24話 Storm of iron/鉄の暴風
少し遅れまして申しわけございません。
振り向いた、ぼくのその鼻先に。
鉄塊が振りぬかれた。
ぼくがわかったのは、何か、誰かに思いっきりぶん殴られたということだった。
「がはっ!?」
ぼくがそこまで意識を取り戻したのは、吹き飛ばされて自らの体で木を何本も折りながら地面を転がったときだ。何が起きたのかいまいちわからないままに、一気に事態は動き出している。そしてぼくは痛みから起き上がることができずに、地面に伸びているような状態だ。仕方がないと思うな。わからないなら上半身に全力で金属バットのスイングを食らってみるといい。そうすればぼくの痛みがよくわかると思う。
ぼくがさっきまでいた地点に風が巻き荒れている。恐らくクリアミラだろう。ぼくがわかったのは、敵らしき何者かが鉄塊を携えているということと、僕自身のHPが現在危険域にあるということだけだ。
ステータスを確認してみると、ぼくのHPは残り5。この数値では、下手したら強力な地形ダメージで死に戻りが確定である。ぼくの真横に風が起こる。彼女の長い銀糸のような髪が倒れているぼくの頬を撫でた。
「生きてる?」
「死んでる」
クリアミラもどうやら無傷とはいえないようで、漏出している肩の部分に打撲跡がある。というか、コボルトの毛皮のマントは彼女の右側だけを覆っている。だから、左側はノースリーブの布鎧ということがよくわかるのだけど……こんな風に観察していたらただの変態な気がするのでそうそうにやめておこう。
「冗談とばせるなら何とか大丈夫みたいね、逃げるわよ」
いつもの快活な表情はなく、ぼくが吹っ飛ばされた方向を彼女は睨んでいた。何があったのか、ぼくにはまだ把握できていないから教えてくれると嬉しいのだけれども、いいかな、クリアミラ。
「オーバーモンスターね」
……最近出ていなかったからすっかりそのデメリットを忘れていたよ。そうだね。そんなデメリットもぼくにはあったね。
「まさかこんなタイミングで出てくると思っていなかった?」
クリアミラは自分の唇に手を当てて笑う。ぼくの思っていたことを見抜いたようだ。そんなにぼくは分かりやすいのか、と文句を言いたい。まぁそれは今この場で気にかける事柄ではないから、頭の隅に追いやることにする。今の問題は、あのオーバーモンスターの正体を知ることが先決だ。
「さて、あれは何者?」
ぼくには鉄塊しか見えていないからわからない。彼女は少し交戦していたようだから、その正体も見ているだろうとぼくは思った。
「リザードロード。わかりやすく言うなら、リザードマンの上位種ね」
それはつまり厄介ごとということではないのか。さて、どうするべきかな。
「決まっているわ、三十六計逃げるにしかず、よ」
なるほど。無謀な挑戦をするよりはそっちの方が安全か。間違いないな。クリアミラは打撃された左腕をかばっている。なるほど、弓を引く右手に何とか当たらないようにしたということだろう。ぼく自身も胴体に強烈なダメージがあるから移動速度はさらに遅い。ポーションを使ってHPゲージは回復したけれど、痛み止めの購入を忘れていたため、どうしようもない痛みは残っている。それがさらにぼくら2人の移動速度を遅くする要因になっているんだ。
滝の前で巻き上がっていた風がやむ。
同時に、大気を震わすような咆哮が森に響き渡った。その大きさに驚かされた鳥が翼をはためかせて空へ逃げていく。空を飛んで逃げれればいいのだけど、ぼくのレベルはそこまで達していないのだ。気を蹴倒しながらやつはこっちに向かってきているようで、機がみしみしと折れる音と、ずぅーんという木が倒れる音が断続的に響いている。その叫びもだんだんと近づいてきた。
「クリアミラ。あの移動魔法使える?」
困ったときの移動魔法だが、質問したぼくに答えるクリアミラの顔色は悪い。その顔色を見るだけである程度の事情はわかった。MPが足りないかそれ以外の何らかの理由であの高速移動魔法は使えないのだろう。彼女にMPポーションをわたして、魔力回復に努めてもらう。彼女はぼくが吹っ飛ばされた後の連続の魔法使用によってMPとその回復のためMPポーションを切らしていた。
「クリアミラ。よく聞いて」
彼女が飲み終わったころを見越して、ぼくはある提案をした。
その提案は、オーバーモンスターを引き寄せる原因にになったぼくがこの場でしんがりを努めるという簡単なもの。策略も何もない。クリアミラはもちろん反対したが、「ぼくの責任」という言葉を使いまくって何とか押し通す。彼女はもちろん納得していないようだったが、ぼくが無理やり逃げさせた。
クリアミラが何度もこちらを振り返る様子を見ながらぼくは深呼吸した。間違いなく死亡フラグを構築したような気もするが、とりあえずデスペナルティで消費するタイプのアイテムを全部失うだけだからなんとかなるだろうという気分。実はログアウト可能なデスゲームでしたみたいなオチはついていないから一安心ではあるとぼくは誰もいないのに苦笑する。意味もなく笑い声がこぼれた。オーバーモンスターというのはつまり、今のぼくのレベルでは勝てない相手ということ。だから実際にオーバーモンスターを倒すには倒せるレベルまで到達しなければならないというわけなのだ。絶対に勝てない相手というのは漫画などでよくある話なのだが、まさかVRゲームで出てくるとは普通の人は思うまい。
「ガァオオオオッ!」
木々をなぎ倒しながらぼくの前に現れたのは、3メートル近い巨躯。そしてぼくの胴ほどもあろうかという右手に持っているのはビルの建設で使いそうな巨大な鉄骨であった。そんなもん振り回すとか一体どんな筋力をしているのか、とぼくの心に疑問が沸いてくる。クリアミラはあの鉄骨を喰らったわけではなさそうだ。あれを喰らったらぼくみたいに瀕死になること請け合いだ。彼女とぼくの間にレベル差があるとはいえ、あの鉄骨はそんなレベル差など気にせずにお星様にしてくるだろう。
「グァオオオ……」
口から涎をたらしながら恐ろしい形相でぼくを睨んでくる。おお、怖い。
「そんなに睨むなよ」
ぼくは距離を取ったときの少ない時間を使ってポーションを使用して体力を回復していた。でも、ポーションは最大体力の2割を回復するもの。ゲージが満タンだった状態から残り数値5まで減らされるような攻撃を受けたら間違いなくさよならバイバイだ。
左手に魔力を集中させ、魔法陣を作る。少しでも距離をとっておきたい。吹き飛ばし効果のある【ショック・ウェイブ】、そして、【シューター・ショット】を両手別々に放ち、続いて威力の高い【ツインスフィア・ブラスター】を続けて投げつけるように撃つ。吹っ飛んでくれると思っていたが、ちょっと後退しただけという結果に終わった。与えたダメージそのものもそこまで高くない。
「うーん、これはちょっと予想外だな」
思わず独り言をつぶやいてしまう。困ったときのハヤトなんだけど、その彼ははるか遠くの街。
この状態にはもう笑うしかない。もっといってしまうならば草しか生えない。
「グルルッ!」
ぼくの魔法をひとしきり受けた後、腰を捻って、ミキリという音とともに腕に力瘤が現れたトカゲ男(当社比3倍)。どう考えても、ぼくを吹き飛ばしたアレが来ることはわかる。とっさに上に跳んだ。ぼくの足の下を暴風が通っていく。
空中で一回転して、モンスターの後ろに着地して振り向いてみると、まるで竜巻にもあったかのように、ぼくが直前までいた場所が半壊していた。木々は砕け、草花は散っている。環境破壊にももう少しマシは方法があるのではないかと思わずツッコミをいれそうになってしまったぼくは悪くないと思う。ただし、ぼくの頭上を覆っていた木々が破壊されたことで、日当たりは確保されて、より敵が見やすくなったというメリットはある。同時に隠れるような場所もないというのが問題点。さてさて、どうしようかな。
その一瞬。思考が外にそれた一瞬だった。一歩だけで距離を詰めてきたヤツの鉄塊が上から、ぼくに振り下ろされた。
気がついたら、知っている天井。わかりやすく言うなら、ぼくの部屋だ。
初めてゲーム内で死んでしまったからどのようになるのか全くわからなかったけれど、、LOLの場合は強制ログアウトという使用なのか。
まぁ、ちょうどいい区切りということでゲームも休憩だね。
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それでは、25話でお会いいたしましょう。




