成人の儀
義務教育を終えた15歳の娘豹・莉央と、彼女を導く38歳の母豹・恵美。雌豹だけが属する血統の中で、世代から世代へと受け継がれてきた「狩り」の宿命が動き出す瞬間だ。
雌豹が頂点捕食者として君臨するこの世界における、二人の緊迫した、しかし日常でもある一幕をショートストーリー形式で描く。
母豹・恵美38歳、娘豹・莉央15歳。
恵美が莉央に
「あなたも義務教育を卒業したから、いよいよ狩りのデビュー戦ね。」
15歳。義務教育の修了。それはこの世界において、守られる側から「食う側」へと回ることを意味する。
背後からかけられた恵美の声には、母豹としての慈愛と、一人の熟練した狩人としての冷徹さが同居していた。38歳。数々の「収穫」を経て、今やコミュニティの重鎮でもある恵美の肌は、雄豹の生体エネルギーを効率よく摂取し続けているせいか、年齢を全く感じさせないほどに瑞々しく、美しい。
「……うん、お母さん。心の準備は、できてる」
莉央は小さく息を吐き、遠くを見つめる。
防壁の向こう、雌豹たちのセクターは、彼らの圧倒的な繁殖力を証明するかのように、無数の生命反応で満ち満ちている。放っておけば世界を埋め尽くしてしまう、哀れで、しかし猛烈な勢いで増殖する彼ら。
「緊張しなくていいわ。彼らは増えすぎる。私たちが間引いてあげなければ、彼ら自身も飢えで滅びるのよ。これは慈悲であり、この世界の正しい歯車なの」
恵美の手が、莉央の細い肩にそっと置かれた。その手の温もりが、莉央にとっては世界の絶対的なルールそのものだった。
「さあ、選びなさい。あなたの血を、これからの人生を繋ぐための、最初の獲物を」




