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969.筆洗篇:能力がない人に限って金の話をする

 今回は「能力とお金」についてです。

 この「小説賞・新人賞」を授かれれば百万円だ。

 そう思って書いた作品では、大賞にはなれません。

能力がない人に限って金の話をする


 皆様の身近に、よくお金の話をする方はいらっしゃいませんか。

 たいていひとりはいるはずです。本コラムで私がよく口にしていますしね。

 そのような方に、どのくらい才能があるかわかりますか。ほとんど才能がないのではないでしょうか。

 能力がない人に限ってお金の話を始めます。なぜでしょうか。




自分の能力をお金で換算しない

「小説賞・新人賞」に応募したとき、あなたはご自身の作品がいくらになるかと計算したことはありませんか。

 たとえば大賞百万円の小説賞に応募したとします。すると「百万円を獲得できる作品を書いた」のだという計算です。

 これは「取らぬ狸の皮算用」というもので、実際に獲得していないのに自分の作品に「百万円」の価値を付けていることになります。

 ジャンボ宝くじを買う方にも同じような心理が見られるのです。

「一等前後賞七億円」と喧伝されているジャンボ宝くじを買うとき、すでにあなたは「七億円当たったらどうしようかな」と考え始めませんか。

 まず会社は辞めてしまうでしょうね。生涯賃金以上をもらえるわけですから。そしてローンや借金を完済して新築一戸建てを買ったり、趣味にどれだけお金が使えるなと考えたり、海外旅行も行き放題だったり。あれやこれやと妄想が湧いてきて、バラ色の未来を夢見るのです。

「小説賞・新人賞」の賞金はジャンボ宝くじとは違い、実力があれば手に入るものですから、なおさら「百万円を手に入れたら」と考えてしまいます。

 あなたは「百万円」を手にしたいから小説を書いたのでしょうか。

 将来プロとしてやっていきたいのなら、そういう立ち位置で作品を書いてもよいと思います。プロで金銭感覚が緩いと、出版社レーベルのカモにされかねませんからね。

「小説賞・新人賞」を狙う多くの方は「プロ」志望ではないでしょうか。

 すると多くの「プロ」志望者が「百万円」を争奪することになります。その中で一番にならなければ「百万円」は手に入りません。

 始めから「賞金百万円」だけしか目に入っていない書き手は、競争相手をまったく意に介していません。しかし実際に「小説賞・新人賞」は競争相手がいる勝負です。

 あなたがどんなにすぐれた作品を書こうとも、それより上の作品を書かれたら、その方が「百万円」をさらっていきます。

 もし次点「賞金三十万円」、優秀賞「賞金十万円」とランク付けされている「小説賞・新人賞」なら、あなたの能力は「百万円」「三十万円」「十万円」と評価されるのです。

 あなたは自分の能力をお金で換算しようとしています。

 そういう観点から小説を書こうとするのはやめたほうがよいでしょう。

 どんなに能力があろうと、あなたより才能が上の書き手がいれば、入賞すらおぼつかないのです。

 たとえその小説賞に百人しか応募しなかったとしても、あなたの原稿よりも上の作品があれば、賞金はその方に与えられます。一万人応募したとしても、あなたの作品が誰よりもすぐれていれば「百万円」はあなたのものです。

 あなたの能力はお金ではありません。とくにこれからプロになろうとしている書き手の方の能力は、まだお金で換算できるような代物ではないのです。

 プロになるまでは、自分の能力や作品に値段を付けるのはやめましょう。

 そんなことを考える暇と想像力があるのなら、今よりももっと上手になって、よりよい小説が書けるようになるべきです。

 結局プロになれるかどうかは、プロになるまで執筆と応募を繰り返せるだけの精神力と創造力によります。




賞金の話をするのは受賞してから

「小説賞・新人賞」の賞金は後からついてくるものです。

 まずは入賞するところから始めなければなりません。

 入賞するためには、一次選考、二次選考、場合によっては三次選考を勝ち残って最終選考まで進む必要があります。

 だから最初は一次選考通過だけを考えてください。

 賞金のことなんて考える暇はないのです。

 今できる最高の準備をして、今書ける最高の作品を仕上げましょう。

 それが「小説賞・新人賞」でどう判断されるのか。

 一次選考すら落ちてしまう方は、まず一次選考を通過することを考えるのです。

 賞金のことなんて考えたところで、実力が伴っていないのですから、手に入るはずがありません。

 多くの方は「私が応募すれば大賞は間違いない」と思っています。

 本心から出た言葉です。

 しかし「現実が見えていない」とも言えます。

 あなたの実力は、あなた自身にはけっしてわかりません。

 わかるだけの眼力がないとも言えますが、人間はどうしても身びいきをしてしまうものだからです。

 もし自分の実力は完璧にわきまえられるものなのであれば、村上春樹氏はノーベル文学賞を獲得できるかどうかなんて話題にすらのぼらないでしょう。




なぜ村上春樹氏はノーベル文学賞を獲れないのか

 皆様はなぜ村上春樹氏がノーベル文学賞を獲れないのか、考えたことがありますか。

 まず言えるのは、村上春樹氏の作品は文学小説ではなく娯楽小説だからです。「文学」には哲学が含まれます。村上春樹氏の作品には哲学がありません。ただひじょうにカッコつけたがる人物たちが、キザったらしいことをしているにすぎないのです。

 登場人物は刹那的で、「そのときさえよければそれでよい」という思考の方が多い。

 これで文学小説と呼ぶのは、これまでの受賞者に対して失礼だと思います。

 村上春樹氏の友人で、ノーベル文学賞を授かったカズオ・イシグロ氏の作品には哲学があります。

 日本に生まれ、イギリスで育ったカズオ・イシグロ氏は、日本の血を引くことを誇りとし、その想いが哲学となって作品の端々に表れているのです。

 しかし村上春樹氏にはそのような哲学がない。退廃的とも呼べる作品性については賛否があります。私は娯楽性の高い退廃的な小説に哲学を感じません。


 また政治色が強い書き手はノーベル文学賞を獲ったことがないという事実もあります。

 村上春樹氏は世界を股にかけて活躍していますが、その発言はひじょうに政治的です。

 イスラエルでサイン会を開きましたが、イスラム圏でサイン会を開いたことがあったでしょうか。こういった政治色・宗教色が強い書き手は、それだけでノーベル文学賞から嫌われるのです。

 それすらわからず、毎年のように「ノーベル文学賞最有力候補」として名前が挙がり続けるのは、かえって村上春樹氏のためになりません。


 そもそもなにを基準にして「ノーベル文学賞最有力候補」とマスコミは判断しているのでしょうか。

 世界的な売上や「ハルキスト」に代表される世界中の熱狂的ファンの存在ですか?

 それなら売上で村上春樹氏を大きく超える『ハリー・ポッター』シリーズを書いたJ.K.ローリング氏が先に受賞しているはずですよね。また『ダ・ヴィンチ・コード』などのダン・ブラウン氏も最有力候補であるべき。ですがJ.K.ローリング氏もダン・ブラウン氏も、ノーベル文学賞の候補にも入っていませんし、実際に授かってもいません。彼らを差し置いて村上春樹氏が先に受賞する理由はなんでしょうか。

 そこがおかしなところなのです。

 そもそもノーベル文学賞を授かった人に共通するのは、世界的に名が知られていないけれども世界中の人々に読んでもらいたい書き手であるという点です。

 川端康成氏も大江健三郎氏も世界的には無名に近く、一部のマニアがその真価を認めていたにすぎない存在でした。

 しかし村上春樹氏は今さら表彰するほど無名ではありません。

 ではボブ・ディラン氏はどうなのか、と思われますよね。ボブ・ディラン氏はシンガーソングライターとしては有名でも、取り立てて詩人というわけではありませんでした。

 だから文壇からすればじゅうぶん「無名」だったのです。

 ノーベル文学賞の候補に入ったことなど、当の本人も知りようがありません。

 それなのにマスコミは毎年当たりをつけて、プロの書き手のところへ押しかけます。

 ノーベル文学賞はマスコミが決めるものではありません。

 だからマスコミが推す村上春樹氏が受賞することもないのです。

 さも「自分がノーベル文学賞を獲らないはずはない」かのような振る舞いが、政治色でなくてなんなのでしょうか。

 だから選考委員に嫌われるのではないですか。

(言い過ぎなことは認めます。もし今年村上春樹氏がノーベル文学賞を授かったら、改めて検証のコラムを書くことに致します)(やはり今年も受賞しませんでしたね)。





最後に

 今回は「能力がない人に限って金の話をする」ことについて述べました。

 今書いている作品を「小説賞・新人賞」に応募すれば百万円だな。そう考えて書いているかぎり、大賞を授かることはないでしょう。

 今書ける最高の作品を書いて、皆に読んでもらいたい。そのくらいの心構えをした方にこそ、栄冠は輝きます。

 村上春樹氏のように「書けば売れる」書き手になることもたいせつです。しかし「ぜひ皆に読んでもらいたい」と思わせる作品を書けるほうが、より重要ではないでしょうか。




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