35 アニヒレイターの魔女VS怪盗フォルトゥナ 01
雷鳴にも似た銃声を轟かせながら、M2が連射する銃弾が、凰稀に憑依した魔女により作り出された、黒い石壁によって防がれる。石壁は砕け散るが、銃弾を防いでいる間に、閻がグレアムの元に駆け寄り、M2を桜花で両断して破壊し、グレアムの攻撃を妨害する。
黒い石壁の瓦礫が散らばっている、弾痕や斬撃の痕だらけとなった屋上で、戦いは続いている。敗北など有り得ないと思っているのだろう、凰稀に憑依した魔女は笑みを浮かべ、自分に襲い来る銃弾の雨を、黒い石壁を作り出して防ぎつつ、潰し合うグレアムと閻の戦いを、面白半分で見物している。
エレベーターシャフトの上にある穴の近くに立ち、魁は事態を打開すべく頭を巡らすが、良い手を思い付かない。魔女を相手に戦う為の方策を、魁は持ち合わせていないのだ。
「世界最高の探偵が……無様なもんだ」
自嘲気味に呟いた魁は、聞き覚えの有る声を耳にする。
「ああ、無様過ぎるな。アニヒレイターの魔女を暴走させた上、助手に戦わせるだけで何も出来ないんだから、無様と言う他は無い」
近付いて来た声の主が、右隣で立ち止まった為、魁は右側を向き、声の主を確認する。
「怪盗フォルトゥナ……君でしたか」
声の主は、穴から出て来たばかりの、花果王だった。
「スリルの身体に憑依したアニヒレイターの魔女を、グレアムを使って倒そうとしているが、スリルの身体を護りたいサスペンスに妨害されている……って所か」
屋上での戦いを見て、大雑把に状況を読み取った花果王に、魁は問いかける。
「察しが早い事で……。矢張り、この事態の発生を、君は知っていたんですね?」
「さぁね。でも……あたしが現れた以上、この状況が犠牲者ゼロで終わる事だけは、決まってる様なものなんだけど」
「――何か策でも?」
花果王に問いかける魁の左隣に、京が現れる。京も花果王に遅れて、屋上に来たのだ。京は右手に、拳銃を手にしていた。
「無い訳じゃ無い。あんた確か金庫室で、あのオカマのガキは、自由自在に武器を作り出せる超能力者だって、言っていたよな?」
京は拳銃のセーフティを解除しながら、花果王の問いに頷く。
「自由自在って事は、どんな武器でも作り出せるのか?」
花果王の問いに、今度は魁が答える。
「過去に実在し、姿形をグレアムが思い浮かべられる、持ち運べる大きさの武器ならね」
「アニヒレイターみたいな伝説上の武器であっても、実在したなら作り出せるんだな?」
「ああ、作るだけならアニヒレイターだって、グレアムは作り出せる」
「――作るだけ?」
「過去に何度か、伝説上の武器を作り出す実験を、グレアムにさせてみた事がある。実はアニヒレイターも発見直後に、作り出す実験を試みている」
魁は凰稀に憑依した魔女が振り回す、アニヒレイターを指差しながら、続ける。
「その類の実験の際、武器を作り出す事自体は成功するんだが、グレアムは体力を使い果たし、気を失ってしまうんだ。おそらく、負担がかかり過ぎるんだろう」
「つまり、伝説の武器は作り出せるが、作った本人は気絶して扱えないという訳か。気絶した場合、作り出した武器はどうなる?」
「そのまま残るから、問題無く使用が可能だ」
花果王は魁の説明を聞き、考え込む。
(こいつの話通りなら、あのアイディアが実行可能かもしれない!)
金庫室で、グレアムが持つ能力……アノマリーの存在を知った際、思い付いたアイディアこそが、花果王が魔女を倒し、犠牲者を出さずに事件の幕を下ろせるかもしれない、アイディアだった。上手く行くかどうかは分からないが、賭けてみる価値があるアイディアだと花果王は判断し、意を決する。
「あのオカマのガキを、こっちに戻せ! 作って欲しい武器がある!」
花果王は懐から携帯電話を取り出すと、ある物の画像を、モニターに表示させる。
「グレアム、こっちに来なさい!」
魁に命じられたグレアムはM2を消し、代わりに自動小銃を作り出して、牽制の掃射を行いながら後退し、魁達の元に駆け付ける。
「怪盗フォルトゥナが、君に武器を作って欲しいそうです。魔女を倒す為の、とっておきの武器を」
「そんな物があるのか?」
グレアムの問いに頷きながら、花果王はグレアムに、携帯電話のモニターを見せる。
「これを作ってくれ! かってアズルランドの勇者が、アニヒレイターに宿る魔女が暴走した際、倒すのに使った伝説の武器、ホワイトレイドルを!」
「――貴様……非常事態だというのに、ふざけるのもいい加減にしろ!」
モニターを覗き込んだグレアムは、花果王の襟首を掴んで揺すりつつ、怒鳴り続ける。
「こんな新婚家庭のカレー鍋に突っ込んでありそうなレイドルで、魔女を倒せる訳が無いだろうがッ!」
(やっぱ、そう思うよなー。どう見ても、これ勇者が使う伝説の武器に、見えないし)
伝説の武器というには余りにもふざけた、ファンシーな調理器具といった感じのデザインを目にすれば、そう感じるのが常識的なセンスだろうと、花果王自身も思うのだ。それ故、グレアムの憤りにも納得が行くのである。
「あたしも流石に、生死が関わる事態の最中、冗談飛ばす程に浮かれた人生、送って無いってば! これは今回の盗みの準備の為に、アズルランドのテリー博士の元を訪れて、取材した際に入手した情報なのよ!」
花果王は魁の方を向き、語りかける。
「あんたもテリー博士に取材したんでしょ? 圷秀光がアニヒレイターに願ったかどうかという点について、あんたと見解が違ってるって話、テリー博士から聞いたよ」
「その話、本当か?」
グレアムの問いに、魁は頷く。結果として、花果王がテリー博士の元を訪れ、取材したという話の裏が取れた事になり、グレアムは花果王の話を、信じてみようという気になる。
「分かった、だったら……作ってやる。でも、僕は伝説上の武器とかを作ると、気を失ってしまうんで……」
「話は探偵から聞いた。ホワイトレイドルはあたしが使って、絶対に魔女を倒す。だから、お前は安心して、気絶してろ」
「魁は荒事は向いてないからな、その方がいいだろう。それに京よりも貴様の方が、アニヒレイターに通じているようだし」
魁と京……花果王を見比べ、グレアムは結論付ける。
「――あと、手榴弾型の発煙弾を、五個程作って欲しい。牽制に使いたい」
花果王の要求を承諾したグレアムが、即座に作り出した、五個のパイナップル型の手榴弾の内、花果王は三個をポケットに放り込む。この手榴弾は、煙幕としての煙だけを発生させる、発煙弾なのである。
続いて、携帯電話のモニターに表示されている、ホワイトレイドルの残骸の写真と、ホワイトレイドルのCGを凝視し、グレアムはホワイトレイドルのイメージを、脳裏に刻む。そして、手榴弾型の発煙弾の際と同様にアノマリーを発動させ、脳裏に刻んだイメージのままの、白いレイドルにしか見えない伝説の聖杓、ホワイトレイドルを作り出す。
伝説の武器というには、余りにも頼りないデザインの武器が、拍子抜けする程に呆気無く、グレアムの手元に現れる。伝説の武器なのだから、多少は荘厳な雰囲気でも漂わせつつ、出現すれば良さそうなものなのだが。
出現こそ呆気無かったものの、作り出したグレアムの負担は、やはり半端なものでは無かった。グレアムは苦しげな呻き声を上げて、その場に崩れ落ち、魁に抱きとめられる。
「良くやった! 後は任せろ!」
魁の胸の中で、肌から大量の汗を噴出させながら、目を閉じている少女の様な顔を見下ろしつつ、花果王はグレアムの手から、ホワイトレイドルを奪い取る。そして、ポケットに入れなかった二個の手榴弾を、一個ずつ……魁と京に手渡す。
「サスペンスの邪魔が入ると面倒だ。あたしは魔女に専念するから、サスペンスが邪魔する様なら、それで牽制してくれ」
花果王の指示に、魁と京は頷く。
「さーて、偶然の奇跡でも、起こさせて貰おうかねぇ!」
不敵な笑みを浮かべつつ、凰稀に憑依している魔女に、花果王は目を遣る。猫が鼠をいたぶっている感覚なのだろう、余裕の表情を浮かべ、花果王達の様子を眺めている、凰稀に憑依している魔女を、花果王は睨み付ける。




