1433.端緒篇:どう書いてよいのかわからない
唐突ですが、今回から「端緒篇」を始めます。
「構文篇」が最初は構文だけでいけたのですが、半分過ぎてからご質問コーナーと化してしまいました。
そこで徹底的に「ご質問コーナー」にするべく新しい篇のスタートです。
そもそも論から始めて、これまでのエッセンスをわかりやすくまとめていく予定です。つまり連載の総まとめを目指します。
これをご覧の方で、もし「ここがわからない」とか「ここを詳しく」といったご質問をどんどん「メッセージ」「近況ノート」「コメント」などに残していただけますようお願い致します。
今回は「小説を書こう」と思い立ったのに「どう書いてよいのかわからない」というご質問です。
どう書いてよいのかわからない
小説を書きたいのに、どう書いてよいのかわからない。よくあります。
ただふたつの「よくある」なのです。
「なにも書くことがなくてどう書いてよいのかわからない」と「書きたいことがありすぎてどう書いてよいのかわからない」のふたつ。
このふたつの城門をなんとか突破しなければなりません。
なにも書くことがない
小説を書こうと思っているのに「なにも書くことがない」方。意外と多いんですよね。
本コラムも基本的には後述する「書きたいことがありすぎる」方を対象にしています。
ですが「なにも書くことがない」方のためにもコラムを設けたい。
そこで手始めに本項目を作ってみました。
まず「小説を書こう」と思い立って、いざ書こうとしても「なにも書くことがない」という本末顛倒な状況。意外と多いんですよね。
そんな方は小説を書いてはならないのか。
書いてよいのです。いやそういう方こそ書くべきです。
では「なにも書くことがない」のに小説を書く方法とはなにか。
あなたが「小説を書こう」と思い立った理由を今一度思い返してください。
たいていは「こんな作品を自分も書いてみたいなぁ」ではないでしょうか。
それであれば話は簡単です。あなたが「書いてみたいなぁ」と思った物語を書きましょう。「世界最強の剣士が、数多の試練を経て国王にまで上りつめる物語」を読んで「こんな作品を書いてみたいなぁ」と思ったのなら、それを書けばよいのです。ただし一言一句同じ文字を書いてはなりません。それは盗作であって創作ではない。
文章を借りてくるのではなく「物語の型」を使うのです。作品の文章には著作権があります。しかし「物語の型」には著作権がありません。そもそも有史以来、物語は数億作以上存在しています。名もなき書き手も含めれば数十億作はあるでしょう。「物語の型」はよくて「千一」あるかないかです。『千一夜物語』があるくらいですからね。
だから「こんな作品を自分も書いてみたいなぁ」から始まったのなら、そんな物語を書けばよい。ひじょうに単純な答えです。これで「書きたいなにか」は見つかったはずです。
人によっては「小説なんてまともに読んだこともないけど、文字を書くだけで賞金百万円なんてボロいよなぁ」かもしれません。賞金狙いで「小説を書こう」と思い立ってもよいのです。ただ「こんな物語が書きたい」というものがまったくなければ書きようがありません。これから書くのはただの文字ではありません。物語を綴る「声なき声」です。
書き手のほとんどは読み手に「物語」を伝えるために書きます。伝えるべき「物語」がなければ小説にならないのです。
その場合は、あなたが「この物語は面白かったなぁ」と思う作品のリストアップから始めましょう。
物語はなにも小説だけではありません。マンガもアニメも、ドラマも映画も、そしてゲームも。御伽噺でも民間伝承でもかまいません。哲学書でも科学雑誌でもよいのです。
とにかく「この物語は面白かったなぁ」と思う作品は誰もが持っています。
名作マンガを読んだから「マンガ好き」になるのです。名作アニメを観たから「アニメファン」になります。あなたの琴線に触れる作品があったから、あなたは「マンガ好き」「アニメファン」になったはずです。
「小説を書きたい」と思うのは、そういった「面白いと思った作品に触発される」パターンが多い。しかもマンガもアニメも自分で作ろうと思えば相当の画力が求められます。
しかし小説は用いるものがPCのテキストエディターのみ。扱うのは一万種類もない「文字」だけです。先行投資がほとんど要りません。だから「面白い物語に触発される」と、人はまず「小説を書こう」と思います。
さて「面白かった作品」のリストアップはそろそろ終わりましたか。
もし一作もリストアップされなかったら、リストにできるくらい多くの小説やマンガを読み、アニメやドラマや映画を観、ゲームをプレイしてください。
――と言いたいところですが、リストアップできなくてもかまいません。
リストアップできなかった方は、「面白くなかった作品」を改めてリストアップしてみましょう。
「面白くない」「つまらない」「学びにつながらない」「心が震えない」など。こんな作品に触れていると自分の格が下がってしまう、と思えるような物語を探すのです。
今度はリストアップできましたよね。
もし「面白くなかった作品」もリストアップできなかったら、あなたには物語を創る能力がありません。
「よい物語」「悪い物語」がわかるから、工夫しながら小説を書けるのです。「物語が面白いのか面白くないのか見分けられない」状態では工夫しようにも比較する相手がいません。
「面白かった作品」は「こんなふうに書きたい」で比較し、「面白くなかった作品」は「こんなふうに書いては駄目だ」で比較すればよいのです。
「面白くなかった作品」は反面教師にできます。「こう書いたら面白くなくなる」という事例をリストが教えてくれるのです。
面白リストとつまらなリスト
「面白かった作品」のリストをこれから「面白リスト」と呼びます。「面白くなかった作品」のリストは「つまらなリスト」です。
「面白リスト」の一位から順に物語のタネを取り出します。一位の作品はほとんどの場合「直すべき点のないあなたにとって完璧な物語」です。だから一位は最初に書くのに適しています。
しかし反省点も必要です。「面白リスト」一位を目指していても、駄作を知らなければあなたが工夫したものが実は駄作だった、という事態を引き起こします。
そこで「つまらなリスト」の出番です。「つまらなリスト」一位から順に物語のタネを取り出します。こちらも一位というくらいなので「どう考えても救いようのない駄作」であるのは明白でしょう。これは絶対に真似をしたらいけない作品です。
物語を構築するとき「面白リスト」のパターンを踏襲しながら、「つまらなリスト」のパターンを回避するのです。
主人公はどんな人物がよいのか悪いのか。あなたが「面白い」と思った作品の主人公に近づけ、「面白くない」と思った作品の主人公から遠ざけていくのです。
「対になる存在」も同じく。
本コラムをここから読んでいる方にとって「対になる存在」という単語は理解できないかもしれませんね。
「勇者」に対する「魔王」、「天使」に対する「悪魔」、「神」に対する「巨人」、「国王」に対する「皇帝」などです。つまり主人公の立ち位置とは真逆の「対になっている存在」なので「対になる存在」と呼んでいます。
物語は主人公と「対になる存在」のふたりだけで進めようとするとよくて中編小説にしかなりません。ふたりしかいなければ始まってすぐに直接対決をして勝つか負けるか、ただそれだけです。
そこで「三人目」を設定します。「主人公の幼馴染み」でもよいし「主人公のライバル」でもかまいません。三人いると十万字に達する分量を無理なく確保できます。残りはすべてモブで結構です。
あとはこの三人をどのような世界で、どのような境遇で、どのような対立をしているのか。それを決めるだけです。ここも「面白リスト」一位から拝借してかまいません。関係性などにも著作権は適用されないからです。
最後に
今回は「どう書いてよいのかわからない」について述べました。
あなたが「面白い」と思った物語を書けばよいのです。
「面白リスト」を作って、その一位を書きましょう。ただし文章を丸写しでは駄目です。著作権に触れてしまいます。使ってよいのは「物語の型」だけです。「物語の型」に著作権は適用されません。
たとえばマンガの尾田栄一郎氏『ONE PIECE』が「面白リスト」の一位なら「海賊小説」を書けばよいのです。
「面白リスト」を作れば、これからあなたが書きたくなる物語が見つかります。
しかし一回「面白リスト」を作っただけで満足しないでください。新しい物語に触れて、物語のストックをどんどん増やしていきましょう。
今の流行りを押さえなければ、今の読み手にはウケませんよ。
次回は「書きたいことがありすぎてどう書いてよいのかわからない」方向けです。




