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第1話  ログハウス 露天風呂 時空魔法 ドラゴン

静寂と安らぎを求める20歳のアルトにとって、この異世界での生活はまさに夢のような始まりだった。目の前に広がるのは、淡い緑の芝生のような草原。元の世界のプレッシャーから解放された、穏やかな景色だ。「ここなら心静かに、のんびりと暮らしていけるだろう」満天の星空の下で、ゆったりと露天風呂に浸かる。アルトはそんな切ない夢を抱いていた。


アルトは死にかけていた。大学の実験で発生した毒性ガスによるものだった。その惨状を目撃した女神様は急遽、瀕死のアルトを召喚し引き寄せた。臓器の多くは毒で壊死しており、女神様はその組織を再構成した。その結果、ハイヒューマンと呼ぶべき身体的能力に優れた体に進化していた。


こうして救済され、剣と魔法が息づく中世ヨーロッパ風の異世界へ導かれた。「新しい世界を楽しんでくれたらいい」 そう言って贈られたのは、あまりにも強力なチート「魔法創造の力」だった。


アルトは早速、空間に断層を作ることで、それを「結界」にできないか試した。「時空魔法」の応用だ。驚くほど容易く、空間に強固なバリアを張り巡らすことができた。これは空間を切り裂く、つまり「切断」という攻撃にも使えると知り、その圧倒的な有用性に手ごたえを感じた。この結界は好きな場所に配置したり、自分の体に薄く貼り付けたりと、日常の安全のために常用することにした。


次に挑戦したのは「物質創造」。思い描いたのはテラス付きの小さなログハウス。魔法でそれを具現化させると、広大な草原の中に、風情ある佇まいで出現した。北には雪を頂いた山脈、南には静かな湖、そして湖の向こう側を囲むように紅葉した森が連なる。ログハウスはこの息を呑むほど美しいキャンバスに、さりげなく溶け込んでいた。


魔力にはまだ余裕があったため、露天風呂も造ることにした。ログハウスの隣に、大人三人ほどが浸かれる岩でできた露天風呂を創造した。湯は、水魔法と火魔法を組み合わせて沸かすことができた。


夕暮れ時。露天風呂に身を沈めると、湖面に映る夕日が世界を黄金色に染め上げていた。風呂上がりのビールや大好きなカレーライスも魔法で「クリエイト(創造)」でき、光魔法で小さな灯りやふかふかのベッドも。それはまさに至福の一日だった。女神様への感謝の念と共に、アルトは深い眠りへと落ちていった。


翌朝、耳をつんざくような騒音と共に目覚めた。結界のすき間から、唸り声が漏れ聞こえてくる。窓の外に目をやると、巨大なドラゴンが容赦なく襲い掛かっているのが見えた。しかし、アルトが造り上げた結界はその猛攻を完全に無効化していた。


身に纏う結界を確かめ、勇気を振り絞り外に出た。するとドラゴンが忌々しげにブレスを吐いてきた。そのブレスは凄まじい熱を帯びていたが、空間を遮断する結界は物理にも魔法にも無敵だった。


「くっ」。アルトは一瞬の隙を見逃さず、お返しにと、そのドラゴンの頭部を結界で包み込み押し込んだ。 ドラゴンは動きを止め、アルトをじっと見つめてきた。「………息ができない」


さらに次の瞬間、ドラゴンは青ざめ、ハッと目を見開いた。「この結界は、首を簡単に切断できる刃なのだ」と気づいたようで、助けを求めるように念話を飛ばし、腹を上に向けて必死に服従のポーズを取ってきた。


魔法を解くと、ドラゴンは「力のあるものに従う」という習性を見せてきた。面倒だと感じたアルトは「頼む、友達でお願いする」と懇願。するとドラゴンは人懐っこそうなおじいさんの姿へと人化し、カイザーと名乗った。


カイザーはこの草原を殊の外気に入っていたが、アルトが住むなら歓迎すると許可してくれた。ならばとアルトは、指定した範囲の時間を戻す魔法「リペア」を唱え、傷んだ草原をあっという間に修復してみせた。それから早速、作り付けの露天風呂にカイザーを誘い、最高のひとときを共有した。


満天の星空の下、アルトはカイザーから「この地は人里から遠く離れているので、背に乗せて飛んでいこうか」と誘われた。けれど貴族が支配しているらしく、そんな理不尽そうなものに関わりたくはない。穏やかなこの地で、自分だけの居場所を築いていくことに決めた。


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