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勇者は聖女の夢を見る  作者: 茲
1章 王宮スローライフ
9/16

8、礼儀作法教室③

金髪縦ドリルは黄金比

 ぎこちない動きで前菜にフォークを差す。さくっ、と小気味いい音と共に野菜にフォークがめり込んだ。おそるおそる口に運び、咀嚼する。瞬間、みずみずしい旨みが口全体に広がり、遅れてやってきたソースの甘みがゆったりと混ざり合う。

「…っ…!……!………!!」

美味しい。美味しすぎてもはや声が出ない。

「…いいなー…俺も食べていいか?」

大急ぎで天国を飲み込み、ぴしゃりと忠告する。

「ダメです。って言うかリズドさんは監査なんですから、お手本以外は食べちゃダメじゃないですか」

「じ、じゃあ、お手本食べよう!」

「物凄い下心丸出しですね…」

しかもお手本食べるってなんだよ。お手本は食べられないよ。せめてお手本見せよう、にしたほうが良いんじゃないですか?

「…まあ、一応試験なので、作法ではシェアは基本ダメなので」

「…!殺生な…!」

「大げさな。って言うか試験はどこに行ったんですか」

リズドさんはその言葉にはっと我に帰った。もんんのすごく悔しそうな表情をしながら、

「…えーと、まあ、今のところ動きがぎこちない以外は特に問題ない」

と本来の目的を始める。

 って言うか、僕、結構ちゃんとできてない?一応今まで作法とか礼儀とか全く気にしてなかった人ですよ?動きがぎこちないのは慣れればいいことだし、いい感じだよね?

「あ、背筋はちゃんと伸ばせよ」

早速注意された。女王様にもダンスで言われてたし、やっぱ僕、姿勢悪いのかな?

 姿勢を意識しながらも、僕は前菜を食べきる。天国の余韻を味わっていると、リズドさんがちょいちょいと手招きする。

「?」

「一応、お前、家来貴族だろ。流石にすぐに家来として働くわけにはいかないし、明日からの家庭教が仕込むけど、これもチェックしとく必要がある。空の皿で構わねぇから、テーブルに運んでみろ」

嘘でしょ。

「えー…」

「えーじゃねぇ。ちゃんと家庭教やってるだろ」

それは大前提なんだけど。

「リズドさん、食べたいだけなんじゃないですか?」

「うるせえ!って言うか、空のって言ったろ?!」

「はいはい」

僕は適当に受け流すと、さっき食べ終えた前菜の皿を両手で持ち上げた。ぐるっと回って、自分でもぎこちなさすぎると感じる動きでテーブルに置こうとする。ごとっ、とこの場所に似合わなそうな音と共に皿が置かれた。「…分かってはいたが、まじでダメだな」

リズドさんが顔をひきつらせる。…そんなに僕の接待ダメ、っすよねぇ……。

「その様子じゃあ明日一日じゃ難しそうだな。接待って意識しながらしたのがいけねぇのか、笑顔もぎこちなさ過ぎる。さっきの愛想笑いはどうしたよ、カシ」

でしょうね。って言うか明日も一日って決めてたんですか。普通に考えて無理でしょ。

 っていうか、僕は別に緊張とかしてませんし~?そんな顔でリズドさんを見ると、なぜかため息をつかれた。おいどういう意味じゃぼけぃ。

「ま、礼儀作法も家来としての能力なんて、一朝一夜で習得できるもんじゃねぇけどな」

そうと分かってたんなら本気で一日で仕込もうとするのやめてください。「って言うか、リズドさんはどのくらいの日数で習得したんですか?」

リズドさんはその言葉を聞くと、少し困ったようにぽりぽりと頭を掻く。「…あー…十、か月くらいかな」

「ほとんど一年じゃないですか。やっぱり一日なんて言わずに、こつこつと鍛えた方が良いってことじゃないですか!」

僕の言葉にリズドさんは驚いたように目を見開く。

「…まさかニートから地道にやれ、って言われるとは思わなかったな」

「元です!元!!」

「今だって研修期間じゃねぇの?」

「……」

確かに、そうだ。どうしよう。僕、実質今も無職だった。するとリズドさんがおもむろに口を開いた。

「ま、それも今のうちだ。頑張ってしっかりとした能力身に付けて、僕はちゃんとした人間だって胸張って生きれるようになれ」

「………分かりました」

「なんだ、妙に素直だな。偉そうにするなとか、そういうの言われると思ったんだけど」

その言葉にせっかく真面目に答えてやった僕はかちんときた。

「別によくないですか?それに、もし文句を言うようだったとしても適当に答えるんでしょう?まあ、確かにリズドさんに正論を説教されるとは思いませんでしたけど」

一気に吐き捨てると、リズドさんは軽くたじろく。ふっ、このくらいで済んでよかったなぁ?

「正論を説教て…って言うか、俺に対して、さっきから言いぐさ酷くねぇか?!」

「酷くないですーリズドさんが余計な一言を毎回言うからですー」

「な、なんだよそれ!」

と、僕とリズドさんが口論をしていると。

「あなた方、先程からうるさいですわよ」

どうやらうるさすぎたようだ。誰かに注意されてしまった。

「すみませっ…」

僕は謝るべくそちらの方を向き、絶句する。

「おう、久しぶりだなぁ、ゴルド」

「久しぶりじゃあありませんわ、さっきから勇者様と口論ばっかして、うるさいと言ってるんです」

「…ああ、まあうるさいことは謝る。だけど、あれはあいつが良い感じに煽ってくるからなんだよ」

「それに反応するあなたもいけませんわ」

リズドさんがその人物と会話していても、僕の目は一つのドリルに集中しまっていた。いや、するしかなかった。

 …縦ドリルだ、初めて見た。


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