43話 Hot Road Magnum/超強力弾
「ギルドに頼むと手数料仲介料と色々取られますので、あなた方にお願いしますね。依頼料はギルドの基準に則って支払いますから、よろしくどうぞ」というルクレーシャ皇女の言葉で、ぼく達は依頼を受けることになった。彼女は前金で、実際に提示された金額どおり払ってくれた。信頼してくれているのか、それともおためしなのかどっちかだろう。むしろ、金を払われたことで達成できないとはいえなくなったかも。
「案外強かだな、お姫様」とは、ハヤトの言。ラート氏もそれに同意していた。まぁ内政プレイをしているのだから、強かでもおかしくはない。……そんな人の護衛するのか、なんか、こう、緊張するというかなんというか。いや、今から緊張していても仕方のないことなんだけど。
さて。今回の依頼というのは、王都の南西に巣くっているという妖魔の盗賊団を全滅させてほしいという依頼だった。仮にも王宮の近くなのにいいのか。姫様本人曰く、「ここは要塞ですから」ということだったけれど。まぁ、内政のことはぼくにはわからないからどうしようもない。今回は、《ライディーン》のメンバーも一緒だ。ハヤト、ラート氏、エリアスの3人は別の仕事を頼まれたらしく、ここにはいない。槍使いのシルヴァに斧使いのドジョー、斥候をつとめるシエン。この3人とぼくとクリアミラというメンバーだ。シルヴァはともかく、あとは顔合わせでいくつか喋っただけだから綿密な打ち合わせをしておく。
「俺は水魔法が使えますが、ドジョーとシエンは物理系です」とシルヴァ。
ドジョーは、髪を短く刈り上げた筋骨隆々の大男だ。筋肉モリモリマッチョマンの変態かもしれない。いや、冗談だけど。背中に巨大な斧を背負っている。サイズは自分の体の半分ぐらいだから、1mはくだらないだろう。
「情報によるとトロールやオーガがいるらしい。それは俺に任せてもらおう」
「アタシはいつものように斥候をして敵をおびき寄せるわ。ゴブリンシャーマンがいると不利だから、掃除を頼むわね」
つまり、シエンが行動しやすいようにぼくとクリアミラで魔法使い系のモンスターを排除してから、シエンがかく乱し、シルヴァが突撃して、最後に大物を引きずり出すということ。
トロールとかいう変態筋肉モンスターは同じように筋肉に任せて、ぼくらはぼくらの仕事をしよう。ほら、小屋が見えてきた。時間は昼過ぎくらいかな。
粗末な小屋だ。風に晒された枯れ木で組んだらこうなるだろうというような、ボロい佇まい。万が一山小屋であっても泊まるのは遠慮したいとぼくは思う。
「外に警戒している奴がいる。私は隠れるわ。スヴェン君、クリアミラちゃん、あとはお願い」
まるで景色に溶け込むようにシエンの姿が消える。一体どんな魔法なんだ。それでなければどんなスキルだろう?
「はいはーい」
クリアミラは随分と気楽な返事だ。外で警戒しているのはノーマルゴブリン2体。どちらも一撃必殺できる相手だ。
「ぼくは左」
「私は右? いいわよ」
カウント・スリー。右掌に【レイ・キャノン】を発動。
3、2、1……今!
甲高い発射音とひゅうっと風を切る音が重なる。気づいていない状況で頭に当たる。クリティカルヒットの表示。確かめるまでもない。ポリゴンが沸き立って空に消えていった。
クリアミラの口笛が聞こえる。ぼくと彼女は自然とハイタッチしていた。
「ま、これで相手の探知魔法に引っかかったでしょ」
クリアミラの言葉が示すように、立て付けの悪い小屋の扉が開いて、ゆっくりと人影が出てきた。人影というよりは、モンスターの影だけど。
ボロボロのローブ。右手にはひん曲がった長い杖。先端には濁った色の宝石が取り付けられている。ゴブリンシャーマンだ。
ゴブリンシャーマンはぼく達にはわからない言語でわめくと、ぼくらに向けて杖を掲げた。
すっ、とライディーンの残り2人が下がり、ぼくとクリアミラはゆっくりと歩き出す。
「スヴェン、気をつけて」
シルヴァが最後に言葉を残してくれた。
クリアミラはひらひらと手を振って、ぼくを呼ぶ。
「いつもの通りにいきましょう。私が後ろで」
「ぼくが前」
指を伸ばして、【シャープシューター】を一発。威嚇目的と、ヘイトをこちらに集めるためだ。当てる気はなかった。顔の横にでも飛んでいけばいいさ。ゴブリンシャーマンは土の壁を作ってぼくの攻撃を防いだ。どうやらヘイトは完全にこちらにむいたらしい。……最低限の仕事はこなせたか。
ゴブリンシャーマンはぼくの魔法を防いだ後、杖を振りかざし、石つぶてをこちらに放ってきた。今回の相手は土属性かな。ぼくに遠距離攻撃魔法は魔法障壁のおかげで通用しないけれど、今回は範囲が大きいせいで、クリアミラのほうにまで石つぶてが飛んでいく。
「石つぶての範囲が広いわね! 強いゴブシャーかしら?」
そんな珍妙な略し方があるのか? 水がぶちまけられたみたいじゃないか。突っ込むか突っ込まないかというぼくの逡巡をよそに、彼女は自分の前に風を巻き起こし、あっさりと石つぶてを弾き飛ばした。そしてその風は、巻きあがりながらゴブシャー(使ってみた!)に襲い掛かる。
ぼくも、クリアミラも、そして後ろで見ているドジョー、シルヴァ、そして景色に溶け込んだシエンも、命中を予想しただろう。次の瞬間には、ゴブシャーは天高く吹き飛ばされるだろう、と。
しかし、ゴブシャーは大きく両手を広げると、自身に当たろうとした風をコントロールし、さらに風を加えてこちらに打ち返してきたではないか! こんな高等技術ゴブリンシャーマンじゃないぞ。
「ゴブリンメイジね。上等な杖使っている時点で気づけばよかったわ」
クリアミラの声に悔恨がにじんでいるようだ。右手を掲げて防御魔法を展開したまま左手でステータスにアクセス、掲示板のデータを引っ張り出す。なになに……『ゴブリンメイジ──2種類の魔法を使いこなすゴブリンシャーマンの上位クラス。複合魔法は使えないが、組み合わせには注意すること。なお、どんな魔法を使用するかはランダム。同属性の魔法をプレイヤーが使っていた場合、弾き返してくることもあるので注意されたし』。
まぁくりかえし2回も3回も弾き返すことはないだろう。障壁を右手でぶっ叩き、風を打ち返す。その間に左手のステータス画面を解除。【スフィア・ブラスター】を準備。
ゴブリンシャーマン改めゴブリンメイジはおそらく風と土の2属性だ。クリアミラは相性があまりよくないだろう。どうする?
「弓で援護してもいいんだけど、風魔法で弾かれそうなのよね。あの土の壁もあることだし……小屋から出てくるゴブリンは引き受けるから、任せてもいいかしら」
はいよ、わかった。
左手に準備していたスフィア・ブラスターを発射。瞬時にゴブリンメイジは杖で地面を叩き土の壁を作ってぼくの攻撃を防ぐ。ただ、この土の壁は視界をも塞ぐ。それが弱点だ。地面から衝撃波を流して、土の壁を破壊。ぼくはその姿勢のまま、左手を相手に向けてレイ・キャノン!
完全に頭直撃コースだったのに、巻き起こった風に逸らされた。
魔法使い同士の戦いなのに遠距離戦で決着つかないってどういうことだよ。実際は強力な魔法で防御ごと抜けばいいのかな。【マナ・マグナム】を使おうか。
ぶんぶんと杖を振り回し、岩をふっ飛ばしてくるゴブリンメイジ。土属性の面倒くさいところは魔法ダメージじゃなくて物理ダメージなところ。つまりぼくにとっては鬼門だ。
跳んだりはねたりしながら攻撃ををよけつつ、収束魔法で魔法陣を5つ収束。重なった魔法陣が大きなひとつの魔法陣になる。
「はぁぁっ!」
光の翼を発動し、飛ぶ。そこまで高い位置にはいないけれど、見下ろすには十分な場所だ。ときおり飛んでくる岩や風を避けながら、ちらりとほかの人を見てみる。クリアミラは積みあがったホブゴブリン(下から順繰りにポリゴンの光になっていってる)を背にして、右手を首の後ろに、左手を下腹部に当ててやや斜めに体重をかける珍妙なポーズをしている。セクシーポーズ? それともジョ○立ち? シルヴァは氷漬けになったオーガの上に座っている。ドジョーはホブゴブリンをまとめて斧で吹き飛ばし、ガッハッハと笑っている。……ぼくがいうのもなんだけど、この面子キャラ濃いな! シエンはどこにいるかわからん。
強力な魔力が魔法陣に収束される。レイ・キャノンなら5発分。マナ・ビームなら25発分だ。
青紫色の太い光条が、禍々しい音を立てながらゴブリンメイジへ奔っていく。彼が立てた土壁はたやすく融解し、巻き起こした風はかき消された。
命中はしなかった。ゴブリンメイジが必死に逃げようとしたからだ。マナ・マグナムの威力は十分すぎる。
その余波だけで、まるで砂糖がお湯に溶けていくようにゴブリンメイジの全身がポリゴンとなっていった。ディスタント・クラッシャーとはまた別のベクトルで威力が高いことをぼくは思い知った。
ここまでお読みいただきありがとうございました。一度ランキング上位に上がってからとの投稿ということもあり、プレッシャーを感じています(汗)
投稿時期は未定です。
それではまた次回44話でお目にかかりましょう。




