005-002 僕達の夏が始まろうとしている
「先輩、九鬼先生と仲良いんですね」
「まぁね。近所のお兄ちゃんみたいな感じだよ。まあ、でも、教師としては、60点ぐらいだけどな」
「手厳しいですね」
「いんや。褒め言葉みたいなもんだぜ。教師として100点でも親しみ辛かったら、嫌じゃん」
僕達が話をしていると、また扉が開く。
K.A.I.先輩とTomo先輩だ。
「おつかれ」
「先輩、お疲れ様です」
「お〜、K.A.I.、部長、遅かったじゃん。さっきまでくっきーが来てたんだぜ」
「へぇ、珍しい。職員室にいたくないイベントでもあったのかしら?」
「ご明察。なんか、教頭の演説が始まりそうだったんだと」
「おや?しかし、先程、九鬼先生を呼び出す放送が流れていたようだけれど」
「そ。結局逃げ切れなかったわけ」
「ま、あいつがゲーム部に顔出すのって、そう言う時だけよね。元ストリーマーなのに、わたし達を指導する気は0よね」
「九鬼先生ってストリーマーだったんですか?」
K.A.I.先輩から語られた意外な事実に僕は聞き返す。
「そうよ。大学生の時はストリーマーをやっていて、そこそこ人気があったらしくて、そのままストリーマーとして活動を続けていくつもりだったところを親に反対されて教員になったらしいわ」
「ストリーマーとして食べていく気があったってことは、結構名の知れた人だったんですかね」
「『kkkk』で、ググってみなさい。主に格ゲーの大会の記録が出てくる筈よ」
僕は言われた通り検索する。
確かに、「kkkk」と言うプレイヤーは数々の大会で結果を残していた。
世代じゃないから、聞いたことはないけど、Wikiの情報だと、最高で80万人の登録者がいた結構、と言うかかなり有名なストリーマーだったらしい。
「本当だ。色々出てきますね。ところで、HNの『kkkk』って、どう言う意味なんでしょう?」
「そのまま、名前よ。『九鬼広輝』→『くきこうき』→『kuki koki』→『kkkk』って感じね」
「結構そのままですね。そう言えば、HN繋がりで気になっていたんですけど、you先輩のHNはなんで『you』なんですか?」
「ん?オレ?」
「はい。Tomo先輩は、下の名前をそのままローマ字にしていて、K.A.I.先輩は、下の名前の音読みをローマ字にしている感じじゃないですか?だったら、you先輩も『Yuu』とか『Yu』が自然だと思って」
「別に深い意味はないけどよ。『youにやられた』とか『You were killed by you.』とか表示されたら、面白くね?発音もユーで変わらないし。ちなみに、K.A.I.はただ名前の『海』を音読みしただけじゃないぜ。な?」
ニヤニヤとした表情でyou先輩はK.A.I.先輩に話を振った。
「…」
「確か、英単語の頭文字を取ってるんだよな?」
「わかったわよ。言えば良いんでしょ。『Kewl』、『Awesome』、『Informed』、それぞれの頭文字を取って、K.A.I.よ。文句ある?」
「えっと…」
英単語の意味がわからない。
「かっこよくて、凄くて、知識のあるK.A.I.さんってわけよ。あひゃひゃ」
「あっ…」
「ッ!引いてんじゃないわよ」
「あっ!あれですよね。僕と同じく、賭けで負けて仕方なく、ですよね?」
「…自分で付けたのよ」
K.A.I.先輩ってバトロワのコスと言い、結構、中二病なところあるよな。
「だよなぁ。頑張って調べてたもんな。『Kewl』ってスラング知ってるわたしマジKewl、みたいな?あっひゃっひゃっ」
K.A.I.先輩は顔を真っ赤に染める。
「か、かっこいいと、思います、よ!」
「下手な慰めなんて要らないわよ」
「盛り上がっているところ悪いのだけれど…」
Tomo先輩は話の腰を折るように助け舟を出す。
「はい(?)」
「GWの予定を決めたくてね」
そう言えば、そろそろそんな季節だ。
「GWの予定ですか?」
「ああ。例年は適当なストーリーのあるゲームを選んで、クリアするのが通例なのだが、今年は公式バトロワの強化週間にしたいと考えているんだ」
「ま、オレの提案だけどな。5月の半ばにはインハイの県予選が始まるからな」
「インターハイ(e-Sports)の種目って、バトロワだけじゃないですよね?」
「そうだね。種目としては、バトロワ、格闘ゲーム、パズルゲーム、カードゲーム、リズムゲームとあるね。団体で参加できるのは、バトロワだけかな」
「K.A.I.は格ゲーに、オレは格ゲーとカードゲーにも出るけど、MoMoちゃんは他に出たいのあるのか?」
「そうですね。とりあえず、今年はバトロワだけにしておきます」
正直、+格ゲーぐらいには出たかったけど、バトロワの練習だけで手一杯になる気がするから、辞退しておこうと思った。
僕達の夏が始まろうとしている。




