業ではなかった。


住宅供給、公営インフラ、電力、食料流通、交通網、教育、警備会社、医療機関――東京都23区の生活基盤は、すべて財閥系ホールディングスの傘下へ統合されていった。中小企業は買収され、逆らう企業は資金網から締め出される。いつしか財閥で働くエリート職員は口にするようになる。


「東京は、政府の都市じゃない。財閥の都市だ」


高層ビル群は空を覆い、無人輸送道路が地下を走り、広告ホログラムが夜空を染める。だが、その光の届かない場所では、別の東京が広がっていた。


第二次高度経済成長期


急激な経済拡大は莫大な格差を生み、裏社会にも新たな黄金時代をもたらした。

関東各地の暴力団は企業化し、海外マフィアと接続。違法AI、軍用ドローン、人体改造薬物、電子通貨密輸が闇市場を支配した。さらに国家インフラへ侵入するハッカー集団や、財閥への武装抵抗を掲げる過激派テロ組織も現れる。


警視庁だけでは、もはや東京を管理できなかった。

そこで日本政府が大規模な出資を行って設立したのが――


「東京保安庁」


対テロ鎮圧、都市暴動制圧、サイバー犯罪対策、財閥施設警備。

最新鋭の武装と独自捜査権を持つ半警察組織。

だが、その実態は「東京の秩序」を守る存在なのか、それとも「財閥支配」を守るための私設軍隊なのか、誰にも分からなかった。

そして東京には、さらに別の勢力も存在していた。


政府にも財閥にも属さない武装自警団


腐敗した支配構造の破壊を掲げる革命軍


企業に雇われる民間警官


違法区域を支配する地下組織


情報を売買する匿名ハッカー集団


正義は分裂し、法は勢力ごとに意味を変えた


昼の東京では、超高層都市が繁栄を誇る

夜の東京では、銃声とサイレン、そして怒号が響き渡る


そして今日もまた、誰かがこの巨大都市のどこかで消えていく。


国家か

財閥か

革命か

自由か


無数の欲望と暴力が渦巻く超巨大都市・東京。

この街の未来を決める戦いは、まだ始まったばかりだった。

2038年6月24日、東京都渋谷区

世界最大規模の経済都市となったこの街では、昼も夜も光が消えることはない。


渋谷スクランブル交差点


巨大ビル群に囲まれたその場所は、今日も人で埋め尽くされていた。頭上の大型広告は、かつての紙看板など姿を消し、今では超高精細の液晶モニターが街を覆っている。空中には企業ロゴを投影するホログラム広告が漂い、外国語の電子音声が絶え間なく流れ続ける。


「――堂田ホールディングス、新型都市住宅プラン発表」


「――津蔵通信、量子回線サービス開始」


青白い光が人々の顔を照らし、その上空では配送ドローンが列を作るように飛び交っていた。

空を見上げれば、まるで機械の群れが都市を覆っているようだった。

やがて信号が青に変わる。

一斉に人波が動き出し、交差点は無数の足音に飲み込まれた。


その喧騒の中。

路肩に停車した黒いセダンの中で、一人の男が退屈そうにスマホ画面を眺めていた。


荒木巧(あらきたくみ)、23歳


表向きは「後藤刑事事務所」所属の民間刑事。

だが実際には、東京保安庁から危険案件を請け負う半公認の追跡屋だった。


助手席には缶入りの麦茶。

ダッシュボードには古い無線機。


すると突然、無線から「ザザッ」というノイズが走る。


『――荒木、聞こえるか?』


聞き慣れた男の声だった。


荒木はスマホを置き、無線機を手に取る。


「なんだ、新しい仕事か?」

『新宿区の銀行で強盗事件発生。大型金庫ごとトラックに積んで逃走した。完全に組織犯だ』

「銀行強盗ねぇ……最近にしては古典的だな」

『問題はそこじゃない』


無線の向こうの声色が変わった。


『奪われた金庫の中に、財閥関連の機密資料が保管されていたらしい』


その瞬間、荒木の表情が少しだけ鋭くなる。


「……どこの財閥だ?」


『まだ不明。だが東京保安庁は相当焦ってる。既に各勢力へ協力要請が出てる』


つまり、この件には保安庁だけでなく、民間警備会社、自警団、裏社会の賞金稼ぎまで群がるということだ。

東京では珍しくない。

政府が動く前に、金と利権が人を動かす。


『報酬金は5億4000万』


ブッ――――!!


荒木は飲んでいた麦茶を盛大に吹き出した。


「ごほっ……! はぁ!? 5億!?」


『成功すれば、お前の今月のボーナスは過去最高だな』


無線の向こうで男が笑う。


『グッドラック』


通信が切れ、車内に静寂が戻った。

荒木はしばらく固まったまま前を見ていたが、やがて口元を歪めた。


「……面白くなってきたじゃねぇか」


ちょうどその時、前方の信号が青へ変わる。


荒木はエンジンを吹かし、片手でハンドルを握ると、もう片方の手で保安庁の回線へ接続した。


「こちら、後藤刑事事務所渋谷支部所属、荒木巧。銀行強盗事件の対応に参加する」


認証コードを送信。


次の瞬間、ダッシュボード内部に隠されていた赤色灯がせり上がった。

赤い光が車内を染める。

周囲の歩行者たちが驚いて振り返る中、荒木はアクセルを踏み込んだ。


「どけどけぇッ!!」


黒いセダンは、人波を縫うように加速。

スクランブル交差点をフルスピードで突き抜け、ネオン輝く渋谷の街へ飛び出していく。


その頃すでに――


新宿では、もう銃声が鳴り始めていた。

この作品を見てくださった皆様、本当にありがとうございますm(__)m

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