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その4

「いかがでございますか!?」

「おわかり頂けましたでしょうか!?」

「我らと城へ向かって頂けますか!?」

先ほどと同じ土下座のような姿勢のままマナを見上げる3人の目がキラキラと輝いている。

瞳が濡れたように黒く、肌も浅黒い。一見アラブ人のようだが、高く整った鼻梁はむしろ西洋人に近い。

「貴方達、どこの出身?」

出し抜けにマナの口から飛び出した言葉に、マナ自身が驚く。 

マナはすでに目の前の男たちが役者である、という可能性を捨てていたようだ。

(となると残るは夢だから)

目が覚めるまで流れに身を任せてみよう、と決心する。

となれば疑問に思ったことはどんどん聞いて、朝起きたときにハルカに電話して面白おかしく話せばいいのだ。

ハルカのことを思い出し、一瞬何か大切なことを忘れているような気になったものの、とりあえずは目の前のことに集中しよう、と3人の方へ意識を戻す。

しかし3人が口を開こうとしたその時、マナの背後の地面からズズズ、と大気全体を震わすような不穏な音が耳に届き、次いで、ドーン!と何か巨大なモノが倒れるような音が鳴り響いた。

「なんてことだ…!」

3人は先ほどまでのにこやかな表情を一変させ、鋭い眼差しをマナの背後に向けている。

「聖なる泉のほとりの木々ですら例外ではないというのか…」

「ここも危ない!」

言うが早いか、

「失礼致します!」

「きゃあ!?」

3人のうち真ん中に陣取っていた男が、真正面にいたマナへ、タックルを仕掛けてきた。

咄嗟に目を瞑ったマナだったが、予想していた痛みはなく、代わりに体がふわりと浮いたと思った次の瞬間には逆さまになっていた。

「ちょ、ちょっと!?」

顔にあたる分厚い布は、おそらく背中にあったマントだろう。砂混じりで肌にあまりよろしくない。

「しゃべると舌を噛みます!馬まで少しの間我慢してください!」

そうこうするうちにも背後では、ズズズズ、ドーン!という音が断続的に響いている。

マナの目には、自分を背負う男のブーツの踵と緋色のマントしか見えない。

よくよく見るとマントは分厚いだけでなく、精緻な刺繍が施されていたが、その糸の間に砂が入り込んでしまっている。

どうあっても砂漠で生活する者のものとは思えない。

(しかも、馬?馬って言った?)

砂漠と言えばターバンにラクダなのでは?とお決まりの砂漠の絵を頭の中で描いてみる。

(さすが夢だと、何かしらの現実との齟齬があるわけね)

足場の悪い砂漠で疾走するのはだいふ体力を消耗するだろうが、男のスピードは常に一定でマナを落とす心配もなさそうだ。

50メートルほど走ったところで、ふいに男が足を止めた。

すっと上体を丸めてマナを地面に下ろすと思いきや、やおら膝裏を持ち頭上高く掲げ、マナが戸惑いを覚える暇もないほど素早く馬の背に乗せた。

すでに馬上には、先に馬にたどり着いていた2人のうちの1人が乗っており、呆然としたまま横乗りになっているマナ越しに手綱を掴んだ。

「聖女様、恐れ多くはございますが私の腰にしっかりとお掴まりください」

一瞬ためらったものの、馬が歩き出し体が前のめりになったとたん勝手に体が動き、男の腰にひしっとすがっていた。

背後では、先ほどよりも勢い良く倒木の音が響いている。

しかしマナを気遣ってか、馬はそれほど速く走っていない。

気がつくと両サイドに馬が並んでいる。

「兄上、これはもしかすると…」

右サイドに陣取った1人が口を開けば、

「この勢いの増し方、間違いないな」

左サイドが答え、

最後にマナよりも頭ひとつ分高いところから、

「竜神様が我らにやきもちを焼いておる!」

腹の底から出したであろう声が、マナの頭のてっぺんを震わせたせいで一瞬理解が遅れる。

「は!?りゅうじん!?」

せいじょ、にりゅうじん?

後者の漢字は二つほどしか思い浮かばないが、いずれも意味するところは一つ。

「竜の神様がやきもちを妬いてる?」

「その通り!さすが聖女様!!」

「いや待って、わたし何もわかってないから!」

そんな感心されても困る。

「貴方様は、竜神様の花嫁候補としてこの世に遣わされた聖女様です」

(サラッと理解に苦しむこと言われた!!)

「竜神様はご自分の花嫁候補と仲良くしている我らに嫉妬しているのです!」

「え、なんにもわからない」

わかりたくない、の方が心情としては勝つ。


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