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26 何仙姫と実況中継

「――ブラックボックス北側における戦いは、サスペンス勝利という形で、決した模様です!」

 ブラックボックス上空を飛んでいるテレビ局のヘリから、閻とグレアムの戦闘を中継していた女性レポーターの声が、テレビのスピーカーから響いて来る。場所は私立鳳翔学園中等部、三年二組の教室である。

 午前九時半ば、一時間目の授業中なのだが、教室内に教師はいない。生徒達は勉強もせず、教室の右前の棚に設置されている、液晶テレビに見入っている。

 担当する教師が風邪で休み、三年二組の一時間目は自習になった。最初は皆、一応は真面目に勉強していたのだが、持ち込み不可のスマートフォンを、密かに持ち込んで弄っていた生徒が、ブラックボックスで発生中の事件を知り、テレビを点けたのだ。

 テレビは臨時ニュースとして、ブラックボックスで発生中の事件の生中継を、放送していた。元々、スリル&サスペンスの予告状が発表されていた為、テレビ局などのマスメディアの取材スタッフは、ブラックボックス周囲に待機していたので、スリル&サスペンスが騒ぎを起こした直後から、実況中継が始まっていたのである。

 義賊団として活動しているが故、犯罪者にも関わらず、一般人からの人気や注目度が高いスリル&サスペンスの起こした事件に、三年二組の生徒達は興味津々であり、皆が自習を止め、テレビを見始めてしまったのだ。無論、兄である怪盗フォルトゥナ……花果王の事が気になる何仙姫も、後ろから三番目の窓際の席で、テレビに見入っていた。

「やっぱアメリカ人のオカマのガキなんかに、斬撃小町が負ける訳ねーよ!」

「このまま、アニヒレイターも盗んじまえ! アルカナみてーな糞会社、酷い目に遭えばいいんだって!」

 男子生徒達が、スリル&サスペンス側を支持する言葉を口にすれば、生真面目そうな女生徒が、それに文句をつける。

「正義の為に盗みを働く義賊だとか言ったって、スリル&サスペンスは所詮、犯罪者の悪人よ! 犯罪者の悪人に肩入れするなんて、あんた達どうかしてるってば!」

 女生徒の言葉を耳にして、何仙姫は表情を曇らせ、俯いてしまう。正義の為に盗みを働く義賊であっても、所詮は犯罪者の悪人だという女生徒の意見が、何仙姫には兄を責める言葉の様に感じられ、胸を痛めたのだ。

 犯罪者の悪人として扱われる立場に、大好きな兄を追い込んでしまった事に、何仙姫は強い罪悪感に苛まれてしまう。

「あ! グレアムくん立ち上がったよ!」

 ブラックボックスの駐車場で倒れたまま、駆け付けた警察の救護班に介抱されていたグレアムが、起き上がり始めた光景を、テレビが大写しにしたのだ。意識をはっきりさせる為だろう、グレアムは自分の頬を両手で叩いて、気合いを入れている。

 積み重ねたトレーニングの賜物か、それとも救護班の処置が良かったのか、グレアムの意識の回復は、閻の想定より早かった。気を失っていたのは、せいぜい二分程度だろう。

 グレアムの復活を目にして、女生徒達は歓声を上げる。人格に多少の問題は有れど、美青年と美少年という組み合わせのプロビデンスは、女生徒達には人気があるのだ。

 罪無き者は殺傷せずという、閻のポリシーのせいもあり、グレアムの身体的なダメージは軽かった。身体の状態を確認し終えると、グレアムは閻を追跡する為、即座にブラックボックスに駆け込んで行く。

「何仙姫、グレアムくん大丈夫だったよ!」

 何仙姫の右隣の席に座っていた文月が、無邪気な口調で何仙姫に声をかける。

「あ、うん……良かったね」

 気の無い返事を口にしながら、何仙姫はテレビに見入る。兄が目的を果たし、無事に帰って来れる様に祈りながら。



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