1336.物語篇:物語80.嘘と真実
物語80.嘘と真実
嘘が真実になってしまう物語があります。
「ファンタジー」に「緊迫感」を持たせるために使われるのです。
出来心でついてしまった嘘が真実になってしまうと、物語はなかなか収拾がつかなくなります。本心をすべてさらけ出すまで、どこかで嘘をついてしまうからです。
嘘が真に
「ファンタジー」を面白くするには、なんらかの「制約」があるべき。
その中で最もレベルの高い「制約」は「嘘」にまつわるものです。
とくに「嘘が真に」なってしまうと、なかなか収拾がつかなくなります。
この状況、影響が嘘をついた本人へと向かうのなら「コメディー」になるでしょう。しかし他人へ影響すると「サスペンス」色が強まります。ついた嘘の内容次第では他人を殺してしまう可能性すらあるからです。
たとえば学校のクラスでひとりに対して嘘を真のように言い広める。よくある「いじめ」行為です。しかし嘘をつかれたひとりが自殺してしまったら。今まで嘘をついていたクラスメートたちはほとんどが罪悪感に苛まれるでしょう。
嘘には人を殺す力があるのです。
しかし一般人はそれを理解していません。からかいの意味で嘘をばら撒いたのかもしれませんが、そのかるい気持ちが人を殺したのです。
「嘘が死を招く」なんて常人は及びもつかない。しかし厳然たる事実です。
もちろん学業不振による自殺もあります。ですが生徒の自殺で最も多いのは「人間関係」についてです。中でもクラスメートとの関係は学校生活を左右するだけに、とくに注意するべきでしょう。
小説でも学生生徒のときについた「嘘」が仲間の和を乱して解散に追い込んでしまったり、それこそメンバーの自殺を招いたりしてしまったりした過去を持つ人物が主人公となるケースがあります。そういった主人公は心に大きな傷を抱えており、物語は贖罪の旅が主眼となるのです。
「いじめ」という「嘘」がテーマの小説としては、川上未映子氏『ヘヴン』、山田詠美氏『風葬の教室』、瀬尾まいこ氏「温室デイズ」、乙一氏『死にぞこないの青』、荻原浩氏『コールドゲーム』などがあります。とくに重松清氏は『ナイフ』『ビタミンF』『十字架』とまさに「いじめ小説」の第一人者ですね。
子どもの頃についた「嘘」はついたほうもつかれたほうも、一生つきまといます。それを晴らすにはついたほうが相手に謝罪する以外にありません。
マンガの森川ジョージ氏『はじめの一歩』で、当初主人公の幕之内一歩をいじめていた不良の梅沢正彦が、のちにプロボクサーとなった一歩に謝罪してわだかまりを解いています。それだけでなく、一歩がボクサー生命を左右する局面で、一歩の代わりに「釣り船幕之内」を支えてくれたのです。やはり「いじめ」という「嘘」を素直に謝罪するたいせつさはマンガでも共通した解決法なのです。
願望が現実に
範囲を広げて「嘘が真に」なる物語はレベルが高すぎてなかなか見つけられません。そこで物語パターンの宝庫であるマンガの藤子・F・不二雄氏『ドラえもん』から例を引いてきます。
「嘘」ではなく「願望」が本当になったらどうなるのでしょうか。
『ドラえもん』には「もしもボックス」というひみつ道具があります。これこそ「嘘が真に」「願望が現実に」なる物語を地で行っているアイテムです。
使用者が「もしも○○が△△だったら」と昔懐かしい公衆電話ボックス型のひみつ道具で告げれば、そのとおりの世界になります。「もしもジャイアンがいなかったら」と言えば「もしもボックス」から出た世界にはジャイアンは存在しません。まぁ「願望が現実に」ということなのですが。
しかしのび太は次々と誰かがいない世界へと突き進んでしまいます。そして世界中の人が消え、のび太ただひとりだけしか存在しない世界になるのです。最初は伸び伸びとしていましたが、あるとき誰もいない世界がつまらなく思えてきます。そして悲嘆に暮れるのです。そこへドラえもんが現れます。「このひみつ道具は傲慢を戒めるために作られたんだ」と言って。そこでのび太は教訓を得るのです。
「願望が現実に」なる物語に絞れば、多くの作品が当てはまります。そもそも「勇者と魔王」だって、「勇者」の「魔王を倒して平和な世の中にしたい」という「願望」を「現実に」するための物語です。「恋愛」だって主人公の「あの人と親しくなりたい」という「願望」が「現実に」なる物語です。もちろん「悲恋」もありますが、それも王道の「恋愛」があるから成り立ちます。
見つからないならひねり出せ
こう見ていると「理想と現実」物語とかなりかぶる部分があるのがわかるでしょう。
そうなのです。「嘘と真実」の物語は「理想と現実」のサブセットなのです。
ただ「嘘」という「理想」とは真逆のものが「真実」と結びつくので異質に見えます。
これまで述べてきた物語には、たいてい真逆のものがあるのです。それに言及してきた物語もありますが、あえて語らなかったものもあります。
ではなぜあえて今回これをとりあげたのか。「ネタが尽きた」からです。身も蓋もない。
正直、ひとりの人間が思いつく物語なんてたかが知れています。それでも小説を書き続けていくためには、さまざまな物語を思いつけなければなりません。
「プロ」を目指す方ならば、百超の物語が必要です。その中で得手不得手があり、読み手層にウケるウケないがあるので、実際作品となるのは十あればよいほうかもしれません。それでもやはり引き出しは多いに越したことはありません。
そして書けなくても書いてみましょう。その結果「合わない」と思えば経験知になるのです。
最後に
今回は「物語80嘘と真実」について述べました。
私たちはついかるい気持ちで「嘘」をついてしまいます。それで傷つく人がいるのです。結果的に「いじめ」につながる場合もあります。
それだけでなく、社会そのものを変えてしまう力すらもたらすのです。
「嘘」は「願望」によるものがあります。「願望」を形にしたくてつい「嘘」をついてしまうのです。
「理想」はプラス面、「嘘」はマイナス面と分けられます。物語に負のイメージを持たせたければ、「理想と現実」よりも「嘘と真実」の物語がふさわしいでしょう。
今回は「嘘と真実」についてです。
「嘘」が現実になってしまう物語や、ついてしまった「嘘」があとあと大問題を引き起こす物語などがあります。
この世で「嘘」をついたことのない人はいるのでしょうか。まずいないと思います。お腹が減っていなくても母親にかまってほしくて泣く赤子もいますからね。「嘘」は社会の潤滑油となる場合も多いのです。ときには自分の本心に「嘘」をつかなければならない状況もあるでしょう。




