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32、猫まっしぐら

「猫のメシなど無い」

きっぱり言う相手に、阿呆かと返す。


「当然人間のディナーよ。魚ばっかり食べてたからお肉がいいわ。骨付きの鹿肉にたっぷりと赤ワインを使って作った濃厚なソースがのったヤツ」

「……」

「デザートは生クリームを使ってね。

あの家ってばどれもこれも薄味なんだもの。時々こっそりロイズが味付けの濃い自分の食べ物をわけてくれるのだけれど、それに侍女が気づくと次の食事がものすごーく味がうっすい健康食になるの!

 不健康バンザイ、高カロリーウェルカム!!」


カロリーは美味しい!


 冷ややかな灰黒の眼差しは相変わらず殺人光線を垂れ流していたが、無表情で部屋を出て行き、やがて戻ったエイルはトレーの上に鹿肉ならぬ鳥肉のソテーとワイン、サラダとパンという代物をテーブルにおいた。


「鹿肉は明日にしろ」


……いがいに親切ね。


 あたしは歓喜して、とてとてとテーブルの上に飛び乗った。

いっただっきまぁーす。

とやろうとしたところで、無造作につかまれて魔方陣へと放り込まれ、上からタオルを掛けられる。


 途端に魔道式が完成し、魔道が発動する。

緑の光の洪水があたしを飲み込み、猫だったあたしの体が人の子供―――十歳前後に変化した。


ばふりとタオルをかぶった格好。


「乱暴ね。あたしはじめてなのよ、優しくしてくれないと……」

 はにかんで見せた途端、エイルはぶらさがっていた蝙蝠を引っつかみ、壁へとたたきつけた。


さすがに十前後の小娘に乱暴を働くことはできなかったか、ばーかーめ。


あたしはタオルをかぶった格好のまま、きょろきょろと辺りを見回した。

「何か着るもの無い?

ダーリンのシャツとかでもいいんだけど。このちっこさならシャツ一枚で膝まで隠れるわよ。男ってそういう格好にくらくらしちゃうんでしょ。

 ああ、安心して。あんたの家人の前でそんな姿を晒したあげく、あたしイヤだって言ったのに……なんて暴言はかないし」


「貴様は本気で捻られたいのか」

「言葉が悪いわよ、ダーリン。

貴様、なんて。今までは愛情こもったおまえだったのに。長年連れ添った夫婦みたいで素敵だったのに、貴様なんていっちゃ、いや」


心持ちうつむきかげん、上目遣いで頬を赤らめるのがポイントです。


 ををっ、部屋の温度が低い。

ぴりぴりと何かが突き刺さる。


「使い魔」

エイルは低く地の底から這い上がるような声であたしの使い魔を呼ぶと、

「この虚けの着るものを用意しろ」

「はーい。って、ぼくはエイルさんの使い魔じゃないのにっ」

 ぶつぶついいながら蝙蝠は窓から飛び立った。


さて、それでは気を取り直し、あたしはタオルを羽織るようにしていそいそとテーブルについた。

「いっただっきまーす」

 鳥っていうトコがちょっと不満。

今朝のご飯はササミだったしね。


で も、何よりナイフとフォークで食事って、とても人間的。

顔面を皿に入れるようにして食べることなどしなくて良いのだ。


 忌々しいという様子であたしを睨んでいたエイルだが、あたしの食事風景を眺めていても楽しくはないのだろう、おもむろに自身の机の上にあった書類へと手を伸ばし、仕事に没頭するつもりらしい。


もぐもぐもぐ。


 むむむ、一人での食事ってわびしいわね。

最近めっきりロイズと食事していたから妙な感じ。

ま、相手はテーブルであたしは床でしたけれどね!

 一度あのでっかい犬といっしょに皿を並べられたのだけれど、あの犬! あたしの分の食事を二口で食べてしまったものだから、以来侍女も犬とは別に食事を出してくれるようになった。

 毎日あんなことされたら飢えてしまいますよ?


むぐむぐむ……


 黙々と食べるのに、飽きる。

いや、美味しいけどね。


 あたしは丁寧にソテーを一口大に切り、フォークに突き刺さった鳥を眺め、にんまりと笑んだ。

とととっとエイルの前に回りこみ、


「はい、ダーリン、あーん」

御口をあけて下さいませぇ。


「――」

しばらく冷ややかな眼差しでこちらを見ていたエイルだが、半眼に閉じた眼差しがいつもとは違う感情を示した。


「つるぺた」

 ハっと息を飲む。

肩からひっかけてあるだけのタオル。

ちゃんと押さえていなければ、正面から丸見えだ。


 きぃぃぃ。

つるぺたなのは当たり前だっ!

こちとら十歳(不明)の小娘なのだからなっ。

ってか、おまえよくそんな台詞言えるな。

顔を裏切ってるぞ!


ぷりぷりと怒り、あたしは乱暴な足取りでテーブルへと戻った。


好きでこんな格好してんじゃないやい。

「マスター、お待たせしました」


おそいんだよ、この使い魔!


 あたしは洋服の入った袋をぶら下げて戻った蝙蝠を半眼で睨み、食事をそのままに着替えることにした。

「ダーリン隣の部屋、借りるわよ」

 続き部屋になっている扉を示し、あたしは相手の了承など耳にいれずにさっさと入り込んだ。

 

 寝室かとおもったそこは書庫で、数々の本が棚に並び、つまれている。

エリィフィアの家にもこんな書庫があって、よく似ている。


ちなみにあたしの家にはこんなに無いよ?

だって文字読むのキライだし。


あたしは本の上にぱさりとタオルをおろし、袋の中身をさかさまにした。


ぱんつ。

あたしの好きな黒いぱんつ。

なんといっても悪い魔女は黒よね。


でも、ぱんつ。

……あたしはね、パンティって発音はちょっとキライなのよ。だから、パンツ。世の中にはショーツって単語もある訳だけど、いいのよ、ぱんつで。

でもさ、この――後ろに白い猫の模様が入ってるあからさまな「お子様ぱんつ」はどうだと思うわよ?


 ひくりとひきつりつつも、それでも着る。

もういい。とりあえず着替えは大事よ。


 びろんっとぱんつの端と端を持ち、両足を入れる。

腰にまで引き上げ、あたしは何かつっかかるのを感じた。

「あれ?」


後ろで引っかかる。


あたしは眉を潜め、体を捻った。


 はたはたと動く白い尻尾に、あたしは「しっぽーっっ!?」と悲鳴をあげた。



はい尻尾ついた。

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