44話 She is actually pretty tough customer/かなり、したたかな女だ。
なんとか1月中に更新できました。
あっという間に決着がついてしまった。ぼくがメイジを倒した後、残っていたのはトロールとオーガ数体。探知魔法が使われることがなくなったからか、シエンはあっさりと後ろからオーガを暗殺して小屋を爆破していた。一体全体どういうことなのか。
「私が持ってるのは斥候スキル。あと使っている武器は短剣。これを組み合わせると暗殺者ができるっていうワケ」
なるほど。
「特定のスキルと武器を組み合わせると新しいスキルになるっていうシステムがこの前導入されたの。スヴェン君は……多分ないと思うな。レベル20ぐらいでスキルに変化が現れるはずだけどどう?」
ないっすね。
「残念ね。でも、レア種族っていうのは──ああ、クリアミラちゃんもそうよ──コモン種族よりお得になっているところが多いからね。組み合わせスキルが発動しなくても、十分強いから、不平等を感じることはないわ」
口元を黒い布で隠しているから、いまいち表情は窺えないのだけど、少なくとも悪い人ではないようだ。
「そうだなぁ、オレからしてみれば、空を飛べるというのはそれだけで羨ましいな」
ガッハッハ、とドジョー。彼は筋肉の形をした胸当てをつけ、腕とすねに鎧を着込んでいる。古代ギリシアの兵士みたい。
「おいおい。話すのはいいけど、まだトロールが残ってるぞ」
と、ぼくたちが話すのを見ていたシルヴァが呆れたように言う。その言葉通りに、燃え盛る小屋から巨大な影が飛び出してきた。戦った中でもっとも高さがあったのはリザードロードだったけれど、トロールはその上をいくようだ。だいぶでかい。
緑色の肌、涎をたらしたブルドックのような顔。右手には粗末だけどその体躯にあわせた棍棒が握られている。……はぁ。これと戦うの?
「ま、あれは俺に任せてほかの残りを頼んでもいいか? トロールは魔法耐性がまああるから面倒くさいぞ」とドジョー氏がいうのでその言葉に従う。シルヴァも同様にドジョーと一緒にトロールへ向かっていった。あれ、シエンはどこだろう。
ドジョーのほうへ視線を外していたから、振り向いてシエンがいたところを見ると、ぼくと直前まで喋っていたはずのシエンはすでに土煙を残してどこかへ消えていた。というよりは、移動した。
まさかと思ってトロールを見ると、その背後にシエンがいた。まるで空気を通り抜けるように現れたのだ。
その首に向けて彼女が短剣を振るう。
「うわっ、堅っ! 嘘でしょ!?」
トロールが後ろを向こうとするその瞬間にシエンはトロールの肩に着地してそこからさらにジャンプ。シルヴァとドジョーのほうまで戻ってきた。予想外だったようだ。隠された顔には驚きが浮かんでいる。
「やっぱ短剣じゃパワー不足なんだよな。やっぱ斧じゃねぇと」
「黙りなさい筋肉バカ。私はあんたみたいにSTRが高いわけじゃないのよ!」
「だったら俺みたいに魔法も使えるようになればいい」
ものが凍るようなカチーンという音。
3体ほど残っていたホブゴブリンに対処しながら、そちらをかすめ見ると、トロールの右足が冷凍されていた。シルヴァの魔法だろう。
「バカ言え、お前みたいにどちらもある程度バランスよく育ててねぇから、今からやったって中途半端になるだけだ」
「シルヴァは全部バランスよく育ったものね。それでも、DEXだけはすこし低めだけど」
「許容範囲だろ、攻撃が外れるわけじゃないんだから」
そんな丁々発止のやりとり。そんなやりとりしながらもよどみなくトロールを中心に三角になるように囲み、正面をドジョー、トロールから見て斜め後ろをシルヴァとシエンが囲む形だ。さて、ぼく達のほうはどうなっているか。彼らとは逆に、ホブゴブリンに3方を囲まれている。クリアミラと背中合わせ。
「珍しいわね、こういう体勢」
「そんなこと言う前に目の前の敵を何とかしないと!」
「さっきの反省ってことでしっかり調べたわよ。私たちを囲んでいるのは普通のホブゴブリンね」
「じゃあ、よほどのミスをしなければ負けないってわけ?」
「ま、そうね。あなたは別かもしれないけど」
彼女の言うとおりだ。ぼくの場合は敵の攻撃が当たったら、下手したら死ぬかも。クリティカルでも出た日にはぼくはあっという間にログアウト。自室で目が覚めるだろう。
クリアミラは短杖をタクトのように振って風魔法を巻き起こす。強力な吹き飛ばし効果が付与された【エア・ハンマー】だろうか、それとも、全隊攻撃の【ウィンド・バースト】だろうか。ホブゴブリンは横っ飛びにクリアミラの射線から逃げているようだ。なんだかんだ彼女が2体を引き受けてくれるおかげで、ぼくは楽している。クリアミラ曰く、「さっきあなたにまかせっきりだったから」とのこと。持つべきものは公平を意識しようとする心持だね。
「グルル……」
さっきゴブリンメイジを倒したことがヘイト値に影響でもしているのか、対峙するホブゴブリンAはぼくに対して警戒しているようだ。クリアミラのほうにいる2体──仮にB、Cとでもしておこうか──は積極的に彼女に向かって攻撃を仕掛けている。システム上の計算式なんてわからないけれども、ヘイト値はぼくのほうが高い? それとも低い?
来ないなら、ぼくからいったほうがいいかな。
【魔力収束】──マナ・セイバー。
ぼくに動きがあれば、当然警戒している敵側にも動きがある。錆びた長剣を構えて大きく口を開け、こちらを威嚇してくる。
ちらっと後ろを見てみると、風が視線を遮ってよく見えないが、クリアミラは2対1という不利な状況でも優位に戦いを進めているようだ。ぼくも負けてはいられない。条件はぼくのほうが有利なのだから。
振りかぶってたたきつけてくる剣を受け止め、左手で腹を殴りつける。【ブラッディ・メイカー】はすでに発動済みだ。
「ふんっ!」
おもいっきり横に薙ぐ。相手に表示されている体力バーはあと少ししかない、いけるぞ!
右手を後ろに引いて、腰をひねりながら右足を踏み込む。
いってしまえばただの突き。横に薙いだ後は突きをするといいってどっかのだれかが言ってたような気がする。だれが言ってたかはわからん。
ぼくの突きは綺麗に正中線を貫通した。あってるかはわからん。わからんったらわからん。空手はやったことない。
確かな手ごたえがあった。後ろを振り向いてみると、既に残り1体。え、やっぱりクリアミラぼくより強いよね。絶対、ね。
残り1体も追い詰めた様子。ぼくの助力は……もちろんいらないだろう。むしろ、ほかのところを警戒したほうがいいかもしれない。
「エア・ブレイド!」
クリアミラの短杖の先に風が纏われていて、それがレイピアのような形に収束しているようだ。強烈な突き。ぼくがやったそれより強力にみえる……というか、強力だ。
光になって消えていく敵を見ながら、クリアミラはぼそりとつぶやいた。「たわいもないわね」と。
強い(確信)。
「ぬうんりゃあ!」
裂帛の気合が聞こえる。クリアミラと一緒にそちらを向いてみると、トロールの腹に強烈な斧の一撃。後ろ首には短剣。鎖骨の下のあたりに槍。なるほど綺麗な連携攻撃である。
トロールは土煙を立てて地面に倒れた。……ふぅ、とりあえずこれで終わりのようだ。依頼された仕事はこれで全部。
「んじゃ、帰るかね。お姫さんも首を長くして待ってるだろうよ」とドジョー。ニカッという男……ではなく、漢と呼びたくなる。こう、力瘤が似合いそうな笑みだ。
「さあ、帰ろう。ルクレーシャ皇女が待ってるぞ」
「あの人強か過ぎて私はちょっと苦手なのよね」
「同属嫌悪か?」
「殺すわよ、シルヴァ」
「おいおい、勘弁してくれ」
丁々発止のやりとりは健在なままだが、いささか殺意が高くないか?
「ご苦労様でした。……この幾日かあと、イベントが待っています。ゆっくりと体を休めてください」
依頼料の残りが渡され、シルヴァ、シエン、ドジョーの3人は先に部屋を辞した。そして、クリアミラもさっさと風でどこかへ消えてしまった。随分と冷たい対応である。
「スヴェン。イベントでは、よろしく頼みましたよ」
うぇーい、プレッシャーだぜぃ……。
ここまでお読みいただきありがとうございました。来週から地獄絵図みたいな状態になっているので、浮上しない可能性がありますので、そこはご了承くださいますよう。
*感想等いただけるととても嬉しいのですが、規約等に則っていただけると、よりよいと思います。
それでは、45話でお目にかかりましょう。




