48話 fascinatio/幻惑
光の翼は機動力の固まりだ。大抵の攻撃は当たらない。時速? わかるわけがない。一瞬で景色が後ろに流れる。
ハヤトが火炎を巻き起こし、ラート氏が雷を落とす。ドジョーが斧を抱えて突進する。
【ディスタント・クラッシャー】を準備。飛んでいる僕の頭上に魔法陣。さすがにこの魔法の時は停止しないと使えない。それを知っているのか、ラート氏がぼくを狙う敵に優先的に雷魔法を放ってくれる。オープンフィンガーグローブに魔法発動のための魔法陣が刻印されているようだ。
巨大な魔法陣に青白色の光が集まる。発射準備完了。
「喰らえっ!」
光の濁流。そう表現するのが一番相応しい。注ぎ込む魔力の量で威力が増減するこの魔法。注ぎ込める最大の分を撃ち込んだのだ、もちろん魔法陣なんてぶっ壊れているはず──あれ?
「壊れてない……?」
『おいどした!? ぽかんとしてんなよ!』
ハヤトからフレンド通信が届く。ポケッとしている場合ではないのは間違いない
『壊れてないんだ! まだほかに条件があるはず!』
何か覚えていることはないか、とハヤトに伝える。ぼくを除いた3人は経験が上だ。さっき、見覚えがあるような反応をしていたから、同じようなことに遭遇していているはず。その知識を活用してもらわねば。
『光の具合はどうだ、弱まっていたりするか?』
『少しだけ!』
『なるほど』というハヤトの言葉を最後に、いちど通信が途切れる。回線は開かれたままだが、ぼくとの通信はオフになっている。
「どう思う、ラート?」
「見覚えがあるな」
周囲を囲む妖魔の群れをなぎ倒しながら、そんな会話を2人はしている。余裕を持てるあたり、やはり素直にすごいと思う。ぼくは必死だ。飛んでくる矢を弾き、魔法には抵抗し、飛んでくる石つぶてを避ける。いつまで囮やってればいい?
「多分あれは、全員でダメージを与えて壊すタイプのものだ。北で見たやつと同じだろう」
「やれやれ、どうするよ?」
「若いのは元気だねぇ、おじさんには大変だよ」
「よく言うぜドジョーさんよ、無傷じゃねぇか」
なにやら楽しそうな会話をしている。とりあえずマナ・ビームやスフィア・ブラスターを撃ちながらひらひらと逃げ回る。
妖魔モンスターはお世辞にも頭がいいとは言えないから、遠距離攻撃手段がある敵はこちらを攻撃し続けて、まったくハヤトたちのほうを向いていない。まぁ、マスクデータで管理されているというヘイト値だって、あんな魔法(ディスタント・クラッシャー)を撃っていたんじゃ、ぼくに向くのは当たり前だ。
「先に行くぞ、ハヤト」
「おいおいちょっと待っ──」
「ふんっ!」
大地を揺るがすような轟音。地上から天へ走る雷。ぼく達を包囲していた妖魔の半分以上が空に打ちあげられる。……何事!?
敵に阻まれて見えにくかった後ろの3人がよく見える。……ん?
ラートが拳を地面に叩きつけたようだ。片膝を一緒についている。今の技は彼か。おっどろいたなぁ。雷属性魔法の範囲攻撃持ちかぁ。なんで最初に囲まれたとき使わなかったんだろう。おかげでハヤトに掃除を頼むことになったぞ。敵が空に打ちあがる面白い光景を見られるのだったら、ラート氏に頼んだのに。
「どうした? 首を取りに来い!」
わぁお、挑発。
もう1回、同じ動作。挑発に引っかかってラート氏に突っ込んでいった妖魔の群れが、天高く打ち上げられた。
その隙を縫って、ドジョーとハヤトがこちらへ走りこんでくる。どうしても邪魔してくるやつは斬り飛ばしながら。レベル差あると無双だね、まったく。
「遅れたな、そら!」
ハヤトが赤熱させた剣を魔法陣に突き刺し、ドジョーが思い切り斧を振り下ろす。そして、少し遅れて魔法陣に到着したラート氏の踵落とし。
ガキーン、という金属が折れるような音がして、地面に敷かれていた魔法陣が消えていく。ポップし続けていたモンスターの一部がごっそりといなくなってしまった。さらに、妖魔系のモンスターが増える様子は見られない。
「やっぱりか。クエストを受諾した人数で攻撃をしないと破壊できない魔法陣」
顎に手を当てたラート氏も様になっている。ぼくがやったら似あわないんじゃないかな。ハヤト? どうだろうね。
「北のときは大変だったなぁ。なにせ妖魔系じゃなくて悪魔系が無限湧き。パワーレベリングには最適だったけど、二度とやりたくないもんだね」
「今回は楽だったと思おうぜ、ドジョー」
「せやな」
ドジョーは半目でハヤトを見ている。「北」の経験というのは、ろくなものではなかったようだ。しかし、今回は楽だ。ボスである悪魔騎士はともかくとして、現在周囲にいる敵は格下。くわえて、ぼくも含めて、範囲攻撃持ちが3人。散発的な集団に対して、範囲攻撃をくりかえせば、それほどの消費じゃなくても敵を倒しきることができた。
「とりあえず、第1段階はクリアだな。どうだスヴェン、あれだけたくさん狩れば、レベルは上がるだろう?」
そうだね。お姫様を助けてからの一連の戦闘と先ほどまでの戦闘でかなりレベルアップした。30後半までだ。でも、新しい魔法は覚えなかった。ハヤトと愉快な仲間達のレベルはどうやら上がっていないよう。そりゃそうか、60後半だもんね。
「妖魔系は、散発的に出てくるだけだろうな。神殿エリアに行けばまた別だろうが」
遺跡の入り口周辺は掃討し、十字路に仕掛けてあった魔法陣も破壊した。時間はいまいち確認していないが、夕日が沈み切り、夜の帳が空を覆おうとしている時間である。
「こんな時間だ、余計な探索はしないで神殿エリアに向っちまったほうがいい」とドジョー。君らも明日のことがあるだろう? ということらしい。彼の言うとおりだ。
「ふむ。ドジョーの言うとおりだな。この遺跡は常時ある。出てくるお宝もランダムだ。欲しいものが出てくるとも限らんし、あの悪魔騎士を倒すほうが先決だろう」
胸像の道を通って、奥へ歩く。夕闇が迫ってきているから、そんなに時間はかけられない。出てくる敵はラート氏の言ったとおり、散発的に数体が出てくるだけ。彼らどころか、ぼく1人でも対応ができる程度の敵しか出てこない。え、割と簡単?
「そんなことないぜ。あの魔法陣が早く壊せたからよかったものの、あれが長引いていたら敵の群れが未だにここを埋め尽くしていたからだ」
なるほどね。
「レベル帯からいって、ボスが結構強いとおじさんは思うから、スヴェン君も油断しないようにな。言っちゃあ悪いが、防御は紙なんだし」
自覚してます。
神殿は、ここまでに遺跡の様子と違い、余り壊れている様子はない。石を切り出して繋げたであろう巨大な柱がその威容をぼく達へ見せ付けてくる。中央部分には柱がかけられていなくて、ぽっかりと空間が空いている。そこから説明しがたい異様な空気が漂ってくるから、間違いなく今回のボスはこの先だ。
「露骨に誘われているよな、おい」
「何らかの隠し玉があるんだろう。レベル帯からいって、1体で我々と戦おうとは考えられんからな」
目配せをし合って、慎重に入り口から足を踏み入れる。いきなり不意打ちとかは勘弁してほしい……。
入り口を抜けた先は、吹き抜けの大広間。そこの少し高くなっている部分。そこにどーん、と悪魔騎士が仁王立ちしていた。大剣に両手を預け、剣先は地面に突き刺さっている。堂々としすぎだろ。
悪魔騎士は大剣を地面から抜き、こちらへ剣先を向けた。
「来るぞ!」
ハヤトが二刀流を構える。
ラートが腰を落とす。
ドジョーが背中の斧に手をかける。
ぼくも魔力を集中させた。
ダン、と脚を踏み切る音がして、悪魔騎士が消える。
たった一歩の大ジャンプで、ぼくらの直前に。その勢いで大剣を地面に叩きつける。
──衝撃波!
全員、あらぬ方向に吹き飛ばされた、かもしれない。ぼくは宙に浮いていた。後ろにくるくると回転して勢いを殺し、光の翼を発動。
砂煙が晴れていく。思い思いの体勢で衝撃波を防いだ彼らが見えた。
「このっ!」
【シューター】を連射。
しかし、すべて左手の大盾にカキンカキンカキンと受け止められる。
『オオッ!』
悪魔騎士は、右手の武器をこちらに突き出して──!
聞き覚えのある甲高い発射音とともに、赤黒い光線が剣先からこちらへ向けて発射される。
「うおっ!」
とっさに体を反らせて光線を躱す。チリッという嫌な音がした。ギリギリセーフだったよ。
「ちぇりゃ!」
ドジョーが斧を振りかざす。大盾で弾き、体を開いた体勢のドジョーへ薙ぎ払いの一撃。
「あぶねッ!」
間一髪。
限界まで体を反らせて有名映画のように回避。
「さすが討伐対象の悪魔騎士。お手本のようなパリィだな」
「暢気なこと言ってる場合か、ラート。あれじゃ全員ヤベえぞ」
「お前とパリィの打ち合いでもしたらしたらどうだ」
「バカ言え」
ハヤトがこちらに目配せ。敵がドジョーの方をむいて、ぼくを見ていない隙に、背中へ回る。多分気づかれているとは思うけど。
「せっ!」
ハヤトの突きに合わせ、ぼくも【レイ・キャノン】を放つ。
「マジかよ!」
ハヤトの言葉が示すとおりだ。ぼくの攻撃は大盾で、ハヤトの突きは剣で。
『フン!』
ズオッと、その場で一回転する悪魔騎士。再びの衝撃波。
「ぐあっ!」「うあっ!」
吹き飛ばされながら何とか相手を視認する。その姿が左右にブレた。
「おいおい、参ったなぁ」
そのブレは広がっていき、気がついたら、悪魔騎士は5体に増えていた。
「……どうする?」
ぼくは変わらずに空中。ハヤトとラート氏が何やら話し合っていて、ドジョーもそれに加わっている。5体に増えた悪魔騎士は、初めに神殿内で出会った姿勢に戻って再び仁王立ち。
「5体に増えることで、シークレットだったレベルがはがれる仕組みだな」
「75……想定の最高値だが、どう攻略するか」
「分体は55だ。単独でもなんとかなるだろう。ラートや俺で十分だ。半妖精の坊やが少し心配だが、レア種族だ、それを信じよう。危なくなったら俺やラートでフォローする」
「本体はハヤト、お前だ。2体は俺が引き受ける」
ラート氏がそう言う。ま、ハヤトの右腕のようなものだし、余り心配はしていない。
ぼく達の雰囲気が変わったことを悟り、5体の悪魔騎士──ファシナティオという名前のようだ──がこちらへ剣を向けた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
新生活の様子を見ながら、投稿を続けたいと思います。どうぞよろしくお願いします。




