【番外】さよなら作蔵
二話連続投稿。
前の読まないとわからないとこあるかもしれないけど、間の空白が前話ということでご了承ください。
乖層とか訳のわからない言葉は造語です。
パソコンの画面には、インターネットの匿名掲示板が表示されていた。
蓮はデスクを前に自席に座ったまま、眉間に皺を寄せて、応接テーブルのソファに座っている湊に不機嫌な声を投げつける。
「で、これを、お前が、逃したんだな?」
「だって、悪意なさそうだったし……」
不貞腐れたように呟くと、先ほど自分でいれたカフェオレを一口飲む。蓮に呼び出された時はいつも勝手にいれている。なお、自分の分だけで、他の人には聞きもしない。そんな配慮を知らずにこの年まで来ているのだ。
「なぜわからない? これだけの存在が、恒一以外に声が届かないこと自体、おかしなことだろう?」
霊。普通の人は、ほぼ関わりなく過ごして一生を終える。終えた後も自分が霊になってるなんて気がつかないまま消滅する人がほとんどだろう。
そんな存在と幼い頃から関わり続けてきた湊は、色々あって人とだいぶ感覚がずれている。
黙っているだけの湊に、蓮はさらに言い募る。
「これだけの強い霊が人に声すら届かないということは。かなり乖層に進んでいることは理解できるな?」
乖層とは。
我々が住んでいるこの世界とはズレた場所(層)がある。霊的な力が強くなると、そちらに引っ張られて、現実の層から乖離していくという意味である。どういう層なのか、なぜそちらに引っ張られるのかはわかっていない。
単なる霊は乖層にたどり着くことなく消えていく。世界と同化するとも言われている。しかし、存在が強くなりすぎると、理屈はわからないが層がずれていく。悪霊化するほどの霊はほぼ乖層に存在している。逆に言えば、乖層にいる霊はほぼ悪霊である。
なお、乖層に行く前の霊は、強くなるにつれ人に認識されやすくなる。姿や声など、どの部分が認識されやすいのかは霊によるが、その理屈は解明されていない。
そして、乖層に近づくと、なぜか認識されにくくなるのだ。一度認識できなくなり、再び見えたり聞こえたりするようになる頃には、悪霊として完成している。
つまりあのお調子者の江戸魂な人形は、理屈の上ではほぼ悪霊だったのだ。まだ完成しているとは言えないが、このまま放置すれば完全に悪霊となるはずだ。
それを湊はあっさり世に解き放ってしまった。
全く頭が痛い。
ため息をついた蓮の前にあるパソコンのモニターには、こんな文字が踊っていた。
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【クビモゲ子】爆走する赤い人形を追うスレ Part3【羽田3タミ発】
1:怖がり名無しさん XXXX/07/01 00:06:12.33
東京〜静岡で目撃されている、爆走首曲がり人形通称「クビモゲ子」の目撃情報スレです
移動記録まとめ
6/23 羽田空港第3ターミナル
6/23 川崎大師付近
6/24 平塚・相模川
6/26 大磯
6/27 小田原城外周
6/28 箱根湯本→箱根関所跡
6/29 箱根峠 6/30沼津〜三島
ほぼ国道1号沿い
クビモゲ子
商品名:アイちゃん(ミルク飲み&着せ替え人形)
発売時期:1960年代後半〜1990年代頃(該当個体は1970〜80年代推定)
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蓮がこの騒ぎに気がついたのはつい昨日のことだ。
ネットでは様々なオカルト情報が出回っているが、出回ることができる時点で蓮の関心はほぼなくなる。
これが興味を引いたのは、ひとえに「複数の情報源から書き込まれる単一の情報が長く続いている」からだった。
一人の人間が体験として長く語ることはある。しかし、相当普及した創作怪談やミーム化した話でもない限り、複数の人間が個別に同じ情報を上げることは少ない。
ヤラセやノリで加工した写真を上げる人も多いが、理屈の上ではAIが読み込めたり、人が加工できたりする心霊写真は偽物なので、ネットで「祭り」になるようなものはだいたい偽物なのだ。
蓮は心霊写真の真贋はほぼ間違いなく見分けられるので、本当に東海道を中心にこの人形が目撃されることに気づいたというわけだが。
「これは、回収しにいくしかないな」
ため息混じりに吐き出した言葉に、湊がビクッと震えた。
責任を取ってお前が行け、と言われることを恐れているのだ。
蓮としても是非そうしてもらいたいところではあったが。
無理だろうな。
こちらと目を合わせようとしない湊に舌打ちをしたくなる。
しかし無理やり命じたところで遂行できるとも思えず、さすがに恒一に頼む距離でもなくなっている。
湊は適当に日永の追分までは一号線で行けることを説明したらしい。ネットでもすでに一号沿いに動いているという軌跡が記録されている。今後は探す人などが一号線沿いに増えていくだろう。全く面倒をかけられているものだ。
蓮はパソコンのカレンダーを開いてリスケジュール可能な予定を考え始めた。
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『よう! あんちゃん、また会ったな!』
深夜三時の四日市市内のとある場所で、クビモゲ子こと作蔵はあっさり捕まった。
四日市市内で自分を捕まえようとしている人間が多かったため、暗渠に潜って移動していたのだが、地上に出たところで突然身動きができなくなったと思ったらバサリと布が被せられた。何が起こったかわからないうちに持ち運ばれた。
布が取り払われたのは、作蔵の知らない部屋の中だった。実際には伊勢神宮からそう遠くないホテルの一室である。
目の前には自分を旅立たせてくれた(と作蔵は思っている)人物と、知らない人間。
よくわからないが湊との再会を喜んで、作蔵はピョンとはねた。
「作蔵さん……であってるかな?」
湊が何か言う前に、蓮が話しかける。
『おう! おいらのこと知ってるんだな! 新しいあんちゃんもよろしくたのむぜ!』
「よろしくしたいところだが、あなたの目的は伊勢参りで間違いない?」
『もちのろん! 代参だってのによぅ、行けねぇのが心残りだったからな』
「しかし、君は伊勢参りはできないだろう?」
実際、旅の途中で通りかかった神社仏閣に、作蔵は立ち寄っていない。
『できるできねぇでいえばできるぜ。ただおいらは消えちまうけどな!』
「分かっていたのか」
『そらそうよ! 古今東西、物怪幽霊祓うは神か御仏かってな! 祝詞も般若声も恐るってもんよ』
「それでも伊勢参りに行くつもりだったのか?」
『おいらは居ちゃいけねぇモンだろ。どうせなら心残りのお伊勢参りでさっぱり消えるのが後腐れもねえ』
そう言って首が傾げられたままケラケラ笑う作蔵。不気味な人形が笑っているホラーな構図だが、本人の気質はさっぱりしたものだった。
『道中、十人ほど霊になった奴らにあったんだけどよ、あれはいけねぇや。なんか、上手く言えねぇけど、アレを取り込んだらオイラはもっと良くなる』
作蔵の言葉に蓮も湊も目を見張る。他の霊を喰らって自分を強化する。悪霊化する霊がやることだし、作蔵自身は自覚がないかもしれない。しかしおそらく人形に入るまでにすでに何かしら、動物や虫の霊かもしれないが、喰らっているはずだ。それができることもわかっていて、良くないことだと自制しているとは、随分と理性的な話だ。
『だからお伊勢でさっぱり消えるのがいいんだよ。道中色んなもん見れて、なんかすげー乗り物乗ったら吹っ飛ばされて楽しかったしよ! 後はお伊勢参りできれば思い残すことはねぇ! もし生き……てねえな、とにかく残れたら古市でも冷やかしてやるよ』
「残念ながら古市の遊郭はもうない」
『ないのか! まあ仕方ねぇ、色んなもんが変わったもんなぁ』
伊勢まいり 大神宮へも ちょっとより。江戸時代の伊勢古市は、一時は吉原を凌ぐとも言われる歓楽街だった。今は面影もわずかに残るのみとなっている。
作蔵は最後までカラッとした気質のままだった。
最後まで彼らしいまま、蓮が持つカバンの隙間から見える景色に声をあげて喜んでいた。
二十年に一度新ためられる伊勢の社は古さを感じさせるわけではない。
しかし、作蔵の生きた時代も現代も、全く同じ姿で造営されている。
『楽しかったぜ、ありがとよ!』
そんな神宮の境内を楽しみ、正宮の前で、作蔵は消えた。
実にあっさりしたものだった。
残ったのは、もう動くことのない首の曲がった人形だけ。
東海道を騒がせた人形は、人目につかないように供養に出された。
そこには、江戸時代の伊勢講代参も持ち帰っていた神宮大麻や萬金丹が添えられていた。
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723:怖がり名無しさん XXXX/12/31 23:05:38.74
今年一番のネタはやっぱりクビモゲ子だったよな
四日市が最後だっけ
後から出てきた情報は明らかに別人形使ったヤラセとかAIっぽいのばかりだし
725:怖がり名無しさん XXXX/12/31 23:18:54.21
クビモゲ子w すでに懐かしい
四日市以降は複数箇所同時とかそもそも旅を楽しんでないホラー全開な動画ばかりだったよな
楽しまなきゃモゲ子じゃない
726:怖がり名無しさん XXXX/12/31 23:39:23.74
>楽しまなきゃモゲ子じゃない
草 でも合ってる
727:怖がり名無しさん XXXX/12/31 23:52:56.85
どこかでひっそり旅を楽しんでると俺は信じてる
来年もおもろい話あるといいなw
モゲ子もお前らも良いお年を!
すみません作蔵がお気に入りキャラになってしまったので引っ張りました。
次話、まだネタすら出てないので時間開きます。




