9、縦ドリル教室
初めてこの小説でバトルっぽい描写が出ます。
はい、と大きく手が叩かれる。
「私が今日勇者様に家来貴族のことについて教える、ゴルド・ファリヴィアです」
……ちょっと待って、この人なの?いや、別に嫌とかそういうわけでは無いんだけど。ゴルド・ファリヴィアと名乗った人物は高めのヒールを履いているらしく、こちらに向かってくる時にコツコツと音が響く。白地の少し豪華なローブのような服を身に纏い、綺麗な金髪を持ったどこにでもいそうなその人は、たった一つ。たった一つ、全然どこにでもいそうな人じゃない要素があった。
「…勇者様、家来貴族というのは、よくも悪くも中途半端な位置付けです。前回、この国の成り立ちについてなども教わっていると思うので詳しい説明は省きますが、家来貴族は実質的に言えば、下位貴族とほとんど同じ様な存在です。…一つ、違う点を挙げるとすると、王への護衛が選ばれ、王の元で暮らすことがある、くらいでしょうか」
ファリヴィアさんが色々言っている。けど、けどっ…!
…せめて、髪型変えてきて欲しかったッ!縦ドリルが気になりすぎるッッ!だって!!縦ドリルだよっ?!生まれてこの方聞いたことはあっても見たことなかったんだよ?!
「勇者様が選ばれた側近は、この護衛の意味も含まれています。私は元々アルラ様の側近だったため、そこそこに…なんですか?」
縦ドリルに気をとられ、中々内容が入ってこない僕を不審に思ったのか、ファリヴィアさんが訊いてくる。
急に話題を振られた僕は焦り、少々怪しい挙動を取りながらもなんでもないことを伝えようとする。
「えっ、あっ、な、何でもないんですけど、はい。ファリヴィアさん、ところで家来貴族がなんでしたっけ?」
すると、ファリヴィアさんは大きくため息をつく。
「…はあ、まあ初めて会った方は大抵そうなります。この髪型ですよね?…これは、ファリヴィア家の親戚から伝わってきた少しだけ伝統的な髪型です。セットに少々時間がかかりますが、何回かセットしていると固定されてきて、最終的には朝が楽になるんですよ?」
…気付かれてた。親戚から伝わったものが伝統的なのかは謎だけど、縦ドリルが固定されるなら、変えてきてくれなかったのは納得がいく。
「ずっとここばっかり見られていたら、誰でも気付きますよ」
……まじか。僕、そんなに見てた?
「がっつり見てました。勇者様ほどなにも隠さず見てきた人は初めてです。そういう意味でも、勇者様ですね」
う、うれしくねぇ…!
「まあ、これからアルラ様の側近となるのですが。…一日で、頑張りますか?」
僕はファリヴィアさんの言葉に大急ぎで首を横にぶんぶんと振る。
「ふふ、冗談です」
「…っ、心臓に悪い冗談やめてください……」
もう、一日で仕込もうとするのほんとやめて。こっちにも精神的に負担かかるから。
そんな僕を憐れに思ってくれたのか、ファリヴィアさんが話題を戻す。「…家来貴族は、よくも悪くも中途半端な位置付けです。前回、この国の成り立ちについてなども教わっていると思うので詳しい説明は省きますが、家来貴族は実質的に言えば、下位貴族とほとんど同じ様な存在です。…一つ、違う点を挙げるとすると、王への護衛が選ばれ、王の元で暮らすことがある、くらいでしょうか」
ふむふむ。確かに、下位貴族って食堂のシェフも含むみたいだし、家来と言ってしまえば下位貴族もそうなってしまう。
「勇者様が選ばれた側近は、この護衛の意味も含まれています。なので、最初に必要なことがあります。私は元々アルラ様の側近だったため、そこそこ強いんですよ?…こほん、失礼ながら勇者様にはどのくらいの強さなのかを知るため、私と戦って示してほしいのです」
……。………あー、うん。………戦う、ね。
「え?!?戦う?!?!」
「はい」
えっちょっと待って僕精神が追い付いていないんですがやばいですそもそも僕アルラ様に一週間位コーチしてもらっただけだしあんま強くないしはっ、それじゃあ死ぬんじゃ?いやいやいやいやベツニシヌトカナイデスヨネ?
「では、この部屋では少々心もとないですし、決闘用の部屋へ移りましょう」
いやあのファリヴィアさん僕心の準備がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!!
などという僕の心の叫びも、パニックになってもつれた口では
「うぇ…はぃ……ぁ…」%$/storage/emulated/0/NovelNote.sn.jp/images/20200912145200208$
としか言えず、ファリヴィアさんには
「なにをしているのですか?早く行きましょう」
と言われ引きずられることとなった。
今、僕は練習用らしい木剣を持たされ、決闘用らしい部屋にいる。僕の構えはあれほど仕込まれたにも関わらず、とても隙だらけに見えるだろう。…実際心が付いていっておりませんからねぇぇぇぇえええええええ!!!「では、まずこちらから行かせていただきます。まあ、勇者様ですので、大丈夫でしょうけど、一応の確認です」
確認って、責任と期待が重いんですが?!あと、大丈夫ならそれでいいじゃないですか!確認しなくてもさ?ね?ね?
「…ふっ」
ファリヴィアさんが練習用らしい木剣を僕に振るってきた。
「ほぇー…」
はっ?!ね、狙われてる…!僕は慌てて形だけの構えを引き締め、ちゃんとした剣術の構えにする。
「…はっ!」
ファリヴィアさんが短い気合いと共に僕の首を狙ってきた。…首って、ころすきですか?と心の中で涙眼になりながらも一歩下がり、木剣で受け流す。女王様直伝の受け流し剣術はファリヴィアさんを若干よろけさせた。…今!僕はあまりにもダメ出しをくらったおかげでトラウマになりかけの技(といっても簡単なフェイントだが)を繰り出す。
「っやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
カァン。
決闘用の部屋(正式名称なんだろう)に、木剣の打ち合わさる音が響く。
そこで僕は木剣を滑らせ、思いっきりファリヴィアさんのお腹辺りを狙う。…首のほうに意識を向けながら。
「…!」
ファリヴィアさんがかかったのを感じ取りながら、僕はそのまま突きを維持し続ける。ファリヴィアさんが一瞬遅れてフェイントに気付くが、もう木剣の切っ先はファリヴィアさんのお腹に数ミリほど近い。
「…くぅう」
…で、止めるのがかなり辛い。なにしろ全体重をかけての突きだからね。足を妙に派手な音をたてながら地面に下ろし、肩と腕と手首に謝りながら踏みとどまる。
「……参りました」
ふぅぅぅぅ、よかったぁ。
僕がわざわざトラウマフェイントを使った理由は、ただ単に負けそうだったから。一週間ほどの短い期間で教わると、必然的に実戦的な技術などを教えるには時間が足りなくなる。だけど、僕はニートの前はある程度体力があったため、ぎりぎり教わることが出来たのだ。だから、なんとなくお嬢様育ちっぽかったファリヴィアさんに使ったという訳だ。




