46話 Here’s looking at setting sun,kid/夕日に乾杯
幻想の世界で、意識が覚醒する。目を開いてみれば、そこには巨大な樹が聳え立っている。イベントの開始はもうすぐだ。今週の土曜日がスタート。
フレンドの状態を見てみると、ハヤト、ラート氏、ドジョーがログインしているようだ。わりと物理系の面子。ハヤトは駆け出しのときに協力しているが、ラート氏とはクエストをともにしていない。
とりあえず、ハヤトに連絡を取ろう。
『おーっす。とりあえず、俺たちの詰め所? 前来た屋敷に来てくれ。ラートも一緒にいるよ。1回一緒にクエストをこなして、どんなことができるか実地で確認しよう』
さすがは幼馴染というべきかな。それとも、こういうタイプのゲームで協力したことが、まったくないというのは致命的である、というぼくの考え方はあっていたのかな。
ログインしたぼくがいるのは、町の入り口。ライディーンの詰め所……こう言うと警察みたいで面白いけど、実際にはただのギルドである。言葉が出てこなくて逆にわかりにくい言葉を使っちゃう、これ普通にあることだよね。
時刻は夕方。西日はオレンジ色で、行く道によっては非常に眩しい。太陽の照らしてくる強さも変わっている気がする。現実を反映しているのだろうか。光量が強い。こんな微妙な部分を再現するためのプログラムを組むのは、面倒だろう。少なくともぼくはできる気がしない。もちろん理系ではないし。
そんな取り止めのないことを考えながら歩いていると、彼らの屋敷に到着した。ライディーンの平均レベルとしては、ここに屋敷を構えるのではなく、別の場所に本当の事務所があると考えたほうが妥当だし、ここは出張所だろう。
ノックしてもしもーし。
「やぁ、スヴェン君」
……ハヤトではなくラート氏が出てきた。ちょっと予想してなかったぞ。
「こんにちは。ラートさん」
「別に呼び捨てでも構わないんだが、君の性格だと難しいか。玄関先で長く話しているわけにもいかないから、入って」
相変わらずいい声、さらにイケメンである。この前はコートだったけども、黒のベスト、赤と青のオープンフィンガーグローブ(左右で色が違う)黒の長ズボン、膝までのブーツ(グローブと合わせて左右で色が違う)、と動きやすそうな格好に変わっている。
以前も入った広い居間ような部屋。普段なら団員でにぎわっているかもしれないが、今日はちょっと淋しい。
「おおー、スヴェン君! 元気だったか!」
ドジョーはなぜかドヤ顔でマッスルポーズを決めている。……なぜだ。理解に苦しむ。
「リアルだと運動不足なので、ゲームくらいは筋肉を誇示したいじゃないか!」
それはリアルで運動したほうがいいのではないでしょうか。
「社会人には運動に取れる時間が少ないこともあるんだ、少年……」
しおしおと枯れる花のように彼は椅子に座った。背中から哀愁が漂っている。……忙しい、のか。それと入れ替わるようにハヤトが立ち上がり、こちらに向ってくる。いつもの白い歯を見せた快活な笑顔だ。
「よっ。連携の確認の意味で一緒にクエストに行こう!」
お前の中では既に決定事項かよ。……別に断る理由もないし、こっちから頼もうと思ってたところだけどさ。
「これぞ幼馴染の意思相通ってな。どうだラート、すごいだろ」
「おうそうだな」「せやな」
ラート氏とドジョーが「はいはいすごいすごい」といった様子で投げやりに返事する。いつも自慢げに話していることだからか、2人の対応もなれたものだ。
「ひどい、冷たい!」
「同じことを話しすぎだよ、ハヤト。そんなにぼくのことが好きなのか?」
と、冗談めかしてみる。
「おう!」と頷いてきたので、すぐさま真顔で返事をする。
「いや、すいません、そういうのはちょっと……ごめんハヤト」と、胸の前で左右に手を振る。少し体を引きながらやるのがコツだ。
「真顔はやめてくれ。悪かった」
と、バカみたいなやり取りをしたところで、話を切り替える。
「一緒にクエストに行くのは大丈夫なんだけど、経験値の効率が悪いとか言っていなかったか?」
本当に最初のほうだったけれど、そんな話を聞いた気がする。寄生プレイを防ぐために、適性レベルの依頼や自身より高レベルの依頼を受けたときに、その受けた本人よりも一定以上のレベルを持つプレイヤーがいた場合、経験値がほぼ入らないという仕様が、LoLにはある。面倒くさいが、寄生プレイというのは基本的に嫌われるものである。しょうがない仕様なのだろう。
「ああ。だが、どうしても、低レベルプレイヤーがギルドに入ったときなどに経験値の差があることは間違いない。また、そもそものスタートの差でレベル差があることもあるだろう。通常クエストではこの場合、経験値は入らない。しかし、この仕様では低レベルに余りにも不利だ」
ハヤトではなく、ラート氏が詳しく説明してくれた。もしかして、ラート氏が説明役となっているのだろうか。いや、そうに違いない。
「ラートの言うとおりだ。だから、基本的にギルドで管理されているランクが重要なんだぜ。基本的に自由受諾、無期限、無限ポップの一部依頼を除いて、高ランク者が自分のランクより下の依頼を受けることができない仕様になっているんだ。俺がスヴェンと受けた最初の依頼も、『スヴェンだから受けられて、俺なら受けられない』んだ。わかるか?」
「わかるよ」
「で、低ランクは高ランクの依頼を基本的に受けることができるのはわかるだろ?
自身のランクより上のランクにある依頼に成功することで、ランクを上昇させることができる。または、特定のモンスターを討伐することだな」
その辺のことも、実地で覚えたぞ。ぼくはわかっている。
もちろん、低ランクの人物が高ランクの依頼を受けられるといっても、Fランクのゲームを始めたばかりのプレイヤーが高レベル者向けのSランクを受けられるわけではないのだ。ある程度適性レベルが考慮される。それは自動的にシステムが取捨選択する。そこを手動でやったらインターフェースがめんどくさいことになるだろうからね。
それで、一体ハヤト君は何が言いたいのですかね。
「まぁ、そう急かすなって。2段階クエストというものがあってだな……。こいつは、レベル差、ランク差があるプレイヤーが組んだ場合に行うことのできるクエストだ。わかりやすく言うなら、低いレベルのプレイヤーの適性レベルの敵と、高いレベルのプレイヤーの適性レベルの敵が同時に出現するというクエストだぜ。もちろん、高いレベルの敵とも戦うことができるぞ。その分、自分の適性レベルの経験値+αで戦闘経験値が手に入るから、ちょっとお得だ。このクエストをすれば、高レベル帯のプレイヤーとも一緒に遊べるってわけだ」
なるほどね。
「それで、受けるクエストは決まってるのかな」とぼくがハヤトに問う。ぼくは下級モンスターなら大抵倒せるし、そこまで苦戦することもない。中級になってくると種族によっては微妙なところだが、問題はない。魔法系の敵が出てきたら儲けものだ。魔法攻撃はぼくにはほぼ通じない。遠距離攻撃もほぼ通じない。
このあたりの事情は、ハヤトもよくわかってるだろうから、多分それなり以上の強敵が出てくるだろうと思う。ただ、蟲系は勘弁してほしいところだが。
「悪魔の討伐だ。レベル帯はボスが60〜75とちょっと高めだが、ソロでやるわけじゃない。俺たちなら恐らく大丈夫だ。通常レベルはスヴェンが余裕で倒せる25〜35の間。妖魔系モンスターと悪魔系モンスターが出てくる」
クエスト名は『地獄の騎士を倒せ』とハヤトの言葉が続いた。やれやれ、仰々しい名前だな。
「まさか貴族じゃなかろうな」とラート氏は顔を険しくする。
「安心しろ、悪魔の爵位持ちは出てこない。その1段階下の悪魔騎士だな」
ドジョーがぼくに解説をしてくれた。彼によると、魔王の主力軍団を率いるのが悪魔族のモンスターだそうで、更に種類もたくさんいるという。特に強い悪魔は『爵位持ち』と呼ばれ、現実の公候伯子男に対応した強さでランク付けされる。名前持ちはさらに強いという。悪魔騎士はつまり、通常の悪魔よりは強いけれど、爵位持ちの悪魔よりは弱い、ということらしい。
「レベル帯から見るにネームドじゃないかね?」とドジョー。少なくとも小規模の部隊をそろえているということは、ネームドの可能性が高い、と彼は続けた。
「ドジョーの言うとおりだ。我々はともかく、スヴェン君には危険すぎやしないか?」
「あのなぁ、2人とも。スヴェンの種族忘れてないか? こいつは半妖精。レア種族の中でもさらにレアなの。龍人と同じくらいなの。だから、実際のレベルより+10ぐらいして考えないと、実力的に」
(ただし魔法に限る)と括弧書きが必要じゃないかな?
「うーん、まぁ、本人の顔を見る限り心配しているような風ではないから、別に構わんが……」
さりげなくドジョーに観察されていたようだ。筋肉モリモリなのに、それに似合わず心優しい。観察技術が高いのは社会人のなせる業かな。
「大丈夫だろう。こうみえて、ハヤトの友人だ。我々が思っているより強いだろう。間違いない」
なんだろう、このちょっと違う方向での信頼は。
「じゃ、決まりだな。準備を整えないと。いくぞスヴェン」
その言葉を最後にさっさと団長ハヤトは外に出て行ってしまった。ぼく達は苦笑すると、その背中を追いかける。夕方の太陽は地平線すれすれまで沈み、もうすぐ夜が来ようとしている。なるほど、悪魔が動くには十分な時間だ。
ここまでお読みいただきありがとうございました。4月から社会人になるため、どのようなスケジュールになるかはわかりません。時間を見つけて書き進めていきたいと思っております。
それでは次回、47話でお目にかかりましょう。




