一話 転生そして覚醒
初めて書いてみました!!
素人作品なので大目に見てください...
応援してくれたら嬉しいです!!
「クリアっと」
今俺がやり込んでいるゲームは、魔法学園を舞台にしたハイファンタジーRPG――
『エターナル・アカデミア』。
このゲームは普通のRPGとは少し違う。
王子、聖女、天才魔法使い、騎士、平民の学生など、様々なキャラクターの視点で物語が進む。
プレイヤーは主人公を選び、そのキャラの人生を体験する。
選択によってストーリーは変化し、結末も変わる。
誰と仲良くなるか、どの事件を解決するか、どの道を選ぶか――その結果、ストーリーはまったく違うものになる。
そして噂によると――
ストーリーの結末は億以上あるらしい。
もちろん全部見るのは不可能だ。
だが、俺は思った。
「……やるしかないだろ」
気づけば俺はこのゲームにどっぷりハマっていた。
王子ルートをクリア。
聖女ルートをクリア。
魔法使いルートもクリア。
隠しイベントも探し、裏ルートも発見。
攻略サイトにも載っていないイベントをやり尽くした。
気づけば、俺はこのゲームのほぼ全てを知っていた。
そして画面の右上。
プレイ時間 9999:59:58
「あと二秒か……」
ここまでやり込んだゲームは初めてだった。
9999:59:59
そして、
10000:00:00
プレイ時間が一万時間に到達した。
その瞬間、画面が一瞬暗くなる。
「ん?」
そして表示された。
『プレイ時間一万時間達成』
「お?」
続いて文章が出る。
『追加コンテンツを解放します』
「追加コンテンツ?」
見たことがない。
攻略サイトにも載っていない。
だが、ここまでやり込んだゲームだ。
新しい要素があるならやらない理由はない。
「まあ押すか」
俺はクリックした。
その瞬間、画面が強く光る。
「え?」
視界が真っ白になる。
体が浮く感覚。
俺の意識は闇に飲まれていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……う、あ?」
目を開けた瞬間、見えたのは見慣れない天井だった。
白い石でできた天井。
細かく彫り込まれた装飾。
どう見ても日本の家じゃない。
「……え、ここどこ?」
体を起こそうとして、違和感に気づく。
手が、やけに小さい。
「……は?」
両手を顔の前に持ってくる。
指が細く短い。
手のひらも小さい。
どう見ても子供の手だった。
「ちょっと待て、ちょっと待てって……!」
ベッドから慌てて降りようとして、足元が少しふらつく。
「え、マジで子供じゃん……!」
頭が混乱する。
さっきまでゲームをしていたはずなのに...
だが現実としか思えない。
豪華な部屋。
大きなベッド。
金の縁飾り。
高そうなカーテン。
窓から差し込む朝の光。
すべてがリアルすぎた。
「……いや、待て。これ……」
部屋の隅に、大きな鏡があるのが見えた。
嫌な予感がした。
「まさか……」
恐る恐る鏡に近づく。
そして、映っていたのは――
見知らぬ少年だった。
金髪。
光を受けてふわりと輝く髪。
緑の瞳。
澄んだ色で、妙に印象に残る目。
顔立ちは整いすぎていて、どこを取っても無駄がない。
子供なのに、もう完成されているような顔だった。
「……イケメンすぎるだろ」
思わず口に出る。
そして、次の瞬間。
頭の中で何かが繋がった。
「……待て」
この顔。
知っている。
ゲーム画面で何度も見た。
王子ルートでも、聖女ルートでも、魔法使いルートでも登場した。
公爵家の次期当主。
トップクラスの才能を持つ、あの男。
「……これ、レオン・ヴァルディアじゃね?」
鏡の中の少年と目が合う。
金髪。
緑の瞳。
整いすぎた顔。
ゲームの時より幼すぎてわからなかったが間違いない。
そして俺はゲームの世界に転生してしまったのだ。
「だがレオンかぁ、まじかー」
思わず頭を抱えた。
こいつじゃなかったらよかったのに、というのが正直な感想だった。
見た目は最高。
才能も最高。
だが――
「……運が、最悪なんだよな」
レオン・ヴァルディア。
ヴァルディア公爵家の長男。
王国でも有数の名門に生まれ、将来は公爵となる約束された存在。
魔法の才能は異常。
見た目も完璧。
礼節も、教養も、何もかも揃っている。
表向きは、誰もが羨む理想の貴公子。
だが、その実態は――
どのルートでも必ず死ぬ男だ。
王子ルートでは暗殺。
聖女ルートでは事件に巻き込まれて死亡。
魔法使いルートでは魔物の襲撃。
事故。
儀式の失敗。
裏切り。
不運。
不運。
不運。
何をしても、どの道を選んでも、最終的には死ぬ。
それがレオン・ヴァルディアというキャラだった。
「……運悪すぎだろ」
思わず呟く。
でも、同時に少しだけ納得もしていた。
前世の俺も、たいして運が良かった人生じゃなかった。
何かに恵まれた感覚なんて、ほとんどなかった。
だからなのか、鏡の中のレオンを見ていると、妙に他人事じゃない気がした。
「……でもコイツ才能だけは最強クラスなんだけどな...」
完全に俺の上位互換では?
そんな変なことを考えながら、俺は深く息を吐いた。
だが、すぐに気持ちを切り替える。
違う。
これは最悪の転生先ではない。
最高の転生先だ。
ゲーム世界。
攻略済みの世界。
しかも自分は、ゲーム知識を丸ごと持ったまま転生している。
「……いや、これ、めちゃくちゃ嬉しいな」
混乱はしている。
状況も飲み込めていない。
でも、それ以上に――
ゲームの中に入れたことが、素直に嬉しかった。
こんなこと、前世じゃ絶対にありえなかった。
画面の向こう側にしかなかった世界。
何百回、何千回と眺めていた場所。
その中に、自分がいる。
「やったな、俺……」
思わず笑ってしまう。
「こんな人生、前世じゃまず来ないだろ。……まあ、前世がアレだったしな」
少しだけ自虐して、すぐに気を取り直す。
ゲーム世界に転生できた。
それだけで十分すぎる。
だが、喜んでばかりもいられない。
レオン・ヴァルディアは、どのルートでも死ぬ。
つまり、この身体で生きるなら、まず最初にやるべきことは決まっている。
死亡フラグを全部回避すること。
「……よし」
鏡の中の自分を見ながら、俺は小さく笑った。
「この世界、攻略してやるか」
そう小さく呟いた、その時だった。
「坊っちゃま」
扉が静かに開いて、ヒナが入ってきた。
年は十代後半くらいだろうか。
まだ若い。
けれど所作は落ち着いていて、立ち姿もきれいだった。髪は控えめにまとめられていて、淡い色のメイド服がよく似合っている。
ヒナは軽く頭を下げると、やわらかい声で言った。
「レオン坊っちゃま。五歳のお誕生日、おめでとうございます」
「ああ、そうだったな」
俺は少し目を瞬いた。
「誕生日か。言われるまで忘れてた」
「……坊っちゃまらしいですね」
ヒナは慣れた様子で小さく笑った。
俺が変なことを言うのにも、もうだいぶ慣れているらしい。
「でも、今日はお祝いだけではありません」
「うん、知ってる」
「教会で鑑定をする日です」
「そうそう、それ」
俺は軽く頷いた。
「ついに来たか、って感じだな」
「そんなに楽しみですか」
「まあな。こういうの、結果がわかるまでの時間がいいんだよ」
「坊っちゃまは、昔からそういうところがありますね」
ヒナは苦笑しながらも、特に驚いた様子はない。
いつものやり取り、という感じだった。
「え、そうだっけ」
「ええ。少し変わっていて、でも妙に前向きです」
「それ、褒めてる?」
「もちろんです」
「ならよかった」
なんか自然に話せるぞ?
そこでふと、頭の奥に引っかかるものがあった。
前世の記憶だけじゃない。
この身体で五歳になるまでの、レオンとしての記憶も、ちゃんとある。
ヒナが最初に世話をしてくれた日のこと。
父に厳しく言われたこと。
母に髪を撫でられたこと。
そういう細かい記憶まで、きちんと残っている。
前世の俺の記憶と、レオンとしての記憶。
なんか不思議な感覚だ。
「よし、じゃあ行くか」
「はい。馬車の準備はできております」
「さすが、早いな」
「坊っちゃまの予定ですから」
そんな会話をしながら、俺は部屋を出た。
廊下は長く、石造りで、壁には高そうな絵画が飾られている。
窓から差し込む光が床に落ちて、やけにきらきらして見えた。
「すごいな……」
「公爵家ですから」
「だよなあ」
そして屋敷の正面玄関に出ると、すでに二人の姿があった。
「レオン、来たか」
先に声をかけてきたのは父だった。
長い金髪を後ろで軽く束ね、余裕のある笑みを浮かべている。
ギアラ・ヴァルディア――王国屈指の魔法の天才にして、現ヴァルディア公爵。
その実力とは裏腹に、性格はやたらと軽い。
「遅くはないな。いいぞ」
「おはようございます、父上」
「おはよう。今日は鑑定だな」
楽しそうに言う。
「父上の方が楽しみにしてません?」
「当たり前だろ。自分の息子の才能が見れるんだぞ」
迷いなく言い切る。
「レオン」
次に声をかけてきたのは母――セリナだった。
王国でも名を知られる剣の天才。
凛とした雰囲気をまとっているが――
「ちゃんと眠れた?」
「大丈夫だよ」
「体調は? どこか痛くない?」
距離が近い。
「問題ないって」
「本当に?」
「本当」
完全に過保護だ。
「母上、近いです」
「……今日は大事な日なのよ」
少しだけ不満そうに距離を取る。
ヒナが後ろで小さくため息をついた。
「坊っちゃまが困っております」
「困ってないわよね?レオン?」
「いや、まあ……ちょっとだけ」
「ほら」
セリナは一瞬むっとしたが、すぐに笑った。
「あなたは私たちの息子なんだから。ちゃんと自信持っていなさい。」
その言葉に、ギアラが軽く手を叩く。
「よし、行くか」
馬車に乗り込む。
揺れの中、ギアラが腕を組みながら言った。
「レオン、少しは緊張してるか」
「まあ、それなりに」
「いいな。そのくらいが一番いい」
軽くうなずく。
「そういえば父上」
「なんだ?」
「初めての鑑定ってどうだったんですか」
「ああ、それか」
ギアラは少しだけ笑った。
「魔力は千くらいだったな」
「千……?」
「平均が十で、一般的な魔術師は五十、宮廷魔術師でも三百くらいなんですよね?」
「ああ」
「その三倍だ」
あっさり言う。この世界では体力などのステータスはレベル...努力次第で上がるが魔力はほぼ最初の鑑定から変わらない。
つまり才能なのだ。
「まあ公爵家だからな」
「理由になってないですよ」
「そうか?」
まったく気にしていない。
セリナが横から言う。
「魔法だけならあなたね」
「“だけ”じゃないつもりなんだが」
「剣なら私よ」
「はいはい」
軽いやり取りだが、内容は完全に規格外だ。
ヒナが静かに補足する。
「公爵様は歴代ニ位の魔力量です」
「じゃあ父上は例外だな」
「その通りです」
「まあ、俺の息子だからな」
ギアラが楽しそうに笑う。
「期待してるぞ」
そうこうしているうちに、馬車は屋敷の門を抜け、王都の大通りへ入った。王都まで近くね?と思ったが今は王都の別荘に住んでるんだった。
外の景色は一気に賑やかになる。
朝の市場を開き始める商人たち。
荷車を引く人。
通学らしい子供たち。
貴族の馬車を見て、道を開ける平民たち。
「やっぱり街もでかいですね」
「王都ですから」
「ヒナ、それってもう公爵家のテンプレなのか?」
「便利ですので」
「便利なんだ……」
ギアラが少しだけ笑った。
「まあ、実際そうだ」
馬車は揺れながら、王都の中心へ向かって進んでいく。
しばらくすると、遠くに教会の尖塔が見えてきた。
白い石造りの大聖堂。
朝の光を受けて、妙に神々しく見える。
「見えてきたな」
ギアラが窓の外を見ながら言う。
「うわ、でかいな」
「坊っちゃま、またそれです」
「いや、でかいものはでかいでしょう」
「否定はしませんが、もう少し上品な感想はないんですか」
「急に出てこないですよ、そんなの」
ヒナは小さくため息をついた。
でも、少しだけ笑っている。
教会が近づくにつれて、同じ方向へ向かう馬車が増えてきた。
どうやら今日は、鑑定を受ける子供たちがかなり多いらしい。
「人も多いな」
「本日は鑑定の日ですから」
「そうでした」
そういや俺、鑑定の日に誕生日って運いいのかな?
大聖堂の前に到着すると、すでに何組もの親子が並んでいた。
貴族らしき家の者もいれば、平民らしき服装の子もいる。
みんな少し緊張した顔をしていて、それが逆に落ち着かない。
馬車を降りると、神官がすぐにこちらへ来た。
「ヴァルディア公爵閣下、本日はお越しいただきありがとうございます」
「うむ」
ギアラは軽くうなずく。
「息子の鑑定だ。よろしく頼む」
「承知しております」
神官はかなり緊張している様子だった。
そりゃそうか。
公爵家が直接来るんだ。
しかも、父上が一緒にいる。
そのまま神官に案内されて、教会の中へ入っていく。
中は静かだった。
高い天井。
長い柱。
中央に置かれた大きな水晶。
その周囲に、すでに何人かの子供が並んでいた。
「まずは平民の方から順に鑑定いたします」
神官の声が響く。
一番前に呼ばれたのは、質素な服を着た少年だった。
緊張した顔で水晶に手を置く。
光が走る。
名前:ハンス・ミラー
年齢:5
レベル:1
体力:11
筋力:9
魔力:25
速度:10
耐久:8
器用:11
スキル
草取り Lv.1 才能C
「才能Cとはいいですね」
神官が微笑みながら言う。
次の少女も、ほぼ同じだった。
名前:ミナ・ルーツ
年齢:5
レベル:1
体力:10
筋力:8
魔力:19
速度:11
耐久:9
器用:10
スキル
裁縫 Lv.1 才能D
「いいですね」
平民の子供たちは、どれも似たような数字だった。
魔力は十前後。
体力や筋力も、子供ならこのくらい。
それがこの世界の“普通”なんだろう。
「本当に鑑定なんだな」
俺がつぶやくと、ヒナが小さくうなずいた。
才能E以下は鑑定にはでないが練習すれば身につくようになっている。D以上というのは才能があれば出るものなのだ。
その後に呼ばれた貴族の子供たちは、少しだけ数字が高かった。
伯爵家の子は魔力五十前後
子爵家の子は四十前後。
魔力の才能は血が関係してるらしいけど実際みると納得できる。
そして、男爵家の子供のひとりが、水晶に手を置いた瞬間、少しだけ空気が変わる。
神官の前に浮かんだ文字はこうだった。
名前:ロイド・バルド
年齢:5
レベル:1
体力:18
筋力:16
魔力:150
速度:15
耐久:14
器用:17
スキル
火魔法 Lv.1 才能B
固有魔法:火花
「固有魔法が出ましたね」
神官が少しだけ声を上げる。
会場がざわつく。
「一万人に一人の資質です」
その言葉で、さらに空気が変わった。
「一万人に一人……」
「魔力も凄いな...」
「でも、火花か……」
たしかに、弱そうだ。
火花。
小さな火を起こすくらいが限界だろう。
だが魔力は頭一つ抜けている。
それに火魔法の才能がBというのもかなり凄い。
男爵家の父親は嬉しそうだった。
「固有魔法があるだけで十分すごいぞ」
「はい。とてもいい才能です。」
神官もそう答える。
ヒナが小声で教えてくれた。
「固有魔法は、選ばれた人しか与えられない魔法です。けれど、持っている人が才能あるかはわかりません」
「一万人に一人、か」
「はい。かなりの希少です」
それからも、貴族の子たちが順番に鑑定されていく。
だが、固有魔法を持っていても、その多くは弱い。
“灯火”や“風切り”や“護符”のような、どうにも地味なものばかりだ。でも親達は抱き合って喜んでいる。
そのたびに神官は淡々と説明する。
「固有魔法は希少ですが、種類はさまざまです。強さも、扱いも、持ち主によって大きく変わります」
「つまり、出たからといって強いとは限らないんですね」
「その通りです」
なるほど、よくできている。まあ知ってるけど。レオンの記憶があるから初めてに思ってしまう。
レアではある。
でも、それだけでは勝てない。
そして、ついに次の名前が呼ばれる。
「最後にヴァルディア公爵家のご子息、レオン・ヴァルディア様」
一気に視線が集まる。
「はい」
俺は一歩前へ出た。
目の前には、教会の中央に置かれた大きな水晶。
表面には、何やら細かい紋様が刻まれている。
触れただけで情報を読み取る、鑑定器だ。
「手を置いてください」
神官に言われて、俺は素直に右手を伸ばした。
ひんやりとした感触が、指先に伝わる。
その瞬間、水晶の内側で光が走った。
次に、文字が浮かび上がる。
レオン・ヴァルディア
年齢:5
レベル:1
体力:120
筋力:98
魔力:88911
速度:87
耐久:95
器用:101
スキル
火魔法 Lv.1 才能S
水魔法 Lv.1 才能S
風魔法 Lv.1 才能A
土魔法 Lv.1 才能A
光魔法 Lv.1 才能S
闇魔法 Lv.1 才能A
固有魔法:万象
一瞬で、空気が止まった。
「……は?」
神官が、思わず声を漏らす。
「魔力が……八万九千……?」
別の神官も、目を見開いたまま表示を見つめている。
「いや、そんな数値……」
会場のざわめきが、少しずつ広がっていく。
平民の親たちも、貴族たちも、皆がこちらを見ていた。
ヒナが、信じられないという顔で俺を見る。
「坊っちゃま……」
セリナは、驚いた様子を見せない。
ただ、水晶に浮かんだ文字を静かに見つめていた。
ギアラはというと、驚くより先に笑っていた。
「ははっ。これはすごいな」
「父上、笑っている場合ではないでしょう」
「そうか?」
「そうです」
「でも、面白いだろ」
「面白いで済む数字ではありません」
「公爵家だからな」
「またそれですか」
そのやり取りに、少しだけ場の空気が和らぐ。
だが、誰も水晶から目を離せない。
神官が震える声で言った。
「魔力の平均は十ほどです。一般的な魔術師で五十、宮廷魔術師なら三百ほどになります」
その言葉に、周囲の人々が小さくうなずく。
「そして……」
神官は、もう一度表示を見た。
「ギアラ公爵閣下は、およそ千ほどでした」
一瞬、息をのむ音がした。
「千でも十分おかしいですけれど……」
「はい。歴代二位ですね」
神官はそう言ってから、改めて俺の数値に視線を落とす。
「ですが、レオン様は、そのさらにはるか上です」
ざわ、と会場が揺れる。
「八万……?」
「公爵閣下の何倍なんだ……」
「見間違いじゃないのか」
その中で、神官は次にスキル欄を見て、さらに言葉を失った。
「火、水、風、土、光、闇……全部あるのですか」
「そう見えますね」
俺が軽く答えると、神官はまだ信じられないという顔のまま、次にその横の表示を見る。
「しかも……才能が、SとAしかない……」
その瞬間、ヒナが小さく息を呑んだ。
才能。
この世界では、生まれつき決まるもの。
努力でどうにかなるものじゃない。
平均はE。これは鑑定には表れない
Dなら少し恵まれている。
Cなら優秀。
Bならかなり高い資質。
Aは、天才と言われる領域。
そしてS、これは一部の英雄が持つ最高クラスの才能。
そのことを知っているからこそ、神官の声が震えていた。
「火魔法はS、水魔法もS、風と土がA、光がS、闇がA……」
「……全部高い」
誰かがぽつりと呟く。
「固有魔法まである……」
その言葉に、俺は表示の一番下を見た。
固有魔法:万象
「万象、ですか」
神官は、水晶に浮かんだ「万象」の文字を見つめたまま、しばらく言葉を失っていた。
それから、ようやく息を整えるようにして口を開く。
「……万象」
その声は、さっきまでの事務的なものではなかった。
明らかに、ただならぬものを前にした声だった。
「万象の固有魔法を持っていた者は、歴史上ただ一人だけです」
会場が静まり返る。
「その方は、宮廷魔術師と同等の魔力量しか持っていなかったにもかかわらず、世界の魔術体系そのものを変えたとまで言われています。現代の宮廷魔術師は、この国ではもちろん、世界でも最高クラスの魔力を持つ者たちです。一般の魔術師が五十、宮廷魔術師が三百ほど。その三百という数値ですら、世界の頂点に連なるものです」
神官はそこで一度、言葉を切った。
「……ですが、その人物は万象によって、それを超える結果を残しました。魔力そのものは決して圧倒的ではなかった。それでも、現象を読み、崩し、組み替えることで、誰にも到達できない領域へ至ったのです」
そこで、神官の視線がレオンの表示へ移る。
「では、もし――その万象の持ち主に、これほどの魔力量があったなら」
しん、と空気が止まる。
「いったい何が起こるのか。私には想像できません。宮廷魔術師が世界最高クラスである以上、その上という概念自体が、もう常識の外です。そこへ万象が重なるなど……記録にも前例にもありません」
神官は、水晶を見つめたまま低く続けた。
「万象とは、現象そのものを扱う魔法です。火、水、風、土、光、闇だけではありません。空間、重さ、衝撃、流れ、干渉、結界、転移――それらを見て、分けて、組み替える力です」
一度息を呑み、最後に言う。
「世界最高クラスの魔力を持つ宮廷魔術師ですら、万象の前では一つの比較対象にすぎません。ましてや、レオン様はその遥か上です」
その場のざわめきが、まだ完全には収まっていなかった。
神官は、水晶に浮かんだ文字を見つめたまま、息を呑んでいた。
上層部へ急ぎの報告を飛ばす神官の声が、教会の奥へと消えていく。
「至急です。レオン・ヴァルディア様の鑑定結果が……」
「記録を残せ」
「大司教へ通せ」
「封印庫の準備を」
慌ただしい足音が重なって、教会の空気そのものが忙しなく揺れていた。
そんな中で、ギアラがふっと息を吐く。
「いや、これはすごいな」
その声には、いつもの軽さがあった。
けれど、どこか誇らしげでもある。
「父上……」
俺が視線を向けると、ギアラは腕を組んで笑った。
「魔力だけで言えば、俺を軽く超えている。しかも全属性に才能持ちか。悪くないどころじゃないな」
「……ありがとうございます、父上」
「褒めてるんだ。素直に受け取れ」
「承知しております」
ギアラは満足そうに頷くと、今度はセリナの方を見た。
セリナは、驚いた顔をしていなかった。
むしろ、当然のことのように俺を見ている。
「レオン」
「はい、母上」
「よくやったわ」
たったそれだけの言葉なのに、不思議と胸の奥が少し温かくなる。
セリナは続けた。
「あなたなら、きっと何かを持っていると思っていたけれど……想像以上だったわ」
「……そうですか」
「ええ」
それから少しだけ声をやわらげる。
「だから、無茶はしないでね。強いからって、何でもひとりで抱えこむ必要はないのよ」
その言葉に、俺は一度だけまばたきをした。
強いからこそ、無茶をするな。
それは、今の俺に向けられた忠告であり、たぶん、この先ずっと必要になる言葉でもある。
「はい、母上」
そう答えると、セリナは静かに微笑んだ。
そのやり取りを見ていたヒナが、小さく息を吐く。
「坊っちゃま、やはり特別です」
「そうかな」
「はい。かなり」
俺は水晶にもう一度視線を落とした。
レオン・ヴァルディア。
魔力八万九千。
火、水、風、土、光、闇。
そして固有魔法――万象。
神官たちは今も、慌てて上層部へ報告を続けている。
「記録は二重で保管しろ」
「鑑定内容はまだ外に出すな」
「王城にも知らせる必要があります」
「初代国王陛下の記録を確認しろ」
そんな声が飛び交う中、神官のひとりが震えた声で呟いた。
「これほどの魔力量に、万象……前例がありません」
別の神官がうなずく。
「宮廷魔術師の時点で世界最高クラスです。それを超える魔力で万象など……」
「いったい、どこまで行くのか……」
その言葉が、妙に耳に残った。
どこまで行くのか。
どこまで行けるのか。
前世の俺は、何かを成し遂げた人間じゃなかった。
けれど今は違う。
この世界で、最初からとんでもない力を持って生まれてきた。
しかも、それだけじゃない。
前世でやり込んだゲームの知識もある。
誰が危険か、どこで事件が起こるか、どうすれば死ぬのか。
それを知っているのは、たぶん俺だけだ。
なら、やることはひとつしかない。
俺は静かに息を吸った。
そして、水晶を見つめたまま、心の中で決める。
絶対に最強になる。
この世界で、もう誰にも負けない。
そして――
生き残る。
どのルートでも死ぬなら、そんな運命、こっちから壊してやる。
不運でも、死亡フラグでも、全部まとめて踏み越えていく。
「……この運命、攻略してやるか」
小さく呟いたその言葉は、ざわつく教会の中で誰にも届かない。
でも、自分の中でははっきりしていた。
俺はこの世界で、絶対最強になって、生き延びてやる。
今推してくれたら最古参です!
応援よろしくお願いします!!




