第十一話 日記と誓い
初投稿からもう六年たっていることに驚きつつ最初のころの投稿を読み直しているとさすがにひどすぎたので書き直しています。
さて、ではまずは机に乗せられている日記。これを読ませてもらうとしよう。
「もちろん抵抗はあるよ。当たり前じゃん」
見ず知らずの他人の日記だぞ。普通に抵抗あるよ。
でも、読めと言わんばかりに机に乗せられていたところから見るにこの日記は読まれることが前提のはず、はずだ。きっと、たぶん。うん
であればまずは読んでみる。話すはそれからだろう
四月十八日
私は結婚を約束していたあの人に裏切られた。しかも私の会社の同期、それも私が友人だと思っていたあの女とデキていた。
信じていたのに!
愛していたのに!!
私がどれだけ名に叫ぼうともあの男もあの女ももういない。私が全部知った時にはもう逃げられていた。しかもあの男は私に黙って借金を重ねていたらしく、知らないうちに私が連帯保証人になっていた。
めまいがするほど巨額の借金を抱えてしまった私は絶望のドン底に叩き落され、この世のすべてに絶望した。
ようやく病弱な母さんを安心させられると思ってたのに
まだまだ就職したばかりの弟にこんな負担をかけさせるわけにはいかない。もういっそのこと借金取りさんの言うとおりに内臓を売るなり風俗で働くなりしないと生きていけないのかも
目の前が真っ暗になって何も考えられなくなった私は耐えきれずに廃ビルの屋上から飛び降りた。
が、
女神と名乗る変な女に邪魔された。ふざけんな! 死なせてよ! もういっそ殺してよ!! 言葉が思いつく限り私は女を罵って死を懇願して泣き叫んだ。思えばあれだけ大声で力の限り泣き叫んだのは初めてだったかもしれない。
女神サマが言うにはこのままでは地球が危ないらしい。でもだから何? としか私は思わなかった。当然だ。今から死のうとしているのにもうこの世界がどうなろうと知ったことか
自暴自棄になっていた私に女神さまが説明を続けた。
もう全部がどうでもいいから死なせてほしいと言う私に女神さまは言った。
「もしもこの仕事を引き受けてくださるのなら貴方の借金は私が肩代わりして、貴方をここまで追い込んだ男も女も当然の報いが下るようにしてあげる」
私はこの一言でこの方こそ女神だと確信できた。でもまだ信じられなかったので具体的にどうなるのか、どんなことをしてくれるのかを訪ねた。
「長い」
あと暗い。そして重い
何この日記。人間のドロドロした黒い部分を煮詰めたような内容だった。書いたのは鉛筆か? 何度も芯が折れたような跡があってどれだけ力を込めたのかどれだけの思いで書いたのかがうかがえる。
日記はその後も続いていった。ゼンブを詳しく説明するとそれだけで何冊も本ができそうだったからやめよう。うん。
結論から言えばまずこの日記の持ち主に女神サマがなり変わり、持ち主を騙した男と女を見つけ出して訴える。結婚詐欺と書類偽装の罪にかけて慰謝料を大量にふんだくる。
そして持ち主が抱えた借金をチャラにした後は持ち主の家族に持ち主の言葉をかけ、持ち主は海外に赴任したことにする。
以上が女神サマが提示した条件だった。後はオレと似た条件。魔物討伐などで世界救済に貢献した後で報酬金が発生し、その一部が家族に振り込まれると言う内容だった。
持ち主はこの内容で満足し、一部だけ条件を付け足してこの仕事を引き受けた。
その一部条件と言うのは自分を騙した男と女が苦しむところを見せてほしいと言う内容だった。納得できる為しょうがないことではあったが女の恨みは恐ろしいと思った。
そしてこの世界へとやってきた彼女は様々な出会いや別れ、苦労したり悦楽を楽しんだりしながら多くの人々と苦楽を共にして最終的に『彼女』はこの世界で結婚して数人の子供を育てたようだが女神から頼まれた仕事もこなし、いつからか人々から『大賢者 マーリン・サラト』と呼ばれるようになったらしい。
ここは彼女が晩年を過ごした研究所らしく、本来であれば大国の首都に用いられるような魔物よけの結界が張られているらしく、どんな魔物であろうともこの家に侵入してくることはできないらしい。
普通であればどんな堅牢な結界であろうともきちんとメンテナンスをしなければいずれは結界を維持できなくなるらしいがそもそもこの結界はダンジョンから発生される魔力を原動力にしており、ダンジョンが消滅しない限りは原動力の枯渇はしないらしい。さらに一定期間放置され続けていると自動的にメンテナンスされる機能もつけられているようで普通ではありえない程に長持ちする特別な結界であるいことが分かった。
「と言っても書いてあることの半分も理解できてないんだけどな」
魔法に関することか? 途中からわけのわからんことが書き綴られていて半分どころか一部も理解できてないと思うが結論でそう書かれていた。
「ここにある本全部読めば理解できるのか?」
あまりの本の量に絶望しそうになるがもしもこの日記に書いてあることが本当ならこの結界を自分で張れるようになれるのならやる価値は十分にある。
全くの未知に挑む高揚感がほのかに胸に灯ることを感じた。
日記はまだまだ続いており、研究に関する走り書きのようなものもあればその日食べた夜食の出来栄えなどが書かれていた。
終わりに近づくにつれてだんだんと次にこの家に施してある結界を解いてこの家の所有者になったものに向けてのメッセージになっていった。
私の次に女神さまに頼まれてこの世界へとやってきたヒトよ。どうか私の研究結果を受け継いでほしい。
この家の結界は『転生者』もしくは『転移者』しか開けないようにいくつもの仕掛けと暗号を仕込んである。この日記を見ていると言う事は君は私と同じはずだ。女神さまに頼まれてこの世界へとやってきた。そうだろう?
私ではこの世界のアルファメスを押し戻すことができなかった。魔物が多すぎる! 腐った貴族が多すぎる!! 人殺しを楽しむような外道が多すぎる!!!
私が果たせなかった仕事を君に引き継がせてしまって申し訳ない。だからせめて私が研究した財産を受け取ってほしい。私にできることはもうこれしかない。きっと役に立つはずだ。
元の世界を捨ててこの世界へと来たのなら君の今までの人生はおよそ恵まれた者とは言えなかっただろう。だが、どうか絶望しないでほしい。
私はこの世界で最愛の夫と出会えることができた。私の生涯の宝と言える子供たちを授かれた。私はこの世界で『幸せ』になることができた。
だから君もこの世界で幸せになれる。そう信じて生きてほしい。
坂本 真理
日記はこう締めくくられていた。きっと日記のこのページだけ文字が滲んでいるのは…
普段のオレなら『そんなものは成功者が言えることだ』『人生で挫折したことがないヤツが言えることだ』と吐き捨てるだろう。日本でいくら頑張っても決して楽にならなかった生活。母さんや京香がいてくれたから幸せだと言えたが決して楽しいだけではなかった生活。
そんな生活を続けてきたオレは芸能人や一流企業の社長などの「成功した人々」の言葉が大嫌いだった。だってどうしても見下されてるような不快感と屈辱感がぬぐえなかったから、どうせホントの成功のコツなんて教えるつもりなんてないくせに当たり障りのない言葉だけ並べて優越感にでも浸るだけのつもりのくせにと僻んでいるからだ。
でも、この日記にはそうはさせない想いと重さがあった。この人がどれだけ絶望と戦ってきたのか、その中で愛する人やその子供たち。尊敬できる仲間に出会えたことがどんなに幸せだったかがわかる。
そして、そんな気持ちのいい話だけじゃない。胸クソが悪くなるようなことがあったかも事細かく書かれていた。
人を人とも思わず、己の快楽のためだけに骨の髄までむしゃぶりつくし、飽きたら途中投げ捨てるような真似をする貴族に悪徳商人にギャングに暴力団。
動物が生きるためにほかの動物を捕食するのと違う。弱者を甚振り、嘲笑うながら殺す悪辣な魔物が引き起こした惨劇。
強い奴にはこびへつらい、弱い奴には尊大な態度をとってその生涯を弄ぶような盗賊に山賊の類。そしてほんの気まぐれにそれらを討伐しただけ、しかも実際に討伐したのは無理やり徴収された農民たちのくせにさも自分が英雄であるかのような物言いをするゴミのような貴族もいた。
ほんの文字だけ
実際にこんなことがあったかもわからない。だが普段の文字は丁寧で見やすいのにこれらの部分だけに震えて歪んでいてわかりにくい文字。これはきっと怒りや憎悪や悲しみに震えて書いた文字なんだとわかる。文字を各インクとはまた違う色合いの斑点。これはきっと血。己の激情を抑えても抑えきれずに唇をかみ切ってしまったのか血涙でも流したのかは分からない。
だがこの文体のすべてに怒りや後悔に悲しみと憎悪がこれでもかと滲み出ていた。
正直呼んでいるだけで気分が暗くなるし、書いている人物の感情とリンクしてしまうのか読んでいるだけのオレも吐きそうな気持になってくる。正直言って読みたくなかった、読ませるような真似をした坂本さんを恨みもした。と言うのが本音だ。
だがそれはそのこともきちんと知っていてほしいから、ゲーム感覚なんかでどうにか出来るような軽い事じゃないと言う事をわかってほしいからだということがわかる。
ホントにこの世界が好きになれたから、地球では自殺までしようとするほど世界が自分自身が嫌いだったのにこの世界で多くの人たちであえて世界が何より自分自身が好きになれたんだ。
だからこそ見ず知らずの他人であるオレに自分の人生のすべてが書かれた日記を残したんだ。受け継いでほしいんだ。
自分が積み上げてきた想いを
自分が思い知ったこの世界の現状を
自分が作り上げた絶望を打ち砕きうる力を
そして、日記からちょこっとだけ伝わる自分が成し遂げられなかったことに対する悔しさもそのすべてを受け継いでほしいんだ。
だから
「わーったよ。坂本さん」
誓おう。
「あんたの研究した魔法は全部オレが継がせてもらう」
困難に立ち向かい、何とかしようともがいてあがき抜いた偉大な先輩に
同じ女神さまに導かれ、家族のために友人のためにその命をかけて大きなことを成し遂げようと挑戦し続けた先達に
そして手に入れた財産を見ず知らずのオレに託そうとしてくれる優しく心強い前任者に誓おう。
「そしてオレがこの世界のアルファメスを正常に戻してやるよ。どうか、天国ってヤツから家族と一緒に見守っててくれ」
オレもこの命を懸けて成し遂げて見せることを
さて、誓いはあれでいいとして、まずは
「寝よう」
もういい加減限界だ
ほんの数日。一週間にも満ちていないはず。だがもう気分的には久しぶりに安全で文化的な睡眠をしよう。
先輩が遺してくれた搔巻布団を着て床に突っ伏して寝た。
何かここまで書いておいてなんですか。これ、もう別の作品では? と我ながら思います。ですが主人公もヒロインも変わらないのでこのまま書き直してしまおうと思います。




