第十五話 悪魔と呼ばれる理由(わけ)
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私は思考が停止していた。まさかマルファスがそんなことを言うなんて、私には想像できなかった。
「えっ?何言っているの…。人を殺した?」
マルファスは黙っていた。
「何で黙るの?もしかして私のこと騙していたの?何で…殺したの…?」
マルファスは何も言わず、立ち尽くしていた。
「ごめん、何かわけがあったんだよね。ねぇ、そうだよね…。そうだと言ってよ!」
マルファスは過去にあったことを、思い出しながら、話し始めた。
「やっぱりこの地へと来てしまうか。なら教えてやる。俺が小雪と出会った時、言っただろ。俺は悪魔と呼ばれていると。」
「うん。言っていたね。」
「俺がこのノクスという地に来た時、俺には記憶がなかった。俺には、目的がなく、生きる理由すらなかった。俺はこの見た目もあってか、人間に恐れられていた。俺は何もしていないのに、消えろ邪魔者。お前なんか死んじまえばいいなど罵声を浴びていた。あの時はそれが許せず、人間たちを次々に殺した。」
「そうなんだ……。それで、あの人たちを殺したんだね。」
「こうして俺が全員を殺したとき、そこにある男が現れた。その男はこう言ったんだ。
『君、怖いねー!ここにいるみんな全員殺しちゃったんだ。』
『お前は誰だ。お前は一体何者だ!』
その男は笑いながら、こう言った。
『別に名乗るほどの人間じゃないよ笑。ただ、君は僕の大切な人だからね。』
『何だよ大切な人って、じゃあ、俺のことも知っているのか?』
『知っているよ、けど今、君が知る必要はないよ。殺人鬼なんて信用できないしね笑』
この男はこうやって、ふざけた態度を取っているが、目が笑っていなかった。
『君、悪魔だね。見た目もだけど、人を殺すなんて、悪魔にしかできないよ。だから君は悪魔だ。』
『悪魔?悪魔って何だ。』
『それはね、恐ろしいものなんだよ。言うなれば人間の敵?みたいなものかな。でも、悪魔は強いんだよ笑。』
確かに。こいつの言うとおりかもしれない。俺には、自分が何者なのか分からなかった。
だから、周囲の人間が俺を悪魔と呼ぶのなら、それでいいと思った。
俺には、それ以外に自分を表す言葉がなかったからだ。」
「それで自分のことを悪魔と呼ばれているって言ったんだね。」
『じゃあ俺は、これから悪魔として生きていけばいいのか』
『そんなことしたら、みんなから嫌われて大変だよ?笑。だから、僕が名前をつけてあげるよ。君は今日からマルファスと名乗るといい。そうすれば何倍かはマシになるんじゃない。』
『マルファス?』
『うん、そうだよ。今日から君の名前はマルファスだ。』
『マルファス……。それが俺の名前なのか?』
『そうだよ。気に入らなかった?』
『いや、別に。ただ、俺には名前なんてなかったからな。』
『なら、ちょうどいいじゃない。今日からそれが君の名前だよ。』
男は笑いながらそう言った。
俺は自分の名前を口にしてみた。
『マルファス……。』
不思議な感覚だった。
自分が何者なのかは分からない。
それでも、初めて自分を呼ぶための言葉を手に入れた気がした。」
『マルファス……。悪くない名前だろ?』
『ああ。』
『それじゃあ、僕はもう行くよ。』
『おい、待て。お前は俺のことを知っているんだろ?』
『さあ、どうだろうね。』
『ふざけるな。俺は自分が何者なのか知りたいんだ。』
男は少しだけ振り返った。
『いつか分かる日が来るよ。それまで、その名前を大切にするといい。』
そう言い残すと、男は去っていった。
俺はその背中を、ただ黙って見つめていた。
あいつは一体何者だったのだろうか。
俺のことを知っていると言っていたが、結局何も教えてはくれなかった。
それでも、俺には行く場所もなければ、頼れる人間もいなかった。
俺はその場を離れ、再び歩き始めた。
それから、どれほどの時間が経ったのかは分からない。
俺はただ、このノクスという地を歩き続けていた。
自分が何者なのか。
なぜここにいるのか。
何も分からないまま、ただ時間だけが過ぎていった。
そして、いつしか俺は自分のことをマルファスと呼ぶようになっていた。
「……それが、俺の過去だ。」
マルファスはそう言って、話を終えた。
「そんなことがあったんだね……。」
私は何と答えればいいのか分からなかった。
マルファスが人間を殺したことは事実だ。
どんな理由があったとしても、殺された人たちが戻ってくることはない。
それでも、記憶を失い、自分が何者なのかも分からないまま、人間たちから罵声を浴びせられていたマルファスのことを考えると、簡単に責めることもできなかった。
「小雪、勘違いするなよ。俺は自分がやったことを正当化するつもりはない。」
「うん……。」
「俺が殺した人間たちには、それぞれ人生があったはずだ。家族がいたかもしれない。大切な人がいたかもしれない。それなのに、俺は何も考えずに命を奪った。」
マルファスは目の前にある人間たちの亡骸を見つめた。
「今なら分かる。俺がしたことは、許されることじゃない。」
「マルファス……。」
「だから、俺を責めてもいい。お前が俺を信用できなくなったとしても、仕方のないことだ。」
私はすぐに答えることができなかった。
マルファスのことを信じたい。
だけど、今まで一緒に過ごしてきた彼が、人間を殺していたという事実を簡単に受け入れることはできなかった。
それでも、一つだけ聞いておきたいことがあった。
「ねぇ、マルファス。あなたは今でも、自分のことを悪魔だと思っているの?」
「……ああ。」
マルファスは迷うことなく答えた。
「俺は人間を殺した。自分が何者なのかも分からないまま、ただ怒りに任せて命を奪った。そんな俺が悪魔じゃないと言えるのか?」
「でも、今のあなたは違うよ。」
「何が違う?」
「少なくとも、今のあなたは自分がしたことを後悔している。私のことだって、ずっと助けてくれたじゃない。」
「それとこれとは別の話だ。」
「そうかもしれない。でも、私はあなたと過ごしてきた時間まで嘘だったとは思いたくない。」
私はマルファスの目を見つめた。
「だから、今のあなたのことも知りたい。過去に何があったのかだけじゃなくて、これからどうしたいのかも。」
マルファスは何も答えなかった。
しばらくして、彼は小さく息を吐いた。
「……お前は本当に変わった奴だな。」
「えっ?それってどういう意味?」
「何でもない。」
マルファスはそう言うと、再び歩き始めた。
私はその後ろ姿を見て、慌てて追いかけた。
まだ、聞きたいことはたくさんある。
だけど、今はこれ以上問い詰めるべきではないと思った。
私たちは目の前に広がる道を、再び歩き始めた。
そうしていると前から、足音が聞こえた。
「お二人さん、初めまして、俺はあるお方から言われて有栖川小雪の実力を確かめに来たんだ。さぁ構えな。」
「どういうこと?あるお方って誰?」
私がそう尋ねた瞬間、男は答えることなく、襲いかかってきた。
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