1498.質疑篇:古典的な魔獣はウケないでしょうか
直近のご質問などを精査しながらお答えしております。
本日はご質問が一件ございました。
明日3月22日月曜日の連載終了となります。
月曜13時までにご質問・お問い合わせをいただければ採用されますので、ぜひご質問・お問い合わせくださいませ。
今回は「エルフやドワーフも古典的な役割で出すと安易で平板な世界観になりますか」にお応え致します。
確かに凡百な世界観になりやすいのですが、そのぶん筆力を知るにはこれほどすぐれた世界観もありません。
そもそも『小説家になろう』では「ナーロッパ」のように古典的を外した役割を与えていますが、それがたいてい誰かとかぶっているのです。
古典的な魔獣はウケないでしょうか
今回は「異世界ファンタジー」の中でも「中世ヨーロッパ風剣と魔法のファンタジー」では欠かせない亜人や魔獣についてご質問がありました。
ユニコーンやペガサスなどの古典的な魔獣を登場させるのは安易で平板な世界観にしてしまうのでしょうか。
現在の剣と魔法のファンタジー
『小説家になろう』で主流となっている「中世ヨーロッパ風剣と魔法のファンタジー」では亜人としてエルフとドワーフが、敵としてドラゴンや魔王が多く登場します。
もちろん味方になるドラゴンや魔王もいれば、敵になるエルフやドワーフもいるでしょう。
「ナーロッパ」を舞台とする以上、種族などの設定も共通する部分が多いのです。
そんな中でいかにして差別化を図るのか。
一般的に敵となるドラゴンや魔王が味方についたり、エルフやドワーフが敵になったり。
関係性をひっくり返して差別化している作品が多いのです。
ではエルフを王道で登場させるのは陳腐なのでしょうか。
私は陳腐ではないと考えています。
そもそも「王道」が確立していなければ「差別化」の意味がありません。
「差別化」されてばかりいる種族は、「王道」で登場させたほうがかえって差別化を図れるものです。
森に住み、人間と距離をとる気難しい、長寿と美貌を持つ種族。
エルフの鉄板設定ですが、「エルフの森」設定はすでに形骸化しています。
単に森の中に家がある、ような設定ばかりなのです。
本来「木の上に家を構えている」のがエルフ。
その「王道」をしっかりと表現している作品が、近年少なくなりました。
こういった作品は読み手に媚びず「硬派な」印象を与えます。
王道を歩む硬派な正統派異世界ファンタジー
「王道の正統派」があるから「差別化」が生きてくるのです。
今日のように「差別化」作品が増えすぎると、「王道」が廃れてしまいます。
読み手の意表を突こう、他の作品とは差別化を図ろう。
それもこれもファンタジーの鉄板設定である「王道」を歩む「硬派な正統派」ファンタジーがあったればこそ。
誰かが「王道」を供給しないかぎり、「なろう系」は「ナーロッパ」の世界を出ない作品になるのです。
「異世界ファンタジー」ジャンルは、「王道」を好む読み手と「差別化」を好む読み手で成り立っています。
そして現在は「差別化」したほうが多くの方に読まれるようです。
しかし、ときとして「王道」の作品が長期にわたってランキングに載ります。
「差別化」を好む読み手であっても、現在の「差別化」供給の過多は意識しているのでしょう。
「王道」を読んで口直しし、気持ちをリセットしてから「差別化」作品に戻っていく。
読書の発着点となるので「王道」は多くの方から読まれる作品が多いのです。
しかし閲覧数・PVの割には評価が伸びないのも「王道」の特徴と言えます。
「硬派な正統派」異世界ファンタジーは、古典を読む面白さです。
「読み手ウケ」ばかり狙う「差別化」作品とは面白さのポイントが違います。
正統派は筆力を要求される
実は「王道を歩む硬派な正統派異世界ファンタジー」は筆力を相当要求されるのです。
読み手が知っている設定を、矛盾なく惹き込まれるように書くのは、周到な知識と読ませる文脈の双方が求められます。
だからこそ『小説家になろう』で「硬派な正統派」が少なくなった可能性もあるのです。
どんなジャンルも「正統派」は基本設定をほとんどの方が知っています。
「正統派」の物語は書くのが案外難しいのです。
近年は「差別化」がなにかと評価されています。
筆力に自信がなく、物語そのものをひねらなければ読み手を惹き込めない。そう思うから多くの書き手が「差別化」を書いてしまうのです。
だからこそ「正統派」異世界ファンタジーは、多くの「小説賞・新人賞」で高く評価されます。
面白い「正統派」を書ける。それだけでひとつのステータスなのです。
たとえばユニコーンやペガサス、キメラ生物などは「王道で硬派な正統派」異世界ファンタジーでは鉄板の存在です。
しかし最近の作品では不死のヴァンパイアのほうが多く登場するようになりました。
「正統派」を掲げたければ安易にヴァンパイアへ逃げないでください。
ペガサスに跨って囚われの姫を救出する勇者の物語を書きましょう。
これはギリシャ神話からの鉄板で「正統派」なファンタジー物語です。
だからこそ書き手の筆力が問われます。
鉄板だからこそ、どう書けば面白くなるのか。
「差別化」ばかり書いていると、設定の面白さを競うようになるのです。
読み応えのある作品ではなく、奇抜さで勝負する「イロモノ」枠でしかなくなります。
本当にプロになれるだけの筆力があるかは「正統派」を書かなければ見分けがつきません。
「正統派」で「小説賞・新人賞」を獲った書き手は、将来の活躍を期待されているのです。
現在多くの書き手が筆力のなさを痛感しています。自分よりも巧い作品を数多く読んでいるからです。
小説投稿サイトのよさでもあり、悪いところでもあります。
小説投稿サイトが企画する「小説賞・新人賞」へ応募した「競合」作品を気軽に読んでまわれる環境です。
面白さでは太刀打ちできても、巧さでは敵わない。そう認識できてしまいます。
悩むくらいなら読んでまわらなければ済むのです。しかし自作が落選したらと考え、「競合」作品をつい研究してしまうのです。
自分の作品は「差別化」を図れたのか。だけを尺度にしがちです。
そもそも「正統派」なのか「イロモノ」なのかで勝敗が分かれてしまいます。
近年の異世界ファンタジーはRPGのような「イロモノ」ばかり。
そんな中に「正統派」が投稿されれば「掃き溜めに鶴」「紅一点」となるのです。
「小説賞・新人賞」は目立ってナンボ。
他の全員が「差別化」の「イロモノ」ばかりなら、「正統派」こそが目立てます。
「王道の次は邪道」「邪道の次は王道」
書き分けられるようになれば、そのぶん「小説賞・新人賞」へ応募する作品に幅が出ます。
ぜひ「イロモノ」ばかりでなく「正統派」でも勝負してくださいね。
最後に
今回は「古典的な魔獣はウケないでしょうか」にお答え致しました。
「古典的」とは「王道」であり「正統派」です。
「正統派」があるから、「差別化」は目立てます。
そして多くの方が知っている「正統派」だからこそ、きっちりと書けば「小説賞・新人賞」へ近づけるのです。
現在の「小説賞・新人賞」は「差別化」ばかりを考えた「イロモノ」に満ちています。
しかし「正統派」を面白く読ませる筆力があれば、たとえ「イロモノ」を書かせても万人の注目を惹けるのです。
自分の筆力を見せつけるために「古典的」「王道」「正統派」の作品でも勝負をかけてみましょう。




