今度はもっと優しい世界で
異世界転生は夢がある。だが、夢は夢のまま終わるそれが現実だ。僕は異世界に転生した。わくわくドキドキ、これから何が待ち構えているのか、そう思い続け……80年が経った。
「長老! 魔物が村の近くに!」
ドタバタと音がするかと思えば、若いものが顔を顰めて声を上げた。長老、それは僕、いやわしのことだ。魔物、初めて聞いた時はとてもわくわくしたな。でも今ではただの凶暴な害虫にしか思えん。80年、80年だ。もはやこちらの世界がわしにとっての現世。あの夢のような、安全で優しい世界は夢だったのかもしれないと、わしは思い始めている。
「長老?」
異世界にきて、魔法の検査を受けた時のことはよう覚えておる。適性なし。この世界では珍しい、魔法の適性が一切ない人物。身分を証明するものもなく、他国のスパイだと怪しまれ、すぐに魔物のいる森へ放り出された。そこで1年、泥水を啜り、虫を食べ魔物から身を隠し、1人の恩人に出会った。
「長老ッ! 大丈夫ですか!?」
彼はわしの異世界から来た、などと言う話を本気で信じてくれた。そこからなんとか国に戻り、石炭を採掘する仕事に就き、ミスれば殴られ刃向かえば容赦なく殺される。だが、何十年も仕事をやるうちにいつしかわしは殴る側へとなっていた。60歳。そんな自分が嫌で仕事を辞め、のんびり暮らそうと農業を始める。すると村のトップを任され、毎日仕事に追われた。
「おい、長老が倒れたッ!」
なんで、なんでこんなことになった。何が「わし」だ、僕は何歳だろうと僕だ。やり直したい、今度はもっと恵まれた体で。やり直したい、もっと安全な環境で。やり直したい、もっと優しい世界で……。
「やり直せ」
直接脳に響くような不思議な音。やり直せ、その言葉が何度も何度も脳に響く。
「やり直せ」
やり直す? できることならやり直したいに決まってる、でもできないから…!
「やり直せ」
それに、やり直したってまた同じことの繰り返しだろ! お願いだから、僕をあの優しい世界に帰してくれ!
「お前は全て持っていたはずだ」
ははっ…、面白い冗談だ。転移してすぐ、魔物だらけの森に捨てられ、地下で労働させられ、恩人を目の前で亡くした僕が、持っていただと……? お前はそう言うのかよ!
「なぜ、魔物の森でなぜ生き残れた? なぜ恩人は都合よく現れた? なぜ80年も生きられた?」
それは全部僕が努力したから…!
「お前は持っていた」
やめろよ、やめろやめろ! 僕が恵まれているわけがない、そんなの信用しない。それじゃまるで、80年も無駄にしたみたいじゃない!
「お前は持っていながら、使わなかった。使えなかった」
使えなかった?
「お前は森に捨てられた時、いた兵士の数は?」
1人……。
「手には武器すらない兵士だ」
なんだよ、殺せばよかったとでも言うのかよ。
「そうだ。殺せばよかった。生きるために。森へ行く途中いくらでも殺す手段はあったはずだ」
ふざけるな! もしそうでもそれが恵まれてると言えるのか?
「そんなことが何回も何十回も何百回も、お前にはチャンスが与えられた。だがお前は、その全てを逃した」
僕は誰より努力してきたし、生きるために本気で戦ってきた。それで逃すようなチャンスなんて、チャンスじゃないだろ!
「違う違う。お前は全て間違っている。お前は何人助けた? 譲るな嘆くな臆すな逃げるな悲しむな! そして憐れむな。ただ喰らえ」
ただ喰らえ、か。まさか神から人殺しの許可出るとはな。んひひ、それなら僕は本当に喰らい尽くしてやる。誰も僕を捌かない。そしてこんなことは僕だけで終わりだ。思わず、転生者が呆れるような世界。
ーーもう一度やり直せるなら、僕が作ってやる。恵まれた環境を、そして優しい世界を。




