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89、チビ魔女ブランでめろめろ大作戦!

タイトル長っ!

あー、なんかもうイヤー。

あたしは廊下の天井を一度睨み、大きく酸素を何度も取り入れた。


すーはーすーはー。

謝罪、陳謝、謝れば謝るとき謝るべし。

……ってかあたしだって随分と酷い目にあった気がしない?

いやいや、こういうのがいけないのだ。反省! 反省しています、ハイ。

反論とかはナシで。もうひたすら謝れ。うん。


あたしは思いきってエイルの私室。いつもの扉をノックした。

「なんだ」

扉の向こうから不機嫌大王の(いら)えを受ける。あたしはもう一度深呼吸を繰り返し、頭の中に反省と陳謝を並べ立てた。


一に謝り、ニに陳謝、三、四がなくて、とりあえず愛想笑いで乗り切れブランマージュ!

【チビ魔女ブランでめろめろ大作戦!】決行だ。

この完璧な作戦に穴はナイ!


 かちゃりと扉を開き、

「あのね」

顔を出した途端、エイルはなにやら持っていた陶器の器を落とした。


「ブランマージュ!」


「……はい?」

「何故、その姿をしている?」

「えっと……」

「ブラン」


謝るのが先じゃないのか? っていうか、あのですね。

足元、陶器が割れてますよ? あんたそれで歩いたら――ほらっ、莫迦っ、

「つっ――」

すっと一歩進んだ足が、割れた陶器の破片を踏みつける。室内用の軟な靴はそんな破片を容易く貫通させ、エイルは珍しく小さく呻いた。


「何してんのっ」

「それよりっ」

「ボケナスっ、ほらっ、そこ座んなさいよっ」

室内にあるソファに追いやり、砕けた破片はさっさと転移させて処分する。やつの靴を剥ぎ取り見れば、ぐっさりと刺さった破片に顔をしかめて手をかざした。

破片が抜き取られた場所、血を拭い取り傷口を綺麗に閉ざす。多少の意地悪でぐっと押して怪我の具合を確かめて、ふと顔をあげればエイルは複雑そうな顔でこちらを見ていた。

「ブランマージュ」

問われるより先に口を開いた。

先手必勝!

言ったもの勝ちよ。

「ごめん! 昨日は本当に悪かったわ。あんなに怒るとは思わなかったの。もうあんなこと言わないからっ」

すっごい反省してます。ごめんね? もう怒ってない?


どのへんがあんたの逆鱗に触れたのか判らないんだけどね。


食べられたが悪かったですか?

食べただったら良かったですか?


でもそこを言えばまた怒り出しそうです。

反省してますっ。

耳を伏せてきっちりと頭をさげるあたし。

ほら、猫耳もちゃんと伏せてるし反省の色も濃厚でしょ?

チビ魔女の格好は愛らしいでしょ? 

小さな子供がここまでしているんだから、幼女趣味としてもう許しておけ。


「私が何に対して怒ったのか理解しているのか」

冷ややかな言葉に、ぴくっと肩が震える。

「……軽率、でした」

いや、まったく、判らないです。

そりゃ、怒るだろうとは思ったわよ? でもあそこまで怒るとは思わなかったもの。

どのあたりが逆鱗に触れましたかね?

「ブランマージュ」

怒気を含む口調。

あたしは益々耳を伏せて、小首をかしげて精一杯口元に笑みを浮かべた。


の、悩殺ってどうすればいいのよ!

上目遣い? 流し目?

うおぅっ、オトナブランだったらしなだれかかるとか、耳元で囁くとか? うわ、チビブランでそれはちょっと無理よ? オトナブランだって難しいのに。

あたしはエイルの膝に小さな手を添えて「ごめんね?」とエイルをみあげてみる。


の、の、悩殺?

「ダーリン、怒っちゃイヤ」

「――」

――もうあたしのこと愛してないの?

って、これは駄目だな。なんか怒りを買いそう逆にね。

えっと、ええっとですね。

あああ、【チビ魔女ブランでめろめろ大作戦!】もっとちゃんと練りこむべきだった。少なくとも悩殺ポーズとか悩殺台詞を!

もしかして作戦段階で失敗!?

完璧な作戦だとおもっていたのに、穴が。こんなところで綻びが!?

もしかして穴だらけ!?


もうなんだか泣きそう。

(まなじり)辺りが熱に潤んできそうだ。もう悲惨。

半泣き状態でエイルを見上げ、あたしは必死に口を開いた。

「あのね、あのね……ダーリン、もう……」

あぅぅ、何をどういえば許すのだ?

もう許しておけ。

勘弁してやって。

こちとら幼い娘さんだからね。

「まったくおまえの愚かさは腹立たしい」

エイルが吐息交じりに薄い唇を開いた。


ぴんっと、耳が引かれる。

けれどその引き方は弱く、ほんの少し引っ張る程度。

唇の隙間から呼気を落としこみ、あたしを引き寄せ、自分の膝の上に引き上げる。


えっと……

これは逆らっちゃまずいのよね?

でもなんだかすごく居心地が悪い感じなんですが。

「もうくだらぬことを言わぬな?」

幼い子供に言い聞かせるが如くの穏やかな物言い。

先ほどまで感じていた刺々しさは薄れていて、あたしはやっと安堵の息をついた。

あたしはこくこくとうなずいた。

その拍子に(まなじり)にこんもりと盛り上がってしまった涙粒が頬を伝い落ちる。

エイルの手があたしの頬に触れて、それを親指でなぞりあげ、そのまま顎下に触れる指で軽く顔を持ち上げられる。視線がかち合うとなんだか居心地の悪さが更に増した。


えっと?


「あの……」

「もうよい――黙れ」

黙れといわれましても、ですね?

なんだか黙ってちゃまずいような気がするのです。よ?

とりあえずこの膝の上から立ち退こうとエイルの胸に手を当てて体を引き離そうとしたところで、強く引かれて額に、(まなじり)に冷たい唇で触れられる。

「……あのっ」

咄嗟にあげた声の為に顔が上向き、そのまま――言葉ごと飲み込まれた。

目を見開いたあたしと違い、間近にあるエイルの顔は瞳を伏せていて、睫の長さに息を飲んで、あたしはあたしは――


これってキスとかいわないか!?

魔力の受け渡しとか、そういうのとは違うよね?

あたしの勘違いじゃないよね!?

勘違いは恥ずかしいからさっ。

いや、えっと、ええっと!?


ざぁっと血の気が引き、もがこうとするのだが触れ合った唇は容易く離れないし、エイルは更に行為を深めるようにあたしを抱きこもうとする。

ちょっ、まて、まていっ。


 斜めに触れた唇の柔らかさとか、上唇を吸われる感覚。血の気が引くのか背筋をなぞる奇妙な感覚があたしの意思を奪いそうになる。

逃れようともがけばその逃げ場をふさがれ、吐息が……自分の吐息が口から漏れれば、信じられないくらい弱々しく甘い悲鳴のようで、自らの下半身がざっと冷えた。

どう酸素を取り入れてよいのか理解できなくて、やっと唇が外れたと思えば酸素を求めるあたしを笑うようにエイルが喉の奥を鳴らし、唇の端から零れた唾液を、エイルの唇が啄ばむようになぞる。

かぁっと羞恥が背筋を這い登った。

体温があがったり下がったり、奇妙な違和感が体内をぞろりとなぞりあげていく。


そりゃ、確かにあたしはあんたを篭絡するつもりで参りましたよ。

【チビ魔女ブランでめろめろ大作戦!】でした。ある意味これってば作戦成功、いやぁ、良かったね?

って、良くないだろうが!

いいか、何度もいうがあたしはチビなんだ。イタイケな幼女なんだよ。

それに手を出すのは人間として――……


「そろそろ良いか?」


ぱんぱんっと乾いた手を打ち鳴らす音が響き、エイルがぴくりと反応する。

あたしを抱く力を強め、唇を引き離したエイルは壁に背を預けて立つ男に冷たい眼差しを向けた。


「気が利かないな」

「驚かんのだな、魔道師」

「どんな愚かものでも予想がつく――」


あたしはやっとわずかな自由を手にいれ、ふるふると小さく震えていた。

大きく動くこともできず、激しい虚脱感に囚われる。

怒りとかそういう段階など軽く突き抜けて、指先が小刻みにふるえる。

このさい二人の会話など無視だ、無視。


エイル!

エイル・ベイザッハ!


この幼女趣味!!

おまえぇぇぇ、これは犯罪だぞっ。

確かに悩殺だとか陥落だとか言ったがなぁ、本気で手を出すのは犯罪です!

幼女趣味(ロリコン)は犯罪で、変態だ!

変態っていうのはな、変態性欲の略称で、つまり、えええっと、何が言いたいのか判らなくなってきたけれど、人道に劣る行為は絶対に駄目だったら。


顔がいいからって何でも許されると思うなよっ!

絶対に駄目だ!!


おまえは世の中のイタイケな幼女の、ひいてはこのチビ魔女ブランマージュの敵か!?

……ブランマージュは21歳だと自分で思い出したほうが良いと思われる。

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