第22話 ルルシステム
【AI利用について】補佐として、文章の精度を高めるための「校正(誤字脱字のチェック等)」にローカルLLMを利用しています。しかしながら、根幹となる思想、オリジナルな魔法や世界観、プロット、感情表現など、「物語の核」は完全に私の創作であり、一文一文に想いを込めています。
エデンの空を覆う粉雪が、
高くそびえる浮島「白陽」の曲線を描きながら静かに舞っていた。
冬特有の澄んだ空気は、遠くからでも透き通るように明るく、
時折、黄金色の柔らかな光が雲間を縫って差し込んでくる。
神界の奥。
最高位の観測スコープ(神々が箱庭を見るための巨大な水晶の目)の前に、
創造神ゼウスをはじめとする神たちが、畏怖にも似た衝撃に揺れていた。
アルトの放つ冷徹な「ジャッジメント」という一撃と、
女神サラの美しき存在感を増幅させる「ホログラム」が組み合わさった、
完璧すぎる上質なドラマ。
「まったく、あれは一体…何なのか」
ゼウスが深くため息をついた。この異様な光景には目が離せなかった。
神界では「裁く」ショーがリピートで上映されている。
理由は明白だった。
エデンで起きた「エセ宗教家」の迷惑行為が、
神々が管理する箱庭、あるいはリアル惑星のどこかで起きているからだ。
その結果、アルトへ「ジャッジメント」の往診依頼が殺到。
「『ジャッジメントリング』を無償で作り、提供してほしい」
と、かつての強硬派の神までもが陳情に姿を現した。
神界の緊急審議が開かれることになった。
ゼウスをはじめとする知恵の神や法の神たちが、激しく議論を交わす。
「でも、彼が仕掛ける『断罪』は、
我々が視聴者として眺めるだけでは収まりがつきません。
それほど、彼の力は…」
「アピアリングで現場に降り立つことも可能になっている。
自分たちで、対処すべきだ……」
だが、この一連の騒動が、過去類を見ない異変の引き金となった。
「アップデートします」
神々の脳裏に、突然合成された声が響いた。
神々の持つ「ルル(通貨としても扱われる神々のエネルギー量)」が、
みるみるうちに削られていく。
目の前のルルメーターに、今まで存在しなかった新たな表示が刻まれている。
右上の「依存度」という赤い文字だ。
よく見ると、その赤は点滅していた。
点滅するたび、ルルの値がリアルタイムで減少していく。
このルルシステム。
ゼウスが神となった時代以前から存在し、その出所は未だ闇の中だ。
神界の深淵に秘められ、誰も辿り着けない結界に守られている。
アルトですら届かない場所に。
このシステムが、初めての「大規模更新」を遂げたのだ。
かつては「貢献度」を示す緑色の値だけがあり、
ルルは加算されるだけだった。減ることはなかった。
ちなみに売買の履歴については別途、家計簿のような明細として残っている。
「……な、何が起きている?」ゼウスが息を呑んだ。
静寂を破り、神界の中心で雷鳴が轟いた。ゼウスは直感した。
特異点としてのアルトの出現が、システムを刺激したのだと。
新たに現れた「依存度」。
神界の中央審議会は、特設の調査部隊を立ち上げた。報告は苛烈だった。
「例の、偉ぶっていた神がアルトに『無償提供をせよ』と要求していた。
その依存度が激しく点滅し、ルルを食い尽くしている」
「また、アピアリングを都合しろ、あるいは自分の箱庭にリゾートを、
と頼んだ神たちも、ルルの減少が著しい」
かつての神々の常識ではありえない事態だ。
彼らは自らを孤高の存在と見なし、
そもそも他者に依存するなどという概念を持たなかったからだ。
さらに深刻なのは、この変更が「アピアリングの貸与基準」に直結したこと。
これまでは、「功績(貢献度)」のみで貸与を決定していた。
しかし、依存度というマイナス要素の発生により、
基準が「(貢献度 − 依存度)= 最終的功績」へと書き換えられたのだ。
その結果、「強制返却」のペナルティが発動する例が次々と現れた。
これは「神の契約」による最上級の罰。
貸与基準を下回った神は、即座に神界の謁見の間へ強制召喚され、
神官たちの目の前で、借りたものを返却させられる。
さらに、二度目の貸与には初回の10倍の功績が必要となる。
「フー、これで彼らとオサラバできる。一生、来てくれなくていいからなっ」
アルトは万々歳だ。
「客足は減るけどね。まあ、アルトがいいならそれでいいかしら」
サラは寛大だった。
委員会では現在、この「依存度」の定義を精査中だ。
「依存」とは「都合よくぶら下がって、もらいっぱなし」のことをいう。
「後で償う」として一時的に頼ることや、
「未成年の子供が親に頼る」ような場合は依存とは見なされない。
つまり、「依存」と「頼る」は別物だった。
「貢献度」の定義は、
褒められる、人々から信仰を集める、崇拝されるなど、広範だ。
これは神々だけでなく、
人々の感情までをリアルタイムで集計しているとしか考えられない。
ありえないほど広大で精緻なシステムだ。
これを逆に見れば、
迷惑をかけたり、疎まれることさえも「依存」にカウントされるのだろう。
神々は、当然の権利として享受してきた「ルル」という甘美な報酬が、
実は「他者からの肯定」という、
恐ろしくも繊細な土壌の上に成り立っていたことを知ったのだ。
これからは、
七光りで地位を得ただけの者や、何もしないのに特権を享受する者が、
気づけば「依存の沼」に沈み、ルルを削られ続けることになる。
ルルがゼロ、あるいはマイナスになれば、
神格そのものが剥奪される可能性すらあり得る。
神々は、甘えを許されない時代へと突入した。
そしてより鮮明に悟った。
自分たちをも、より高次の「観察システム」が監視し、
最適化しているという現実を。




