表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/20

第16話  トレカ

冴えわたる秋の夜空の下、月明かりが銀色の絨毯を敷き詰めている。アルトは肩まで浸かり、満天の空を眺めていた。隣には、穏やかな眼差しでアルトを見守るカイザーがいる。


「なるほどな。つまりアルトがこの世界に呼ばれた真の目的は、コンテンツ人気稼ぎ、つまり『視聴率』対策だったわけじゃ」


カイザーがふっと笑みを浮かべて呟いた。いつも達観しているが、この言葉にはどこか毒味がある。


アルトは水面に浮かぶ葉を指で弾き、苦笑した。


「だから、最初から『好きに楽しんでいい』って言われたんだよな」


「ようブチ切れんかったのじゃ。もしそこでキレてたら、今の我らも、このエデン全体も消えておったかもしれんぞ」


「あぁ。だからこそ、『マインド』を習得させられたのかもな。相変わらずサラらしい」


アルトの思考は冷たい夜気に溶け込む。あの「コギト・エルゴ・スム」の響きが、今も耳の奥に残っている。


カイザーが腹をさすり、さりげなく話題を転換した。


「それでアルト、先ほどから気になるんじゃが。ホッペに何かついておるぞ。赤ん坊に思いっきりビンタされたみたいじゃ」


「あ……。これは、ご褒美のボンボンシールというか、いや、なんでもない」


「ボンボン?少し気になるが……。ときにアルトは、サラ様を呼び捨てにしておるのか?」


カイザーが、アルトの表情を真剣に見つめた。


「サラからの指示なんだ。今は神格も逆転しそうな状況だしな。これから長く付き合う相手だし、地上に降りる時は呼び捨てにして、気楽に接してほしいって。その方が楽しいでしょう、ってね」


「……わしも、そう言われた時は驚いたのじゃが」


カイザーは自身の状況を思い返し、少しだけ声を潜めた。


「まあ、さすがに名前だけは『様』をつけさせてもらうことにしたわい」


「ふふ、カイザーらしいね。守護龍としての矜持は捨てられないみたいだな」



静寂は、唐突な水面の揺れで破られた。サラが、湯けむりを纏いながら微笑んでいる。


「あら、いい子ね」


アルトが気を利かせて場を詰めたのだ。


「サラ、聞いてたのか」


「ええ、そうよ。このエデンは『箱庭』。シミュレーションゲームみたいなものなの」


サラは指を鳴らすと、水面に淡く光るインターフェースのような紋様を描かせた。


「箱庭同士で交換したり、人気が出たものは高値で取引されてるわ。このエデンは、絶対神を生み出した『聖地』。プレミアがつきまくって、今や非売品の限定品よ」


「トレカかよ……」アルトは思わず頭を抱えた。


「それでね、わたくしもとばかり召喚者を招くのがブームになってしまって」


「ある神は、召喚者にチートをバラ撒いたのに、初日から街へリバーシを売りに行ったって怒ってたし、マヨネーズを作って売るやつもいたらしいの。神になるのに何年かかるんだ!って」


サラは楽しそうに笑うが、その背後には、巨大な商業主義的な狂気が渦巻いていた。


「ある神は召喚者をドラゴンの近くに送ったのだけど、初日から食べられちゃって。誰も成功してないみたいね」


カイザーが、おでこを軽く押さえる。


「アルトは二日目に、カイザーを屈服させてたのに。あれは、本当にビックリだったわ」


カイザーの目が泳ぐ。


「ある神は召喚者を増やしたら、勇者だらけになっちゃって。『視聴率上げるには、パーティーの誰かをダンジョンの底に落として、勇者にザマアのやられ役をさせるしかない』って嘆いていたのよ」


「邪神とか悪魔とか、シーンが暗くなるから好きになれないし」


「超絶好みな子を召喚して、強い神になってもらって、それで結婚するんだっていう神もいるわ」


「〇〇〇〇かよ……」アルトは呆れて空を見上げた。


「視聴率とコンテンツのバランスってのが、一番難しいのよ。そもそも召喚者が神になるなんてありえない。リアル箱庭の世界では、本当に何が起こるか分からないからね」


サラはアルトに身を寄せた。先程までの企業の役員のような余裕は消え、純粋な遊び相手としての微笑みを放っている。


「それで、僕は……神界に行くことになるの?」


「う~ん、今は行かない方がいいわ。あの『アピア』の反響で、アルトが来るのを手ぐすね引いて待ってるのよ。『求婚』とか『お見合い』とか、もう大変よ」


「絶対行きたくねえ」アルトは強烈な拒否感を示した。


よろしければ評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ