第3話『この世界ではない』
「――ここは……」
朝になり、カナタはソファーで目を覚ました。この屋敷に空いている部屋がなかったため、彼はソファーで寝ることになっていたのだ。
窓から陽光が差し込み、開けた目を閉じて立ち上がる。
(あ、そうか。俺、異世界に来たんだったな……)
やはり、信じられない。こんな世界があるなんて。まあ、夢でもなく本当に起こっていることだ。一人では為す術がない。
「――おはようございます。早いですね」
「え? あ、えっと……セレナ、さん?」
「はい、そうですよ」
声がし、後ろを向くと獣人メイドのセレナがいた。朝早いというのに、目もしっかり開けていて眠そうな雰囲気がない。
「いつもこんな早くに起きてるんですか?」
「そうですね。朝食を準備しないといけないので。ま、今日は学園ないんですけどね。この時間に起きるのが癖になってしまって」
そう話しながら、キッチンで料理をしているセレナ。料理のいい匂いが流れてきて、鼻をクンクンとさせていると、また声が聞こえてきた。
「あれ、もう起きたんですか〜? 早いですね〜」
セレナとは異なり、欠伸をしながら気だるそうに歩くもう一人のメイド。名はエルフィーネだったか。セレナと比べればだらしないように見える彼女だが、こんな豪邸に仕えているなら彼女もなにかあるのだろうか。
「? アタシのこと見てどうしました〜?」
「あ、いや。こんな広い豪邸でメイドって大変なのかなって気になって」
「そうですね……あまり大変では無いですよ? 私たちだけ動くのではなくて、ライン様たちも自分のことや色々としてくれるので助かってます」
「そだね〜。みんな優しいし〜。楽しいよね〜」
――大人数で生活してるのは、楽しそうで本当に羨ましい。
――その時、玄関の扉が強くノックされた。
「あれ、誰か来てるのかな〜?」
「手が離せないですね……。すみません、出てもらっても良いですか?」
料理に集中しているセレナとエルフィーネにグッドサインを送り、カナタは扉を開けた。
そこには、腰に剣を携えている、青みがかった銀髪の少年がいた。
「――えっと、君は? ラインたちいるかな?」
「え、ラインたちですか? 今寝てますけど……」
「そっか……。じゃあラインでいいから起こしてきてもらっていい?」
「あ、いいですよ」
目の前の少年にそう返し、カナタは一度セレナたちのもとに向かった。
剣を持っているのだ。なるべく刺激しないように冷静に対応し、メイドに伝えようとしたのだ。
「あの、腰に剣付けた男が来てるんですけど……。ラインたちがいるか? って。あの人大丈夫な人ですか?」
「剣を持ってるんですか? えっと……髪色は?」
「銀髪に青がかかってました」
「じゃあ大丈夫な方です。私たちの友達ですので」
その言葉に安堵し、カナタは頭を下げて階段を登って行った。
◆◇◆◇
――五分後、カナタは眠そうなラインを引っ張りながら玄関まで戻ってきた。
それを確認すると剣を持った少年はラインに話しかけた。
「おはよう。朝早くにごめん。実は昨日、二名の盗賊が指名手配されてね。ここら辺に逃げているらしくて。それを追ってるんだけど、見なかったかい?」
――二名の盗賊? なんか見た事あるな……。そう思ったカナタがラインを見つめると、彼も全く同じことを考えたのか、こちらを見てきた。
「ちなみに特徴って?」
「特徴は――」
剣の男が教えてくれた特徴。うん、間違いなく昨日のあいつらだ。そういえば、カナタが助かってからすぐに逃げたようだが、指名手配されるような奴らだったとは……。
「あー、俺ら昨日会ったヤツだな。逃がしちゃった。悪い」
「会ったんだ? じゃあ一緒に来てくれない? 見つけて欲しい」
「ああ、わかった」
男の頼みにラインは了承し、ついて行った。扉が閉まると同時に、一気に全身が安心した。敵意がないとはいえ、剣を持った男と会話するのは怖すぎた。
(ハハッ、怖すぎこの世界……)
元の世界ではこんな場面遭遇することは無かっただろう。閉めた扉を背もたれにしていると、階段を降りてくる三つの足音が聞こえた。
それは、アレス、セツナ、レンゲのものだった。ゆっくりと降りてくると、彼らは自分の席に座る。すると、机にはいつの間にか凄い完成度の朝食が置かれていたのだ。
「あ、カナタ君! こっち来て!」
元気いっぱいな少女――レンゲに手で招かれ、カナタは昨日座っていた席に着く。
「兄さんは?」
「なんか腰に剣を持った人について行ったよ。昨日会った盗賊の件で」
「ああ、私がぶん殴ったやつのこと? あれ捕まえとけば良かったね」
「……セツナ、そんなことしてたの?」
「仕方ないじゃん。首にナイフ向けられたんだから」
「じゃあ仕方ないか」
アレスとセツナがそう話していると、レンゲが声をあげた。
「ラインお兄ちゃんもすぐ帰ってこないと思うし、食べちゃお!」
そして、セレナとエルフィーネも席につき、
「いただきます」
と言って食事が始まった。もちろん、昨日の夕飯に変わらず美味い。美味しすぎて感想が言えない。料理に夢中になっていると、アレスがカナタに声をかけた。
「ねえカナタ。昨日みんなで話して、聞くか迷ったんだけどさ」
「――? どうしたの?」
「――カナタって、この世界の人じゃないよね?」




