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33 グランド・フィナーレ 02

「そんな……本物の魔女だなんて……」

 呆気に取られた様な口調で、凰稀は呟く。

「それで、もう一度訊くけど、生贄は何処にいるのよ?」

 長い銀髪を手櫛で梳かしながら、魔女は凰稀に問いかける。

「――生贄なんて、いる訳無いでしょ。そんな時代錯誤な物」

 戸惑った様な凰稀の返答を聞いて、魔女は不愉快そうに眉を顰める。

「生贄を用意してないって? あんた、生贄も準備しないで、あたしに願いを叶えて貰おうなんて、図々しい真似した訳?」

「願いを叶えて欲しいなんて、言ってないってば! 俺は自分の願いを口にしただけで、あんたに叶えて欲しいなんて、頼んでない!」

 凰稀の言葉は事実なのだが、その言い分は魔女には通用しない。

「あんたはアニヒレイターを手にして、心の底から願ったのよ。だからこそ、あたしは目覚めたんだ……あんたの願いを叶える為に」

 鋭い目付きで凰稀を睨み付けながら、魔女は続ける。

「呼び出して願いを口にした時点で、あたしとの契約は成立してる。そして、あたしに捧げる生贄を、あんたは用意していなかった……魔女との契約を違えた訳よ」

「そんな契約、した覚え無いッ!」

 凰稀は反論するが、魔女は聞く耳など既に持たない。

「魔女との契約を違えた以上、あんたには手伝って貰わないとねぇ」

「手伝うって、何を?」

「あんたが用意しなかった生贄の、調達をよ。あたしには実体が無いから、あんたに身体を借りて、生贄となる人間共の命を奪うって訳」

 魔女は巨大な建物が林立している、ブラックボックス周囲の景色を眺め、満足気に呟く。

「大きな建物が沢山建ってる……人も沢山いそうだねぇ。命を奪うの、楽しみだな」

 辺りに多数の人間がいる事を確認し、魔女は舌なめずりをして、ほくそ笑む。

「この前に願いを叶えた圷とかいう男は、たった一人しか生贄を捧げなかったから、物足りなかったのよ、正直言って。今度は沢山の生贄を、味わえそうじゃないのさ」

 魔女の言葉を聞いて、秀光は魔女に願いを叶えさせただろうという、自分の推測の正しさに、魁は確証を得る。更に、もう一つの真実に辿り着き、魁は衝撃を受ける。

「怪盗フォルトゥナが変えようとした未来というのは、アニヒレイターに宿っていた魔女による、大量虐殺だったのか……」

 そして、真実に辿り着いた魁の目の前で、魔女の姿は黒い霧に戻る。黒い霧は凰稀に襲い掛かり、全身を包み込む。

 甲高い凰稀の悲鳴が、青空に響き渡った直後、黒い霧は一瞬で消え失せる。だが、黒い霧は消え失せたものの、凰稀の姿は霧に包まれてた時同様に、黒いままである。

 凰稀の赤いスーツやドミノマスクが、魔女が身に纏っていたローブの様に、黒く変色していたのだ。しかも、髪の色が魔女と同じ、銀色に変わってしまった為、凰稀は魔女になってしまったかの様な、外見と化していた。

「スリル……大丈夫か?」

 閻が凰稀の身を案じ、声をかける。だが、閻に答えた声は、既に凰稀の声では無かった。

「スリル……って子なのか、この子。いい身体してるじゃないか、小娘の癖に」

 凰稀……の身体に憑依した魔女は、両手と両脚の具合を確認するかの様に、適当に動かしてから、手にしたアニヒレイターを、何度か素振りしてみる。

「緊急事態だ! ブラックボックス内部及び周囲にいる人間……いや、青海及び台場から、全ての人間を退避させろ! 時間は稼ぐが……とにかく、出来るだけ早く!」

 無線機を使い、薊に指示を出した後、魁は全ての狙撃手に命令を下す。

「殺すつもりで、スリルを撃てッ!」

「ふざけるな、吾桑魁! スリルを殺すつもりか?」

 憤った魁が、魁に食って掛かった直後、青空に無数の銃声が響き渡り、銃弾の雨がブラックボックスの屋上に降り注ぐ。

「やらせるかッ!」

 凰稀に憑依した魔女の傍らで、大量の気を放出し、閻は気の壁を作り出す。全方向から襲い来る大量の弾丸を、全て弾く為に。

 しかし、気の壁は全ての弾丸を防ぐ事は、出来なかった、気の壁の死角となっていた、東京ビッグサイトの方向から放たれた弾丸が、凰稀に憑依した魔女に襲い掛かる。

 凰稀の絶叫が響き渡るかと思いきや、代わりに高い金属音が、辺りに響き渡る。破壊不可能であり、あらゆる物を斬り裂けると言われるアニヒレイターを、凰稀に憑依した魔女は鞘から抜き、弾丸を弾き返したのだ。

 安堵する閻の目の前で、凰稀に憑依した魔女は、不愉快そうに呟く。

「――雨は嫌いじゃ無いが、銃弾の雨は……お断りだよ」

 凰稀に憑依した魔女は、剣先で空に円を描くかの様に、アニヒレイターを振るう。すると、剣先が描いた円が黒い円となる。黒い円は急激な勢いで巨大化し、ブラックボックスを取り囲む、巨大な黒い壁に姿を変える。

 一瞬で、凰稀に憑依した魔女は、ブラックボックスの周囲に、巨大な黒い石壁を作り出した。遠距離からの銃撃を、全て退ける壁を。

 魁が仕掛けたグランド・フィナーレは、無効化されてしまったのだ。魔法としか形容し難い、魔女が操る秘術によって。

「さーて、とりあえず此処にいる連中から、命を……魂を頂くとしようかねぇ」

 そう呟くと、凰稀に憑依した魔女は、餌を目の前にした猫の様に、唇を舐める。

「グレアム! あらゆる武器の使用を許します! 魔女を滅しなさい!」

「了解!」

 魁の命令に応じ、グレアムは手にしていた自動小銃を消し、代わりに銃身の長さだけでも一メートルを越える、グレアムの身長より長い重機関銃……M2を作り出す。四十キロ近い重量を三脚で支える、鉄色のM2を前にして伏せると、グレアムは即座に、凰稀に憑依した魔女に狙いを定め、トリガーを引く。

 耳を劈く轟音を蒼天に響かせ、M2の大口径……五十口径(十二・七ミリ)の銃口は、マズルファイアと共に、大型の弾丸を迸らせる。大口径高威力のM2はリコイル……反動も大きく、銃撃を支える三脚とグレアムの身体は、背後に押し流されそうになる。

 凰稀に憑依した魔女は、グレアムがいる方向に向けて、アニヒレイターを振るう。すると、剣先が黒いラインを描いたかと思うと、黒いラインが黒い石壁となり、迫り来る銃弾を、トーチカの様に防いでしまう。

「あの女の子みたいな格好してる坊や、変わった魔法を使うわね」

 黒い石壁を、削り取る様に破砕し続けるM2を、グレアムが出現させた光景を思い出し、凰稀に憑依した魔女は呟く。

「止めろ! スリルを撃つな!」

 悲痛な叫び声を上げながら、閻がグレアムに斬りかかり、M2の銃身を切断する。

「馬鹿か、貴様は! 奴は既に魔女に憑依されている!」

 後方に飛び退きつつ、グレアムは切断されたM2を消滅させ、再びM2を作り出しながら、閻を罵倒する。

「だからと言って、仲間への銃撃を、見過ごせるかッ!」

「魔女をスリルから引き離す方法を、私達は知りません。そして、スリルに憑依した魔女を仕留めなければ、私達は全滅し……この辺りにいる沢山の人々が、スリルに憑依した魔女に、殺される羽目になります!」

 グレアムに斬りかかろうとする閻に、魁が説得を試みる。

「貴女の行動は貴女自身だけでなく、沢山の人々の命を危うくさせている! 義賊団を名乗り、これまで一人の死者も出さずに活動してきたというのに、ここで沢山の罪無き人々を……サスペンス、貴女は死なせるつもりですか?」

「そんな事、言われないでも分かっている!」

 分かってはいるのだが、それでも閻は、凰稀の命を見捨てる選択肢など、選べない。焦燥から来る混乱に、頭を支配された閻は、自分がどうすればいいのか分からぬまま、ただ凰稀の命を護ろうと、グレアムに斬りかかり続ける。



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