28話 The ex-enemy is not fear/かつての敵は恐怖とはならじ
一ヶ月近くお待たせして申しわけありませんでした。私事がいくつも重なってしまって、本格的な執筆の時間が取れませんでした。読んだ小説などには簡単な感想を書かせていただきましたが、スマホではなく、PCを使用するような、まとまった執筆をする時間があまり取れませんでした。重ねてお詫び申し上げます。
スライムというのはそもそも国民的なあのRPGで雑魚敵として有名になったと考えていいはずだ。もちろん色々な種類がいるから雑魚敵ばかりではないのだろうけど。ビジュアルからすれば向こうは愛嬌があるけれど、こちらのスライムは埴輪のような顔だ。それも何かに苦しめられているような。根源的な恐怖はないけれど、まさに敵みたいなものだろう。コボルトとかゴブリンとか、そういうやつ。水の玉を吐き出してくるのを跳んでかわして、空中から魔弾を放つ。水というよりはゼリーのような体をしている。僕のはなった魔法は、スライムを貫通していった。いやゼリーじゃなくて、スライムだからスライムみたいな体? いかん、スライムがゲシュタルト崩壊してきそうだ。
そういえば、材料はわからないけれど、小学生くらいのときにスライムを作ったことがあった。作ったのか買ってきたのか。なにぶん幼いときの記憶だからさだかじゃない。
「まだくるわよ!」
風切り音。クリアミラが矢を射った音だ。あれ、ここのスライムは序盤に出てくる雑魚ってわけでもないはず。物理攻撃は無効化されるよな、確か。
ぼくは大丈夫だろうか、と思い、彼女の矢の行方を思わず注視した。ぼくの視線はそっちに向いているが、スライム破損ことお構い無しに水玉を変わらずに打ち出してくる。右手に魔法障壁を発生させて彼らのいるほうに突き出して防御姿勢をとったままだ。いつぞやの蛇よろしく溶けるか不安だったが、そんなことはなかった。
クリアミラの射った矢はあのえげつない効果を生み出す風魔法と矢の物理攻撃の複合攻撃のものだったようだ。一匹のスライムに命中したそれは内側から内部をかき乱して消滅させていった。いや、いくらなんでも威力高すぎやしないか。前にも思ったけれどもね。
「繰り返すけど、あの攻撃あるとぼくいらない子だよね」
クリアミラはそう言いながらにやり、と笑った。ぼくはといえば、右手の【バリアアクション】に左手を叩きつける。障壁が虹色に輝いて、ビデオの早戻しのようにスライムに着弾していった。【アンドリバース】である。しかし、同じ属性攻撃だからあまり効果はないようだ。
「そんなことないわよ。あれMPの消費が激しいし」
クリアミラの返答に頷きながら丸鋸のような形の魔法球を発射してスライムを切り裂く。うにょうにょともう一度くっつこうとしているところを魔弾・散弾でバラバラに吹き飛ばす。レベルの上昇とともに魔法自体の威力も上がっているから、魔法攻撃が通用しやすい相手ならば一撃で倒せる敵も多くなっている。スライムはまだ無理だけれど。
「あと2つ!」
クリアミラが風の刃を放つ。ざくり、とスライムが二つに割れた。間髪いれずに続けられたもうひとつの風魔法で吹き飛ばされたそいつはこちらまで飛んでくる。クリアミラ、また風魔法を調整してこちらまで飛ばしてきたな。左手にゼロドライヴを用意。吹っ飛ばされたスライムに左手を突きこむ。パンッと表現するような、そう、まるで風船が割れるような感じでスライムは内側から破裂した。あれ、もしかしてゼロドライヴじゃオーバーキルだった……?
「あとひとつね!」
クリアミラが指差す方向に最後の1体。うん、これを倒せば洞窟にいける。
「そおりゃあ!」
逃げようとしていたスライムを空中に飛んでそのまま踏み潰す。ぶちゅっと音がして、スライムが変形した。だが、物理攻撃だからダメージは比率として25パーセントぐらい軽減されてしまう。スライムはそのまま変形し、ぼくを包み込もうとしてくる。ああ〜、なんか一部の人が喜びそうな状態に……。ごめん、ならない。
両手を広げて一回転しながら衝撃波を放つ。ぼくの体を覆おうとしていたスライムは吹き飛ばされた。なす術もなく。あとはバラバラになったスライムの核を引っつかんで、ゼロドライヴ。はい、おしまい。ちなみに最初に倒したやつは、核ごと【シューター・ショット】でばらばらにしてやったから別に核を引っつかむことはなかったってだけのこと。うん。そういうこと。
「やっと入り口に何もいなくなったわね、行きましょうか」
そう微笑むクリアミラを戦闘に洞窟に入っていく。薄暗く、天井部分に開いた穴から日差しが入り込んでくる。光はそれだけだ。ぼくが使う【フラッシュ】は、一時的に強い光と音を放つものだから、持続的に光を帯びたようなものではない。わかりやすくいうならば閃光手榴弾のようなものだろうか。
「あら、なにもいないわね。狭いのもあるでしょうけれど」
ちょうど人2人分ぐらいの道だったけれど、クリアミラの言うとおり敵らしき影は何も見えない。まぁ、ぼくとしてはいないほうが楽だからそっちの方がいいのだけれども。ああ、経験値という点では不利なような気がする。……それに関しては今までのほうがかなりパワーレベリングだったような気がするから、むしろこれくらいが普通なのかもしれない。どうだろうか。
懐から保存食を取り出して噛み砕きながら進む。小麦粉と塩を水で練って四角いブロック状に焼き固めたものだから味は良いものではない。もう少しお金出していいもの買えばよかったかも、と内心後悔している。
「水郷石って、この洞窟の奥にあるっていう話らしいけれど……普通なら水属性のモンスターがわんさかいるんじゃないかしら?」
クリアミラは首をかしげながら辺りを見回している。それは警戒しているというよりは不思議な光景を見ているようなものだった。
そうそう、水郷石というのは、強い水属性の結晶化した石で、砕いて磨り潰したりして生産職が使ったりする特殊な用途の石だ。ぼく達一般的な冒険者が使うようなことはあまりない。その加工品はよく使うけれども。たとえば、この水郷石からは水属性の攻撃を10%削減する効果の得られる加工品が作れる。石のランクによってその効果も変わってくるというわけだ。同じような石が属性ごとに存在しているということらしい。一番よく出てくるのは畑の肥料にもなる土郷石らしいが、ぼくはまだ採集依頼をしたことはない。
「強力なモンスターが出てきていたということならギルドの方から何かしらの警告があってもおかしくないから……嫌な予感がするわね」
クリアミラは立ち止まって洞窟の壁をコンコンと叩いてみたり、薄暗い天井を見上げたりして周囲をにわかに警戒し始めた。ぼくも彼女の様子からただ事ではないと判断して、彼女に危険が及ばないよう様子を見ることにする。
突如、洞窟の奥から低くうなるような叫び声が聞こえると同時に、ボロ雑巾のようになった冒険者がこちらに投げ捨てられてきた。うわぁ、嫌な予感的中だよ……。こちらの足元まで転がってきた冒険者はPCではなくNPCのようだが、放っておくのもこちらの気分が悪いので、ポーションを渡して飲んでもらおうとした。しかし、それも無理なようなので、ポーションをぶっかけて外側から治療するようにしておく。後ついでにもうひとつ。ぼくとクリアミラは、このうなり声を聞いたことがあった。薄暗い森の中で鉄塊に吹っ飛ばされたときと同様のうなり声である。つまりは、リザードロードというわけだ。
「……さて、どうする?」
ぼくはクリアミラに問いかけた。掲示板によると、リザードロードは20↑の冒険者でやっと倒せるレベル。今のぼくらでは勝ち目は薄いかどうかは正直微妙なところ。5分5分。相手の物理攻撃が強力なことを踏まえると、4分6分ぐらいかな。ややこちらが不利。しかし瞬間的な火力でいったらこちらの方が有利。それに、一般的な種族ではないから、少しは勝率もあるのだろうが……。
「どうするもこうするも、一本道よ。やるしかないでしょ」
キッ、とうなり声のする方向を睨んで、クリアミラはそういった。なるほど、「女は度胸」ということか。それならば、ぼくがすたこらさっさと逃げるわけにはいかない。
「君なら、そうだよね……ふぅ。やるしかないか」
新しい防御魔法、【シールド・プロテクション】。これならば物理攻撃も防げるから、なんとかなるかもしれん。手の甲から肘にかけて青い防御障壁が展開する魔法だ。防御範囲が狭いから【バリアアクション】と異なり、こちらが能動的に防御をしていく必要があるが、その防御性能は高い。防げなかった物理攻撃にもこっちならば対応できるし。そして、僕自身の魔法攻撃力の成長。これも大きい。というか、魔法関連のステータスならばまるで雨の後の筍のごとく伸びていくから、自分でも驚くほど魔法の攻撃力は高くなっている。その代わりに、物理関係のステータスの上昇はかなりひどいものではあるが、それはまぁ、バランスの問題と割り切ってしまった方がぼくの精神衛生上にもいい。
いつぞや見たような鉄塊を振り回しながら、天井すれすれに頭がある大柄なトカゲ頭が、鈍色に光る鎧をまとってこちらに近づいてきていた。
「妙な気持ちだな。あの時は近づいてくるあれがとても怖かったのに。今はそんな感情は、ぼくのなかにはない」
「なぁに? かっこつけちゃって。ま、嫌いじゃないけどさぁ」
ここまでお読みいただきありがとうございました。次回は一度破れた敵との対決という形になります。それでは、また。次回29話でお目にかかりましょう。




