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不老の魔女と名無しの旅人  作者: きりくま
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無知な旅人


 「じゃあ2人は父親の店の手伝いを?」

 「まぁ、そんな感じかな。冷めないうちにどうぞ」


 ライと名乗った男性は苦笑いを浮かべて料理を次々に置いていく。

 これほどの量を払える金は無いのだが、彼ら曰『初の亜人種のお客様記念サービス』との事。

 若干気は退けるが、その好意に甘える事にした。

 フロウは上機嫌で料理を口に運び、隣に座るパルシィも同様に満面の笑みで数種類の虫達を次々と口に運んでいく。

 妹のルイはその光景に目を輝かせつつ、ペンを走らせる。

 

 「亜人種ってそんなに珍しいのか?」


 対面に座ったライに尋ねる。


 「珍しいっていうか、彼等も人間との交流は避けてるからな。それに亜人種の領土は王国領からは距離もあるし。まぁ、公国とは仲良くやってるみたいだけど」

 

 そうなのか。と、料理を口に運ぶ。

 おぉ、美味い!

 フロウの言った通りだ。

 飯屋は外観じゃないな。

 勝ち誇ったかのように横目でこちらを見る彼女に、はいはい。と、小さく頷く。

 

 「ところで・・・あんた達はどうしてこの町に?魔獣狩り?戦争?観光?」

 「いや、少し事情があって旅をしてるんだ。・・・魔獣狩りって?」

 「え?旅してるんだよな?魔獣と会った時どうしてるんだ?」

 「どうって?俺達は『エルトカルド』から来たばかりで会った事無いんだけど・・・」

 

 本当は1度だけあった事はあるが・・・あれは遭遇戦というよりも『奪取』が連れてきたから関係は無い事にしておこう。

 暫し考え、彼は納得したように頷く。

 

 「そういう事か。あの国出身なら納得だ」


 そう言うと彼は壁にかかった地図を指さす。

 『エルトカルド』は本大陸から距離がそれなりに離れている島国。

 灰の影響を全く受けていない訳では無いが、この大陸と比べるとその影響は少ない。

 それ故、魔獣への変異が少ないのだという。

 逆を言うと、この大陸『マーハワーナ』ではその影響がかなり出ている。

 あらゆる生物が灰の影響を受け、変異。

 原種もいるにはいるが、圧倒的に変異した魔獣の方が多い。

 魔獣の行動原理は様々だが、共通点が1つ。

 他の種に対する攻撃性。

 人間だろうが亜人種だろうがエルフだろうがドワーフだろうがオークだろうが関係ない。

 魔獣はその目に映る他の生物を攻撃する習性をもつ。

 それは同じ魔獣という同じカテゴリーでも同じ事。

 魔獣狩りとは町からの依頼でそれらを狩って生計を立てている・・・いわば狩人みたいな存在。

 魔獣は脅威だが、生活には欠かせない。

 肉は食えるし、皮や骨や角も加工すれば武器や防具に変わる。

 魔獣狩りは双方にとって利のある仕事。


 「しかし・・・食料や武具に加工するとは言っても、魔獣だろう?灰にしてしまうんじゃないのかい?」


 これまで無心で食事をしていたフロウが尋ねる。

 ライは何度か瞬きをし・・・笑いを零す。


 「・・・ははっ!いやいや、それは確かにそうだけどさ・・・そんな事出来るのは魔女くらいだろ?その辺で売ってる魔装品程度じゃ、魔獣を灰化させるなんて出来ないだろ?」

 「・・・ははっ、確かにそうだね。失礼失礼。真剣な話に割り込んでユニークな一面を見せるのが私の癖な物でね」


 軽く笑い、彼女は再び食事を続ける。

 

 「・・・ところでさ、あんた達は『エルトカルド』から来たんだよな?」

 「ん?あぁ、そうだけど?」


 他に客などいないというのに、彼は声を落す。


 「聞いたぜ?あの話。帝国の魔女が侵攻して返り討ちにあったんだろ?なんでも向こうにも魔女がいたらしいじゃないか・・・それも2人も。あんた達は見たのか?」

 「あ~いや・・・見たというか、あれは―――」


 瞬間―――口の中に何かを突っ込まれる。

 

 「おや?ナナシ君。食が進んでいないじゃないか。駄目だよ?ちゃんと食べなきゃ。この料理は精がつく物ばかりだ。ここのところお疲れの君には丁度いい。ささっ、お姉さんが食べさせてあげよう。遠慮は無用だ。どんどん食べてくれたまえ」


 次々とナナシの口に料理を詰め込みつつ、フロウはライに視線を向ける。


 「あぁ、さっきの魔女の話だが・・・すまない。残念だけど私達は見ていないんだ。私達が港に着いた頃にはすでに戦いは終わっていてね。無理を言って船に乗せてもらって来たから向こうの国の事情はよく分からないんだ」

 「そ、そうなのか・・・。っていうか・・・そいつの口にもう入らなくないか?」

 「心配無用さ。君が作ってくれたこんなにおいしい料理を食べないなんて罰が当たる。それに彼はこう見えてもかなりの大食漢でね。気がついたら空腹になってるから食い溜めも必要さ」


 自分がした質問の答えにはなっていないが、ライは苦笑いを浮かべてそれ以上の追及はしなかった。


 「と、ところで・・・だ。あんた達はこれからどうするんだ?どこかに向かう予定でもあるのか?」

 「あぁ、私達はこれからドワーフの国を経由してエルフの国に向かうつもりさ」

 「ドワーフの?・・・うーん、それは少し待った方がいいかもな」

 

 歯切れの悪い物言いとその表情に首をかしげ、聞き返す。


 「うん?どうし―――」


 その言葉を遮る様に勢いよく扉が開き、1人の男が現れた。


 「・・・うん?何で亜人種が人間様の敷地内にいるんだ?」


 瞬間―――フロウの表情が僅かに険しくなる。

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