1359.物語篇:物語103.旅する物語
今回は「旅」についてです。
「剣と魔法のファンタジー」は基本的に旅をします。
当たり前ですが、そうしないとラスボスにはたどり着けませんからね。
まさかラスボスがこちらのいる場所に出向いてくるのも変ですし。
物語103.旅する物語
「股旅」ものの物語があります。
博徒・芸人などが諸国を股にかけて旅をして歩く物語を指します。
そんな「股旅」ものには三種類があります。
探し求める旅・クエスト
まず旅をする理由を考えます。
なにかを探し求めるために旅する物語は、基本中の基本です。
『アーサー王伝説』の「聖杯探求」がとくに有名で、円卓の騎士がヨーロッパを巡って、キリストの血を受けた「聖杯」を探し求めました。
現在ではTYPE−MOON『Fate』シリーズにより「聖杯戦争」という形で根強い人気を誇っています。
探し求める旅に「クエスト」と付けたので、当然あの作品を出さざるをえません。
エニックス(現スクウェア・エニックス)『DRAGON QUEST』シリーズです。
基本的には初代の「りゅうおう」を探し求める旅なので、まさに名前のとおり。
世の小中高、いずれの生徒にも人気を博した「りゅうおう」を探し求める物語は、現在もなお続いている大ヒットシリーズとなりました。
「なにかを探し求める旅」は、見つかるまで連載が延々と続けられる利点があります。
逆に言えば、最初に訪れたダンジョンで見つかっても、いちおう「クエスト」は達成するのです。
しかしそれだといささか性急かと思います。
そのため「旅する物語」は連載小説にもってこいなのです。
ひとつの場所を原稿用紙三百枚・十万字で書けばよい。十地点訪れれば連載十巻になります。これほど連載に都合のよい物語はなかなかありません。
私は水野良氏の作品のファンなので『魔法戦士リウイ ファーラムの剣』シリーズを取り上げたいと思います。
この作品は、いずれ出現する「魔精霊アトン」を倒せる唯一の武器として「ファーラムの剣」が位置づけられているのです。
しかしどこにあるのかがわかりません。それで剣の国オーファンの国王リジャールの庶子であるリウイが、冒険者仲間の女性三人とともに大陸を巡る旅に出かけます。このとき「ロードス島」にも赴いてちゃっかりパーンとディードリットに出会っているのはご愛嬌。リウイとパーンたちのやりとりが読みたい方は『呪縛の島の魔法戦士』をお読みくださいませ。
大陸を巡っても見つからなかった「ファーラムの剣」はある人物がリウイのもとへと届けてくれます。実は魔法の国ラムリアースの王家が密かに所蔵していたのです。ただし「ファーラムの剣」は「魔精霊アトン」を倒す剣ではなく、「倒せる魔法戦士に鍛える剣」だった。そして同時代で数少ない魔法戦士でもあるリウイに希望が託されたのです。事の顛末は連載最終巻『魔法の国の魔法戦士』をお読みくださいませ。
このように、なにか明確なものを探し求める旅・クエストは、見つけ出すまで連載を引っ張れます。
逆に言えば、単巻完結が求められる「小説賞・新人賞」では評価されづらいのです。もし「探し求める旅・クエスト」を「小説賞・新人賞」に応募したければ、連載の最後の一巻だけを応募しましょう。これならきちんと探しものが見つかって物語がきちんと終われます。また「探し求める旅・クエスト」をしていた物語であれば、連載の可能性を選考側が把握しますから、将来性も買われるかもしれません。
だから「探し始める」から書かず、「探し終える」ところだけを書きましょう。
もちろん物語としての整合性をつけるために、連載で張っていた伏線をうまく処理しないと「まったく面白くない物語」になってしまいます。その点には要注意です。
旅行や取材で訪れたら事件が
次は旅先で事件に巻き込まれるパターンです。
これはマンガなら天樹征丸氏&さとうふみや氏『金田一少年の事件簿』が当てはまりますね。青山剛昌氏『名探偵コナン』は主人公の年齢設定からもそんなに都外へ出ませんが、『金田一少年の事件簿』は主人公が高校生なのである程度自由に旅ができるのです。まぁ行く先が「秘宝島」とか「墓場島」とかキラキラネームな名前ばかり。行ったら絶対なにかありそうな名称ばかりです。
取材で訪れたらは内田康夫氏「浅見光彦」シリーズが有名でしょう。ドラマにもなって多くの名優が主人公・浅見光彦を演じています。
私は中村俊介氏がいちばん記憶に残っているのですが、たいていは榎木孝明氏か辰巳琢郎氏もしくは沢村一樹氏かな? 水谷豊氏を挙げる方もいそうですね。
それだけ「浅見光彦」シリーズは時代を越えて人気を集めました。
さらに遡ると山田洋次氏監督&渥美清氏主演『男はつらいよ』があります。こちらはフーテンの寅こと車寅次郎が、旅先でマドンナと出会い、気を惹こうとしたり思いを寄せたりすると決まってマドンナの想い人が現れるのです。寅さんはいつも笑いながらマドンナと想い人をくっつけて、背中で泣いて新たな旅へと出かけていきます。
「一人の俳優が演じた最も長い映画シリーズ」としてギネスブックに認定されたほどです。人気もないのにシリーズが続くはずはありません。四十八作続いたシリーズで唯一寅さんが訪れていない県。それが高知県です。実は幻に終わった第四十九作『寅次郎花へんろ』で高知県のロケが決まっていました。
『男はつらいよ』と並んで「旅先で事件が」パターンの代表格はドラマ『水戸黄門』でしょう。こちらは第四十五部にまで及ぶ不動の御老公です。各部で目的地が決まっており、その途中に立ち寄った宿場で事件が起こる、という流れになっています。
水戸の御老公こと水戸光圀の俳優は誰を思い浮かべるでしょうか。東野英治郎氏は古すぎるかな。西村晃氏はかなり長い間務めていたので、最も水戸黄門を演じたと思われます。その後は佐野浅夫氏、石坂浩二氏、里見浩太朗氏、武田鉄矢氏と続きます。まぁ武田鉄矢氏は映画『刑事物語』の印象が強いため、格闘シーンではつい「螳螂拳を出せ! ハンガーヌンチャクだ!」とか思ってしまうんですよね。
こちらのパターンなら、原稿用紙三百枚・十万字の「小説賞・新人賞」に応募してもきっちり収まります。旅先で事件が起こり、それを解決していく物語だから、一回こっきりでもよいし、連載にして往く先々で事件を解決していってもよい。その可能性があるから、「小説賞・新人賞」では選考の評価が高くなりやすいのです。この作品なら人気があるうちに次々と旅をさせればいくらでも儲けられる。出版社にそう感じさせたら書き手の勝ちです。
東京で事件が起こり、足取りをたどって地方へ旅する
最後は「東京で事件が起こり、その足取りをたどるために地方へ旅する」パターンです。
西村京太郎氏『十津川警部』シリーズが有名ですね。東京で事件が起こり、被害者がどこそこから来たとわかる。その足跡をたどるために被害者が使用した電車に乗り、時刻表のアリバイトリックを見つけ出していく物語です。
以前ご紹介したエニックス(現スクウェア・エニックス)『DRAGON QUEST』の原作者・堀井雄二氏が製作した堀井文学三部作の『オホーツクに消ゆ』も、東京の晴海埠頭で発見された死体から手がかりを得て、主人公たちは北海道へと飛びます。
と、ここまで述べてきましたが、仮に刑事だとしてそれぞれ管轄があるはずです。つまり東京で事件が起こり、手がかりが北海道にありそうだとすれば北海道警に捜査協力を求めるのが筋です。東京の刑事が北海道まで乗り込んで、捜査を始めてはなりません。
ですが、たかが小説。そこまでリアリティーを求めたら、面白い物語なんて生み出せません。
もし時刻表ミステリーをやりたいのなら、どうしても十津川警部は現地まで被害者と同じ電車に乗らなければならないのです。
物語の面白さは、徹底したリアリティーからは生まれません。
荒唐無稽なほど振り切っていたほうが、面白い物語になりやすいのです。
面白さをとるかリアリティーをとるか。
警察小説を書きたいのであれば、徹底的にリアリティーにこだわってください。
単なる推理小説を書きたいのであれば、リアリティーが薄れても面白さを重視しましょう。
警察小説好きと推理小説好きとでは、求めるものが異なるからです。
最後に
今回は「物語103.旅する物語」について述べました。
「旅する物語」は連載小説にしやすく、シリーズ化された作品も数多くあります。
しかし「小説賞・新人賞」へ応募する際は、最初の一巻ぶんだけを応募してはなりません。未完だと思われてしまいかねません。「旅はまだまだ続く」では駄目なのです。
一巻完結の連作にできるようであれば、選考さんがシリーズ化の可能性を必ず見つけ出してくれます。
だから潔く一巻完結の物語に仕上げるべきです。
そうして初めて「旅する物語」は正当に評価されます。




