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三百枚書けるようになるお得な「小説の書き方」コラム  作者: カイ.智水
構文篇〜正しい日本語を身につけるには
1422/1500

1422.構文篇:テーマは主人公の生き様で見せる

 小説には「テーマ」が必要です。しかし「テーマ」をそのまま書けばよいわけではありません。

「テーマ」は概念です。概念は抽象的なものであり、読み手には今ひとつピンとこないのです。

 小説で「テーマ」を描きたければどうすればよいのでしょうか。

テーマは主人公の生き様で見せる


 どんな小説にも「テーマ」が必要です。

 しかし「テーマ」をそのまま文字にするだけでは、なにも小説である必要がありません。

 なぜ「テーマ」を小説にして表現しなければならないのでしょうか。




概念は具体的に捉えられない

 小説で訴えたい「テーマ」はそのまま書くと概念でしかありません。

 概念は抽象的な存在(もの)であり、読み手はそれをすんなりと捉えられないのです。

 だから「テーマ」を直接文章にすると、読み手は言わんとしていることはわかっても、その深い意味までは理解できません。

 たとえば「一人を殺せば犯罪者だが、百万人殺せば英雄になる」という「テーマ」があったとします。これは喜劇王として名高いチャールズ・チャップリン氏が自ら製作・監督・脚本そして主役を務めた映画『殺人狂時代』(1947年公開)でチャップリン氏演じる殺人犯が死刑判決のシーンで叫んだ痛烈な現代批判です。

 この言葉はさまざまなバリエーションが存在します。中でも漢字の重複を避けるため「一人を殺せば殺人犯だが」「一人を殺せば人殺しだが」は採用しませんでした。「犯罪者」で「殺人罪を犯した」ことは明白だからです。

 もしあなたの文章に「一人を殺せば犯罪者だが、百万人殺せば英雄になる。」と書いたらどうでしょうか。その「テーマ」が持つ真意を読み手に過たず伝えられると思いますか。

 残念ながら伝わらないのです。そもそもこの一文だけを書いても、なんのことだかわからない方が多いはず。

 そこでこの一文の意味がわかるように「たとえ話」を書いてみたとします。

「独ソ戦において戦死・戦病死は概算だけでもソ連兵一千万人、ドイツ兵五百万人。民間人を入れると犠牲者はソ連側二千万人から三千万人、ドイツ側六百万人から一千万人である。それに対してホロコーストでの推定犠牲者は六百万人とされている。ヨシフ・スターリン氏は英雄としての実績があるのだ。」

 こう書かれていてもなかなかにわかりづらいですよね。

 さらに「たとえ話」を加えます。

「『一人の死は悲劇だが、集団の死は統計上の数字に過ぎない』と言ったのはスターリン氏ではなくドイツ人のアドルフ・オットー・アイヒマン氏である。彼はゲシュタポのユダヤ人移送局長官で、ドイツ軍が占領したポーランドのアウシュヴィッツに建てられた強制収容所へユダヤ人移送を指揮した人物でもある。」

 さて「たとえ話」をふたつ入れてみましたが、「テーマ」が実感としてわかったでしょうか。

 わかりませんよね。

 わからなくて当たり前なのです。「テーマ」も概念ですし、「たとえ話」もそれに具体例を添えた程度でしかありません。これがスラスラわかるのは、よほど教科書勉強が得意だった方だけです。

 教科書勉強は概念を学んだだけで応用までできるほど飲み込みの早い人にしか向きません。

 では教科書勉強が苦手で、概念を知ったところで真意を理解できない人はどうすればよいのでしょうか。




物語は具体的に伝える手段

 一周まわってきました。

 そう、物語で見せるのです。

 物語には「主人公が概念の端緒にいて、物語の結末でどうなっているか」を読み手に伝えるたいせつな機能があります。

 この「概念を物語で見せる」手法こそ皆様が一度は触れているはずです。

『学習まんが 日本の歴史』『マンガ 世界の偉人伝』の類いは小学生の時分に読みましたよね。

 マンガで書かれているから概念が物語として引っかかりもなくスムーズに頭に入ってきたはず。

 これが「物語」の力なのです。形がない概念だけのものを物語の形で読ませます。なぜその概念が起こったのか。どうやって結末から概念が導き出されたのか。それが物語の形で展開されるので、筋道の通った理屈を脳に刻めるのです。

「豊臣秀吉氏は小姓から天下人になった。」は概念です。

「小姓に生まれた藤吉郎が武士に取り立てられて羽柴藤吉郎と名乗る。やがて主君織田信長氏が本能寺で部下の明智光秀氏の焼き討ちに遭って死んでしまう。主君の仇である光秀を一番に倒した功績で朝廷から関白の地位に頂いて実質「天下人」となった。その後、関白職を譲って太閤の称号で呼ばれるようになる。」は物語です。

 どちらがわかりやすいですか。当然物語ですよね。

 単に概念として「小姓から天下人になった。」だけでは「どのようにして?」と疑問が湧きます。すべての疑問に一定の答えで読み手を納得させるのが「物語」の機能です。

『学習まんが 日本の歴史』『マンガ 世界の偉人伝』の学習効果はばつぐんだ!──は『ポケットモンスター』ネタですが、実際子どもが概念を憶える手段としてマンガはとても向いています。




小説も物語に仕立てればわかりやすくなる

 小説は概念をそのまま書いてしまいやすい媒体です。

 しかし概念は読み手に伝わらないものであると述べてきました。

 小説に必要なのは「テーマ」という概念ですが、「テーマ」そのものを書いても概念ですから読み手には伝わりません。

 だからこそ小説は、人物に物語を演じさせて「テーマ」が伝わる芸術なのです。そのために小説はあるのですから。

 教訓も概念のひとつですから、標語のようにそらんじるだけではありがたみがありません。物語で読むから正しい教訓が身につきます。

「テーマ」という概念をいかにして読み手へ伝えるのか。物語に仕立てればテキメンです。

 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』は名作とされていますが、「テーマ」を伝えきれているのかと聞かれたら「テーマは伝えきれていない」と思っています。

 ここまで書きましたが「テーマ」をそのまま書いても概念ですから読み手には伝わらないのです。そして『銀河英雄伝説』も「テーマ」を直接地の文やキャラクターのセリフ・独白で書いてしまっているので、やはり伝わりません。ヤン・ウェンリーに「腐敗した民主政治と、清潔な独裁政治のどちらをとるかという最も回答困難な命題を突きつけられている」と独白させています。これ独白以外の表現方法が本当になかったのでしょうか。腐敗した民主政治の側にいるヤン・ウェンリーと、清潔な独裁政治を体現しているラインハルト・フォン・ローエングラムを競わせれば済む話です。まぁ田中芳樹氏はヤン・ウェンリーに政治をさせるつもりがなかったようですので、その物語は成立しなかっただろうとは思いますが。

 同じくヤン・ウェンリーの独白に「民衆の大多数が、民主主義ではなく独裁を選んだとしたら、そのパラドックスをどう整合させるか」があります。これも独白で概念を語らせているのです。今ならアメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領が好例になります。アメリカ有権者の半数近くはトランプ大統領の独裁を選んだわけですから。その王朝も一期四年限りで終わろうとしています。当然独裁者トランプ氏は二期目も続けようと、各方面に圧力をかけているのです。これなどは独裁を選んだらどうなるかのお手本のようなもの。

 我々小説の書き手は、概念を直接書いてはならないのです。物語として読ませれば掴みづらい概念は具体化して形を持ちます。それを見れば読み手はすんなり納得できるのです。

 トランプ大統領の振る舞いを克明に書けば、ヤン・ウェンリーのわかりづらい自問は不要なのです。





最後に

 今回は「テーマは主人公の生き様で見せる」について述べました。

 ちなみに「生き様」と書いていますが「生きざま」ではなく「生きよう」と読むつもりで書いています。「生き(よう)」は「生きてきた様子」を指します。使いどころは「生きざま」の部分ですが、語感は正反対です。もっと相手を尊重する意があります。

「生き(ざま)」という言葉は「死に(ざま)」から生まれた、卑下して告げる際に使う造語です。本来の日本語には「生きざま」という単語はありません。小説でもできるだけ「生きざま」は使わないようにしましょう。

「テーマ」という概念を直接書くのではなく、人物の生き(よう)で表現するのが小説です。




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