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三百枚書けるようになるお得な「小説の書き方」コラム  作者: カイ.智水
端緒篇〜小説を書くためのご質問にお答えします
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1467.端緒篇:アイデアを膨らませる

 多くの書き手がアイデアに苦労しています。

 しかし世の中には「ストーリーテラー」と呼ぶべき多彩な物語を思いつける方がいるのです。

 不公平だと思うかもしれませんね。

 しかしちょっとした心の持ち方で、あなたも「ストーリーテラー」になれます。

アイデアを膨らませる


 皆様、小説のアイデアをどのように手に入れていますか。

 アイデアが降ってくるまで待つ方、アイデアがちょろっと湧いてくるまで待つ方、無理やりにでもひねり出そうとする方。さまざまです。

 しかしまったくきっかけもなしにアイデアが浮かぶなんてありえません。

 アイデアを手に入れるには、試行錯誤を繰り返すしかないのです。




降ってきたアイデアはろくでもない

 「小説賞・新人賞」は「アイデアが降ってきた」作品で挑むべきだ、とする方もいらっしゃいます。しかし「降ってきたアイデア」は冷静に検討すると「ろくでもない」ものばかりです。

 「アイデアが降ってきた」とはどのような状態でしょうか。

 頭の中でポッと物語の全体が現れる。書き出しから結末まで、全体が降ってくるのもザラです。

 「勢い」重視の方は「降ってきたアイデア」をノリノリで書き続けて結末まで持っていきます。このような方は「アイデアが降ってきた」でもぐいぐい先を読ませる才能に満ちているのです。

 しかしきちんと「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」を経れば、「降ってきたアイデア」が名作足りうるか、「執筆」前に判明します。

 そう、書き始める前に基礎を踏めば「名作か」が見極められるのです。

 「アイデアが降ってきた」は「夢で見たアイデア」と変わりません。

 展開がいかに斬新でも、実は筋書きが大きく破綻しています。

 長編小説では生命線の「伏線」すらまったく設定しようとしない。

 だから「降ってきたアイデア」はろくでもないのです。




湧いてきたアイデアは裏付けがない

 「アイデアが湧いてきた」は、「なにを書こうかな」と思ってあれこれ悩んでいるとちょろっと物語の一端がひらめくのです。

 しかしそれで長編小説が書けるだけの裏付けになるのでしょうか。

 実は「アイデアが湧いてきた」で直接執筆すると、すぐに「書くもの」が尽きます。手が止まってしまうのです。

 なぜだと思いますか。

 ひらめいたのが物語の一端でしかなかったからです。

 もし物語全体がひらめいたら、それは「アイデアが降ってきた」と表現します。

 「湧いてきたアイデア」から名作を創るには、「降ってきたアイデア」同様「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」の形で物語全体に気配りするべきです。

 少なくとも「アイデアが湧いてきた」からそれを頼りに執筆しているかぎり、「エタる(エターナル:永遠に終わらない)」作品が生まれます。いや、終わらないのですから作品は未完成で放り出させるのです。

 だって書き手にも物語の結末が見えていませんから。どの状態になったら「物語の結末」なのか、読み手はもちろん書き手にもわからない。

 田中芳樹氏の連載では『タイタニア』『アルスラーン戦記』『創竜伝』あたりが「結末」を見据えていなかったのではないでしょうか。だからこそ連載を十年以上放っておいても通用を感じなかったのではないか。もし書きたい「結末」が明確だったら、それを書きたくて仕方がなかったはずです。十年以上放っておいたのは、「結末」を決めていなかったから。

 逆に言えば『銀河英雄伝説』は最初『銀河のチェスゲーム』という、さらに何世紀かのちの銀河を舞台にしたSFを書こうとしていました。しかし企画していた出版元の幻影城が倒産してしまいます。宙に浮いた企画を徳間書店の編集さんに見せたところ「前史となっているこの部分を引き伸ばして一冊にまとめたら出版してあげる」となったのです。そうして急遽書き下ろして『銀河英雄伝説 黎明篇』となりました。

 なぜ『銀河英雄伝説』はきちんと完結させられたのか。それは『銀河のチェスゲーム』の企画でその物語の「結末」がすでに確定していたからにほかなりません。

 そうなのです。「結末」は最初から定まっていたら、そこまで一気に書かないと気が済まない。それが書き手の性なのです。

 「アイデアが湧いてきた」ら、まず「結末」までしっかりと構築してください。そのための「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」です。




ひねり出すのは排泄物でたくさん

 どんな物語が面白くなりそうか。悩みに悩んでひねり出す。

 こんな物語が面白くなると思いますか。話の脈絡もなく、とりあえずひねり出したアイデアが使いものになるかもわからない。

 そんな物語が破綻なく書き切れるような方は、たくさんの小説を読み込んできたのでしょう。凡人はその領域に到達できず挫折するのです。

 たとえ天才でも、「ひねり出したアイデア」が稀代の名作とはなりません。

 案外スルスルと出てきた作品のほうが読み手や選考さんから高評価を得ます。

 物語の流れがスムーズだからです。「アイデアをひねり出す」とどうしても脈絡のない出来事が突発的に発生して、本筋にはまったく絡まず完結してしまいます。

 「ひねり出したアイデア」は長編小説を三つ創るつもりで捉えてください。

 つまり「ひねり出した」ら出来事が三つ仮决定されます。三つの出来事をすべて別の長編小説に割り振るのです。三つをひとつの作品で盛り込もうとするから脈絡のない支離滅裂な作品になってしまいます。

 ひねり出すアイデアはひとつでかまいません。「小説賞・新人賞」を狙う長編小説ならワンテーマのほうがウケがよくなります。三つも山場を作るより、ひとつの大きな流れを読ませたほうが満足度は増すのです。

 私たちは無意識に「長編小説は分量が多いからキャラクターの紆余曲折を書かなければ文字数を埋められない」と勘違いしています。実際には十万字なんてあっという間です。キャラクターの紆余曲折の「紆余」を書いたら十万字が尽きてしまった、なんてザラにあります。

 あなたにとって長編小説にはどれだけの出来事が必要なのか。それを確認してから多くのアイデアをひねり出してください。

 後先考えずにひねり出しても、唐突感がつよく脈絡のない駄作にしかなりません。




アイデアが尽きたら三題噺

 本コラムではお馴染みとなった落語芸の「三題(さんだい)(ばなし)」。

 物語のアイデアをひらめくのに最も効果的な技能です。

 「三題噺」は本人にもまったく思いもしない三つのお題からその場の即興でお噺を創る芸。落語家さんがひじょうに頭の切れる人物なのも「三題噺」の修行をしているからです。

 しかし問題もあります。書き手「本人にもまったく思いもしない三つのお題」を誰が設定するのかです。家族や仲間と小説について話をしているのなら、彼ら彼女らが「三つのお題」を出してくれるかもしれません。もしそういう人がいなくて執筆までひとりで行なっているのなら、「本人にもまったく思いもしない三つのお題」をどうやって探すのか。

 ここにさまざまな創意工夫が発生します。

 まず国語辞典を持っているなら、目隠しをして適当なページを開いて、目を開けたときに目についた単語をお題に設定する。これを三回行なえば「三つのお題」がピックアップできます。

 またトランプとサイコロを組み合わせて、トランプのA〜10のカードで「あかさたなはまやらわ」を決め、サイコロの1〜5で「あいうえお」を決めるのです。たとえばトランプのAとサイコロの1の目で「あ」、トランプの2とサイコロの2の目で「き」と出る。となれば「あき」がお題になります。これは「秋」「空き」「飽き」「開き」「安芸」などさまざまな言葉があるので、どれを拾ってもかまいません。これを三回繰り返せば、「本人がまったく思いもしない三つのお題」が生み出せます。

 このように偶然で選んだ三題から物語をでっち上げるのです。


 以前お話ししましたが、小説には「物語を象徴するもの」が必要です。

 これを「三題噺」の「ひとつのお題」で割り当てます。するとその作品に芯が通るのです。

 落語の「三題噺」自体も「物語を象徴するもの」をひとつ、それに絡んでくるものをひとつ、オチに結びつくものをひとつ、という配分で物語を即興で創り上げています。

 もし出来事を「三つ」先に思いついたのなら、それで「三題噺」を創れば万事うまくいくのです。

 まったく脈絡のない「三つのお題」が物語で最大限活かされるのか。

 それがあなたのストーリー・テリングを鍛えます。





最後に

 今回は「アイデアを膨らませる」について述べました。

 アイデアが降ってくるまで待つ。湧いてくるまで待つ。無理やりひねり出そうとする。

 いずれも支離滅裂な物語しか生みません。

 もっと論理的で感性が問われるのが「三題噺」です。

 「三題噺」を侮るとプロになってから苦労しますよ。プロになったら書きたくもない物語を書かなければならないのですから。




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