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37、じみーに働いてます

「――あたしさぁ、なんでこんなことしてんだろうね?」


 自分の町から東に位置する巨大な泉、そこのゴミを拾ってますが、なにか?


「絶対に魔女の仕事じゃないわよ!」

ビーバーがダムを作ってせき止められた川が決壊し、その勢いのままに木々をなぎ倒し、今は泉に木っ端などが浮かんでいる。


この水は近隣の町の貯水だそうで、飲み水になる。

だからと言ってもなぜにあたしがその水を綺麗にするためにゴミ拾い。


「いいんだけどね!

でも絶対に自分の町じゃできないわっ」


恥ずかしくって!


 あたしは「魔女っ子」なふりふりスカートでぶりぶり言う。

その言葉に合わせて尻尾が左右に揺れるのが憎らしい。

 そして、この場で同じく水の浄化作業に当たっている不機嫌な魔導師が一人。

 ちなみに使い魔はいません。「ぼく家事がありますから!」って、本当に使えないのだった。

 あの馬鹿ときたら何だかんだと理由をつけてすぐに家に帰ってしまう。きっと夜行性のサガで思いっきり寝てるんだろうけどね。


「意外に似合ってるじゃないの、ダーリン」

「おまえもな」


 冷ややかに言うエイル。

彼も現在率先して罰則に励んでいる。


 魔女裁判って怖いんだよねぇ。

 あたしも幾度か見たことがあるけれど、時には馬の姿で数ヶ月労働とかっていう屈辱を与えられる罪人もいる。

 まぁ、魔女裁判なんて特殊なものに掛けられるのは大抵魔導師だけどね。

考えてもみてよ、馬よ?

発情期にでも入ってたら目も当てられないわ。

ま、魔女って質悪いから、その姿を見て笑ってたと思うけどね。

 それに比べれば、エイルはエイルの姿で作業に当たれるのだから幸いだ。


 本来魔女は人間のことに関与はしない。

ただし、魔女、魔導師、魔に対してはその限りではない。

何故なら魔女はこの世界の魔力の柱だから。


一番偉いのだよ、魔女は。


 あたしは魔力で水底のヘドロをさらさらの砂にかえながら、あふりと大きく欠伸をした。

「体は探してるんだろうな?」

「……探してはいるんだけどね」


手がかりは皆無。


「そもそも、あの時あたしの体に一番近くにいたのはあんたじゃないさー」

あたしは愚痴っぽく言ってしまった。


「このまま体に戻れなかったら、あたし一生猫かなぁ」

「安心しろ」


 ふいにエイルがそんなことを言う。

あたしが振り返ると、エイルは淡々と浄化作業をしながら言った。


「最近の猫の平均寿命はせいぜい五年だ」


……


「猫でいる期間など短いものだろう」


 そいつはどうも。

希望がもてる発言ですね?


「あーっ、もう早く人間に戻りたいよーっ」

 あたしは魂の底から叫び、ついでに邪魔臭かった流木を木っ端微塵にした。


「あーん、ビーフシチュー食べたいっ」

「うるさい」

「ポトフー」

「やかましい」

「ビーフストロガノフーっ」


エイルは水の浄化を済ませ、ふっと手を振り払い、前髪をかきあげた。


「食わせてやるから早くやれ」

「あーん、ダーリン愛してるっ」

「無駄口をたたくな」


 でもダーリン。

なんであんたは魔女裁判になんか掛けられたの?

魔女裁判なんて、実は結構特殊な事情じゃなくちゃ開かれないのに。

魔導師と魔女が喧嘩した程度、魔女は気にもかけないものなのに。


 あたしだってあれから少しだけ魔女の理の書に目を通したのよ?

魔女は例え人間に殺されたとしても報復活動になんてでやしない。魔女はこの世界の柱と呼ばれているけれど、それでも報復活動はしない。


――それって判るのよ。

もっと大本なトコはさ、色々と理由があるんだけど、魔女も結局人間でありたいの。


魔力の源。

魔力の結晶。


 けれど、ヒトでありたいから、ヒトとは争わない。

ヒトによって裁かれる道を選ぶ。

 もっと大事な理由はちゃんとあるけど――でもやっぱり根本のところで魔女はそう思っているのだとおもうのよ。


――ダーリン。

魔女はね、ヒトなのよ?

知ってる?

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