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977.筆洗篇:一人称で視点を切り替える

 今回は「視点」についてです。

 本コラムでは何度も出てくる問題ですが、「一人称視点で視点を変えたい」という方もいます。

 そんな方は、このようにしてみてはいかがでしょうか。

一人称で視点を切り替える


 ヒロイック・ファンタジーは主人公の一人称視点で語られることが多い。

 誰が物語の主人公なのかがわかりやすく、大活躍する主人公へ読み手を感情移入させやすい利点があります。

 しかし時として「主人公の一人称視点から外れて、他人の一人称視点や三人称視点で語りたい」と考えたくなる場面が出てくるのです。




あらすじの構成をしっかりやっていますか

 まず確認したいのは「あらすじ」の構成をしっかりやっているのかということです。

 そもそも物語には主人公以外の登場人物がいます。

 そんな彼ら彼女らのエピソードを、一章で語れるように構成で割り振ってあれば、章単位で主人公を入れ替えられるのです。

 前々回も言及したゲームのエニックス(現スクウェア・エニックス)『DRAGON QUEST IV 導かれし者たち』は、章立てをして章ごとに主人公が替わる構造となっています。ですから主人公が替わってもプレイヤーはいっさい混乱しません。

 これは前々回の「カットバック」を章単位で行なっているからできることです。

 もし城の中ではヒロインが主人公となり、王様と面会するときは勇者が主人公となるなどをやってしまうと、頻繁に「カットバック」する必要があります。

 これでは落ち着いて読めません。

 基本的に(エピソード)単位で主人公を変える「カットバック」は、どんどんやってください。

 その代わり、節や項などの「場面(シーン)単位」で主人公を替えることはなるべく控えましょう。




場面(シーン)単位で主人公を替えると厚みが出ない

 なぜ「場面(シーン)単位」で主人公を替えるのは控えなければならないのでしょうか。

 それは切り替えた主人公に感情移入しにくくなるからです。

 あまりにも頻繁に視点保有者が替わってしまっては、「今読んでいる場面(シーン)は誰の一人称視点なのか」がわかりにくくなります。

 さっきまでずっと勇者が視点保有者の主人公だったのに、いきなりヒロインが視点保有者の主人公で書かれていたとしたらどうでしょう。

「勇者の場面(シーン)だと思って読んでいたら、文章を読み進めていくにつれ今この場面(シーン)の視点保有者はヒロインだった」というのは最悪を極めす。




場面(シーン)単位で主人公を替えたければ「箱書き」で対処する

 どうしても場面(シーン)単位で視点保有者となる主人公を替えたいとき。物語を考えた手順で言うと、「企画書」「あらすじ」の後に書く「箱書き」レベルで視点保有者を明確に定めてください。

「箱書き」は場面(シーン)ひとつの内容を一枚の紙にまとめたものです。つまりその「箱書き」の主人公を決めてブレずに描ききれば、読み手がその場面(シーン)を読む際に誰が主人公なのかで迷わなくなります。できればその場面(シーン)の冒頭で主人公が誰なのかを書きましょう。

 なので場面(シーン)が替わったら真っ先に「誰が主人公の場面(シーン)なのか」を明示してください。たとえ主人公の勇者がただひとりの視点保有者であり、勇者の一人称視点で書く作品であっても、場面(シーン)が替わったら都度冒頭に視点保有者が勇者だと読み手へ開示するのです。

「読み手をバカにしている」と感じる書き手もおられるでしょう。

 実際は逆なのです。

「読み手はエスパーでない」から書き手の意図に気づきません。だから場面(シーン)が替わったら視点保有者が誰かを知らせておくのです。そうすれば「勇者が視点保有者だと思い込んでいたら、視点保有者はヒロインに替わっていた」という勘違いをせずに済みます。この気遣いひとつで、作品の評価は格段に高まるのです。

「書かなくてもわかるだろう」はいっさい通用しません。実際には「書かなければなにもわからない」のです。

 凡才な書き手ほど、読み手へ伝えようとする意図を汲みとれない文章でおいて、「なぜ評価が高まらないのだろうか」と悩みます。

 どんなにすぐれた読み手であっても「書かなければなにもわからない」のです。

「書かなくてもわかるだろう」という意識は捨ててください。そこから「正しい小説の書き方」を見つける旅は始まります。




一人称視点と三人称視点の使い分け

 実は一人称視点の小説で、部分的に三人称視点で書くことも不可能ではありません。ただし、相当なテクニックは必要となります。実力を身につけてから挑戦してください。

 部分的に三人称視点を入れるには、(エピソード)単位、場面(シーン)単位で導入します。つまり「あらすじ」の段階から「この(エピソード)は三人称視点で書く」、または「箱書き」の段階から「この場面(シーン)は三人称視点で書く」と決めておくのです。そして各場面(シーン)の冒頭で誰が視点保有者かを明確にしてください。

 けっして一場面(シーン)内で一人称視点と三人称視点を混在させてはなりません。「小説賞・新人賞」では大きな減点対象となります。

 以上の点を踏まえてあれば、一人称視点と三人称視点が混在しても読み手はすんなりと読んでくれるのです。


 これはとくに群像劇、戦記ものを書くときには必須のテクニックと言えます。

 戦場で戦っているとき、俯瞰で戦局を眺める三人称視点と、それぞれの局地で敵と戦っている勇者たちの複数の一人称視点をドラマチックに切り替えることで、小説に臨場感を与えられるのです。

 田中芳樹氏は巧みに三人称視点と一人称視点を切り替えて描写しています。完結した作品として『銀河英雄伝説』『アルスラーン戦記』を挙げておきますので、群像劇、戦記ものの手本として「視点切り替えの書き方」を分析しながら読んでみてください。必ずや得るものがありますよ。





最後に

 今回は「一人称で視点を切り替える」ことについて述べました。

 視点保有者を切り替えるときは、(エピソード)単位か場面(シーン)単位で行なってください。

 また群像劇、戦記ものを書く場合は一人称視点だけでなく、三人称視点も併用することで、より臨場感を高めた表現ができるようになります。

 視点保有者の切り替えや、一人称視点と三人称視点の併用をするときは、絶対に一場面(シーン)内で視点を切り替えてはなりません。大きな減点対象となります。




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