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《Liberty of Life》  作者: 魚島大
2章 Flying with conviction/飛び立て、その想いで。
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23話 Wind to destroy/破壊する風

遅れて申し訳ありませんでした。どうしても外せない用事が現実にありました故に。

 まだ午前中だというのに、森の中は薄暗い。襲い掛かってきた蝙蝠はすでにぼくの足元に倒れている。弓を構えていたクリアミラも息を吐いて弓を下ろした。彼女によると、この森はすり鉢のようになっているのだそうだ。すなわち、△のような形になっていて、その一番奥の頂点の部分が滝であるという。そこのモンスターは森とは異なり、水属性や、それに近いものが出現しているらしい。フィールドによってモンスターの構成も大きく変わる。それが、同一のフィールドに存在するものであっても。


「あまり時間を取られたくないわ、行きましょう」


 こちらを向いてそう言うクリアミラにぼくは頷いて、先行した。道は彼女が指示してくれるから、ぼくはそれに従っていくだけだ。たまに出てくるモンスターは薄暗いということもあって、【フラッシュ】でも使えば逃げていくかスタン状態になってくれるので、攻撃魔法を使う必要はなかった。逃げていかない奴もいたけど、それは2人で倒せる程度の敵しか出てこなかったから、何とかなったとも言い換えることができる。


 クリアミラはぼくのMP残量を心配したけど、ぼくのそれを使い切るほどの大量の敵が出てくるわけでもなし、問題ないと答えておいた。


 薄暗い森だけど、以前同じ場所に来たことがあるというクリアミラの指示に従いながら、モンスターをやり過ごしたり、時には倒したりしつつ進む。ぼくひとりの場合だと、やっぱりそれなりに目を配ることが必要だけど、後ろに視野の広いプレイヤーがいてくれるというのは、一人でモンスターと戦うことに比べると非常に楽な印象だ。それはクリアミラがゲーム慣れした部分によるところが大きいというのは確かにある。


「右から敵、大型の蛇だわ」


 げ。爬虫類……。巨大蟲よりはマシだけどな、こんな暗い中で蛇に襲われるというのはなんかホラーかパニック映画を想起するからこう、上手く表現できないけど、精神的によくない。原初の恐怖というか、そんな感じ。


 首を鎌のようにもたげて、黒い大蛇……サイズが現実世界の蛇と比べてもでかすぎるんだが、どういうことだ。毒液を吐いてくる。これを喰らったら毒状態で継続ダメージが入ることになるのはまちがいない。しかし。


「ぼくに遠距離攻撃が効くか」


片手で魔法障壁(バリアアクション)を発動。遠距離攻撃だ、これで防げる。ぼくはそう思っていた。だが、不可視の障壁は白い煙を上げて溶けたようになくなった。


「は?」


 その現象を見ていたぼくの顔はさぞ間抜け面だっただろう。誰が魔法のバリアを毒で溶かす蛇がいるんだこんちくしょう。蛇の口が大きく開いて、首をたわめる。ぼくの顔の横を風切り音を立てて矢が飛来。ざくり、という鈍い音とともに右目に刺さる。クリアミラの援護。


 左手に魔法陣。地面に叩きつける。


 地を這う衝撃波。吹き飛ぶ蛇。宙に浮く蛇。


烈風鉄槌(エア・ストライク)!」


 クリアミラの風魔法の風の鉄槌。空中で長い胴がひしゃげた。血のかわりにポリゴンが噴出している。ああ、グロテスクにならないようにね。子どももやるゲームだから、当たり前の措置といえば当たり前の措置だ。


 両手にふたたび魔法陣。今度はその図式が異なる。丸鋸のような形の【スフィア・スライサー】を腕を左右に振りながら4連射。ダメージ。体力ゲージはかなり高いが、どうやら魔法には弱い生物のようだ。効率自体はよい。平たく言うならば、魔法によるダメージが入りやすい敵だ。まだ最初のほうのモンスターだからこのようなパターンの生物が多いのだろう。もちろん、物理でも倒せる敵だ。


 MPにはまだまだ余裕がある。攻撃を続けようとしたが、クリアミラに止められた。「ちょっと新技を試してみたいの」という言葉にぼくも興味をひかれたのだ。


 弓に矢をつがえた彼女の周りに風が集まり、それが巻きつくように矢に収束していった。


「レベル17になって使えるようになった新技なんだけど、まだ試したことはないのよね」


 空気で押し出すような音を立てて、目にも見えないような速度で矢が蛇に飛んでいった。命中したのがわかったのは、蛇が小規模の竜巻に包まれたからだ。どうやら着弾して大ダメージを与えた後、竜巻で継続ダメージを与えるようなえげつない構造になっているらしく、残っていた体力ゲージがまるで津波が引いた後のように減っていって、やがて消えた。そしてモンスターは竜巻の中で消滅していったかのように、光だけを残していったのだ。


「ちょっとこれは……」


 使った本人も「うわぁ……」というような感じで引いている。ぼくも大体はそんな心境だった。これはひどい。


「ま、倒せたしいいということにしておこうよ」


 と、ぼくもフォローを入れておく。なかなかの驚きだったけれど、まぁ仕方ない。クリアミラは掲示板とかをみていなかったのだろうか?


 気になることではあるのだけど、そんなことを聞いても仕方がないから、先に進む。そろそろ、滝とその滝の水が流れ落ちた泉が見えてくるころだろう。ぼくの持っているフィールドマップは彼女のそれより一段階前のやつだ。正確さには欠けているかもしれないけれどね。


「そろそろね」とクリアミラ。


 水が流れ落ちる音がかすかに聞こえてくる。あのでかい蛇は水棲生物と考えてもいいかもしれない。ということは、水辺にいそうなモンスターが出てくる、モンスターの生息種が変わってきているのではないかとぼくは思った。


 突然薄暗い森が開けて、僕らの頭の上にさんさんと日光が降り注ぐ。


 どうやらついたようだ。その証拠に、奥の方には滝が流れ落ちている。その手前には7体ほどのトカゲ頭に亀の甲羅のような楯と骨のような材質でできた斧槍(ハルバード)を構えた異形の二足歩行種が。なるほど、あれがリザードマンか。


 どちらにせよ爬虫類。いや、爬虫類とは呼べないかな。どうだろう。


「私に聞かれてもわからないわ。生物学者じゃないですもの」


 あ、今の有名なアニメキャラっぽい、なんて思ったぼくの心境を、トカゲ男(仮)の咆哮が吹き飛ばした。


 さて。あれを倒すのはクリアミラの役目なわけだが、ぼくはなにをすればいいのかな。


「手伝って頂けるかしら? 報酬は、そうね……。私の手料理でどう?」


 芝居がかった動きと官能を感じさせる流し目で彼女はこちらを見てくる。そんなのもちろん……。


 乗った!


 できるならカレーがいいな。


「本当にカレーが好きなのね、妖精さん……」


 ぼくの内心を読み取ったのか、心底呆れたような目線をクリアミラは向けてくる。いや、カレーが無理なら全然別の料理でもかまわないんだけどね。無理は言うつもりはないから。


「カレーぐらいの材料なら街で手に入るわ」


 それはよかった。


「それじゃ、協力お願いね」

 

 彼女は複数の矢を弓につがえると、一気にそれを放った。狙い済ましたかのように矢が拡散して、トカゲ男の掲げる楯にささる。クリアミラはそれを見て、「あちゃぁ〜」という具合に舌をペロリと出していた。彼女の舌に視線が吸い寄せられたぼくは悪くない。悪くないんだ。


 本能だもの ゆるしてね スヴェン。


 なんちゃって。


「なら、これで!」


 ぼくが視線を彼女の舌に集中させている間に、クリアミラは小さな短杖を取り出して、指揮棒のように振るった。


 轟音。


 巻き上がる風。

 

 竜巻だろうか。

 

 とにかく、矢を楯で防ぎながらもじりじりとこちらに近づいてきていたトカゲ人間×7は混ぜっ返された。


 風属性ってぼくが思っていたより威力があるようだ。なお、ぼく自身がそれを喰らったことはない。喰らいたくもないけれど。


 上空(うえ)から落ちてきたトカゲ人間(男)は間抜けな格好で地面に激突したやつもいれば、尻尾で上手くバランスを取って着地した奴もいる。ところが、それを狙って矢が飛んだ。


 ぶすり。


 鱗のうえから刺さる。掲示板で見るようなドラゴンと違って、鱗が物理攻撃を弾くようなことはないようだった。


「竜人じゃないから、ね」


 竜人(ドラゴノイド)。ぼくと同じぐらい“公式”で珍しい種族。その特性もぼくと全く逆。魔法は使えない代わりに、物理攻撃、物理防御が極致。種族柄、ある程度の魔法防御まで備える。PCとしても敵としても出てくるとか。


 まぁ、それはどうでもいい。ぼくもクリアミラも見たことがない種族のことをいっても仕方がないことだろう。


 そして風を纏った矢が放たれる。


 直接突き刺さるのではなく、地面に落下したトカゲ人間のちょうど中間地点の地面に着弾。


 そしてふたたびの轟音。


 今度は高い殺傷能力を発揮するそれ。2人で引いたその魔法をクリアミラはふたたび使う。そこには、自らとその連れ合い──つまりはぼくのことだ──にダメージがないように使用する魔法を選択した結果だろう。えげつないほどの威力を見せたそれがもう一度、ぼくの前に展開される。着弾地点により近いリザードマンは即死。少し遠い同族は風と散った鏃で切り刻まれて大ダメージ。


 あとは動けないモンスターに向かって矢を打ち込むだけ。……ぼく別にいらないじゃないか!


 圧倒的ではないか、わが森妖精(エルフ)は! いや、別にそういう因果関係がぼくとクリアミラの間にあるわけではないのだけどね。ただの言葉遊びだ。


「もしかしても、ぼくいらなかったんじゃない?」


 内心思ったことを彼女に伝える。だってぼく手伝ってないのだもの。


「ちょっと予想外だったのよ。そんな死にそうな目を向けないで。ちゃんとご馳走はするから」


 クリアミラ必死。日本人は食べ物にかんしては本気で怒る民族である。彼女もそれを知っている。この反応は間違いない。同胞だ。


「何かほかの事で手伝うから、それでよろしく」


 さすがに約束されたからという理由だけで、無償で女子に手料理をもらうわけにはいかない。いわば男のプライドのようなものだ。


 ぼくはぼくの目的を果たすことにする。もってきた大型ボトルに滝から流れ落ちた水を汲む。それにしても、1人だと神経を使うんだけど、2人だとそんなことがないということがよくわかるというのが、繰り返しになるけど今日の収穫だ。


 さて、帰ろう。ぼくらの町へ。


ここまでお読みいただきありがとうございました。感想、評価等ございましたら是非お願いします。

それでは、次回24話でお目にかかりましょう。

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