第八話
村長は葉巻をふかしながら、僕にこの世界のことを話し始めた。
「いきなり言われても困るだろうが・・・これは現実なのだ。君もここまで来るまでに違和感はなかったかね?ここは、地球によく似ているだろうが、全く違う世界だ。」
村長は続ける。
「違う世界というのはつまるところ・・・この世界には魔法がある。現実に、みんなが一般的に使っている。
君たちの神話に出てくるような神獣もいる。実在する。神様も当然いる。時代としては・・・文化としては、君たちの言う中世に似ている」
まるで絵本のお伽噺だ。この村の言い伝えか?だとしても、この状況でこんな話をするのか?
・・・この村長は少し、おかしいのかもしれない。
そんな僕の思考が態度に出ていたのだろうか。村長は少し顔をしかめて、
「フム・・・まぁ、どうせ帰ることはできないのだから。嫌でも信じることになるさ。」
「その、帰ることは出来ないって、どういうことですか」
世界云々はまだいい。ただ、帰れないというのは気になる。もしやこの村の風習で入ったものは出してはならないとか、そんな物騒なことがあるのかもしれない。
「そのままの意味だよ。神様は別の世界から君たちを連れてくることはあれど、帰らせたりはしない。何度もそれを試みたものがあったようだが、成功した例は聞いたことがない。」
・・・また妄想か
「・・・村長。僕は軍人です。国のために戦わねばなりません。そのためには自分の部隊に戻る必要があります。我々イギリス軍は、あなたの国、フランスを守るためにやってきたのです。そんな妄想に付き合ってる暇はないのです。」
僕は立ち上がって言った。これ以上時間を無駄にしたくない。
「・・・そうかね。では、君はどうしたら納得してくれのかね?」
僕は少し考えたと、
「では、見せてもらいましょうか。あなたの言う、一般的に使える魔法というのを」
「いいだろう・・・ここでは狭いから、外に出ようか。」
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「このあたりならちょうどいいだろう」
そういって、村長は僕をさっきまで話していた家の裏手に連れてきた。
「これは我々が初級魔術と呼んでいるものだが・・・」
そういうと、村長は手を開いて腕を突き出し、目をつぶってブツブツと何かを唱え始めた。
神秘的な光景だ。村長の手のひらに光が集まっているようだった。
やがて、村長は何かを唱えるのをやめ、目をカッと見開き
「ファイヤ―!」と叫んだ。
次の瞬間村長の手から文字通り火の玉が飛び出した。
地面は草むらだったから、このままでは燃えてしまうと思ったが、火の玉は飛び出しただけですぐに消えてしまった。
僕があっけに取られていると、
「どうだい。これで分かったかね。もちろん、こんなのはチョット練習すればこの世界ではだれでも使えるようになるんだよ。」
これは初級だからね、と付け足す村長。
・・・ハッキリ言って、手品のようには見えなかった。でも、手品というのは、えてしてそう見えないようにするものだから、いまいちまだ信じることができない。いや、信じたくない。
「そ、それでも・・・あっリーンさんを呼んでくださいよ。誰にでも使えると言うのならリーンさんもできるはずですよね?」
僕がそういうと、
「いいとも。すぐに呼んでこよう。」
と言って、村長は行ってしまった。
もし、これが本当だとしたら。本当に帰れないとしたら。・・・僕はどうすればいいんだろう。
しばらくして、村長はリーンを連れてきた。
リーンはさっきの村長と同じ手順で火の玉を簡単に放ってしまった。
僕は落ち着いていた。実感はわかなかった。取り敢えず、村長の話をある程度信じようと思った。