1424.構文篇:主人公が活きる世界で書く
今回は体調不良時に書いた「主人公」と「世界観」についてのリファインです。
頭がクリアになってきたので、調子のよい今のうちに書けるだけ書きました。
皆様は「主人公」と「世界観」はどのように決めていますか。
先に「世界観」や「ジャンル」を決めると、映える「主人公」はなかなか生み出せません。ここで悩んでしまって、結果創作を放り出す方が多いのです。
主人公が活きる世界で書く
あなたは「人気があるから」という理由で「異世界ファンタジー」を書いていませんか。
だからといって、書いた作品が必ずしもヒットするわけではないのです。
それは「主人公を活かしきれていない」からです。
世界観を決めてからではちぐはぐに
小説投稿サイトでは圧倒的に「異世界ファンタジー」が人気です。
しかし玉石混淆、実情は佳作もありますがお話にならないレベルが多い。
なぜ人気があるのに駄作が多いのか。
手っ取り早く「ウケる」と思ったからではないでしょうか。
主人公の設定は、舞台を「異世界ファンタジー」にしてから作ったものですよね。それが悪いのです。
先に「異世界ファンタジー」ありきでは主人公の言動が制限されやすい。
人気があるのは確かですが、同じ世界でより面白い作品は山ほどあります。それらと伍する作品をこれから書こうとしてもまず張り合えません。
書き手の想像力次第で違いが出せるはずの「異世界ファンタジー」なのに、皆同じ「剣と魔法のファンタジー」を書いてしまうのです。
「剣と魔法のファンタジー」では「中世ヨーロッパのような」世界に設定されやすい。多くの作品と同じものを書いてもウケるはずがないのです。「小説賞・新人賞」を獲りたくても、他に同じ世界観の作品があるとどうしても「二番煎じ」「柳の下の二匹目の泥鰌を狙う」ように見えてしまいます。
あなたの物語は本当に「中世ヨーロッパのような剣と魔法のファンタジー」で表現するべきなのでしょうか。また「中世ヨーロッパのような剣と魔法のファンタジー」であっても、J.R.R.トールキン氏『指輪物語』の世界観でよいのでしょうか。
この答えは書き手にしかわからないわけではありません。
その作品を読んだ方なら、この物語は「中世ヨーロッパのような剣と魔法のファンタジー」であるべきだったのか、正しく判断できます。かえって書き手のほうが色つきメガネで見ているぶん正しく判断できないのです。
「中世ヨーロッパのような剣と魔法のファンタジー」を「異世界」ではなく「VRMMORPG」で表現した川原礫氏『ソードアート・オンライン』の例もあります。
『SAO』の大ヒットにより「異世界ファンタジー」で「スキル」「レベルアップ」「ランク」といったゲーム用語を使う方が増えたのです。
確かに「異世界ファンタジー」であれば現実世界とは異なり、すべてが数値化・スキル化していても不思議はありません。ですが「異世界ファンタジー」と『SAO』のいいとこ取りしようとしすぎていて、受賞タイトルを見ただけで損する作品がなんと多いことか。
川原礫氏が『SAO』を構想した際、まず「VRMMORPG」ものにしようとは思わなかったはずです。それにしては主人公キリトのキャラクターが立ちすぎています。おそらく「最強の主人公」とはどんな人物か。まずそこから考えたはずです。
先に主人公を決めておく
おそらくですが「最強の主人公」のハンドルネームを「キリト」にしたのは、アニメの高橋良輔氏『装甲騎兵ボトムズ』無敵の主人公キリコ・キュービィーからだと思います。
しかし「キリコ」だと女性っぽい名前になってしまうため、音の近い「キリト」にしたのでしょう。そこから本名の「桐ヶ谷和人」つまり「キリがやかずト」に落ち着いたと見ています。
そんな「最強の主人公」はどこが最強なのか。「最強の剣術使い」と想定すると剣聖と称される宮本武蔵氏の「二天一流」つまり二刀流が挙げられます。「二刀流の主人公」が「最強」を見せつける場所は宮本武蔵氏のような果し合いか、戦争の中でが定番です。冒険者ではイマイチ世間に「最強」を見せつけられません。
ではどんな場所が向いているのか。
それを考えるためにも、もう少し主人公を掘り下げましょう。
キリトは「二刀流で最強」だけではどうにも設定が薄い。強そうなイメージ・カラーとして黒を選びます。通称「黒の剣士」。これだけでなにか強そうな気がしてきますよね。
剣術使いということですが、剣術で最も強いのはどんな人物でしょうか。
どんな武術やスポーツでも通用する「強さの強弱」があります。
技は力よりも強い。速さは技よりも強い。だから速さは力よりも強い。
見事な三段論法ですが、これが「強さの強弱」の真理です。
であれば「二刀流で最強」のキリトはとくに「速さで世界一」にしてみよう。これならどんな敵が相手でも翻弄して圧勝できます。
しかし「速さで世界一」をどう表現したらよいのか。悩みますよね。ここで「ゲームのようにステータスがあったら表現しやすくて便利だろうな」と気づきます。
はい、ここで「最強」を見せつける場所についてひとつ浮かびました。「ゲーム」です。
『SAO』はこのような過程で「ゲーム」とくに「VRMMORPG」を舞台に決めたように思えます。それならキリトの強さが「ゲーム内最速」で、そのゲームにはあるものを極めた者にさまざまなユニークスキルが与えられるとして「二刀流」をキリトだけのユニークスキルに設定したのです。これで「二刀流で最強」なのは「ゲーム」内でキリトだけに許された特権になります。
どうでしょうか。キリトを無理なく「ゲーム内で最強の主人公」に設定できましたよね。
あとは「ゲーム」の仕様を決めるだけです。
そうなのです。先に「ゲーム」ものをやろうと決めてから主人公を考えるより、先に主人公を考えてからどんな世界に設定しようか考えたほうが、物語で最適な主人公にできます。
主人公にふさわしい世界を設定する
ここから世界を設定していきます。
まずキリトは「主人公最強」で「ゲーム内最速のキリトだけがユニークスキル・二刀流を使える」となれば「ゲーム」で「主人公最強」を演出するためにも「MMORPG」は必須です。しかしそれでは迫力が出ないため「VRMMORPG」にします。これで小説に臨場感や迫力をもたらせるのです。
次に緊迫感が欲しいところです。どうしても「ゲーム」をクリアしなければならない設定にできないものか。クリアのない「ゲーム」も中にはありますが、それではただ単に「ゲーム内で自慢しているだけ」になってしまいますからね。
そこで考え出したのが「デスゲーム」つまり「誰かがクリアしないかぎりゲームからログアウトできない」仕様です。たったひとつの設定で緊迫感が生まれます。その「デスゲーム」を攻略するのが他ならぬ主人公キリトというわけです。これなら「主人公最強」もじゅうぶんに描けます。
「デスゲーム」とはいえ「VRMMORPG」である以上「日常生活」もあるわけです。そういった「ゲームクリアを目指さないキャラクター」がいてもよい。というより、そういう人がいないと攻略組が目立てません。
と、このように先に「主人公」を決めて、その「主人公」の活躍が映える「世界」を設定していくのが、本来の物語創りです。
先に「異世界ファンタジー」を書こう、からでは「主人公」の活躍に違和感を覚える展開しか創れません。そもそも「異世界ファンタジー」「中世ヨーロッパのような剣と魔法のファンタジー」を先に決めても、その世界でどういった「主人公最強」かを考えてもなかなかピタリと当てはまる主人公像は見つからないでしょう。すぐに見つかるのは「どこかの誰かが考えた主人公」とそっくりのはず。
キリトの設定を詰めていってVRMMORPG「ソードアート・オンライン」を生み出す方法こそ、無理なく「主人公最強」を見せつけられます。
あなたの物語創作法は、先に世界観を決めていますか、先に主人公を決めていますか。
その差こそ、面白い物語になるか凡作になるかの分かれ道です。
どうせ書くなら断然「面白い物語」ですよね。
最後に
今回は「主人公が活きる世界で書く」について述べました。
体調不良時に書いたものを、少し頭が冴えている状態でリファインしました。
先に決めるべきはジャンルや舞台ではありません。主人公です。
「強い主人公」ならバトル小説になりますから、「異世界ファンタジー」「現代ファンタジー」「歴史」「時代」「青春」あたりで問題ありません。
「恋におくてな主人公」なら恋愛小説になりますから、「異世界恋愛」「現実世界恋愛」「ラブコメ」あたりにしましょう。
先にジャンルや舞台を決めても、それを活かせない主人公になる可能性が高いのです。
それなら先に主人公を決めて、存分に活かせるジャンルや舞台を決めていったほうが縦横無尽に活躍させられます。
物事の順序を誤らないようにしましょう。




